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白日陰影

箱詰系、拘束系の18禁小説を書いています。関連の同人・版権作品のレビューも書きます。18歳以下の閲覧禁止。

バキュームチューブで一緒に逝くふたり

でぃれに様からのご依頼で執筆したものです。
呼吸制御と百合と心中をバキュームチューブで包んだ逸品です
わけがわからないかもしれませんが大体この通りの内容ですーwー

※呼吸制御と死ネタなので、耐性がない人はお気をつけください。

つづきからどうぞ
バキュームチューブで一緒に逝くふたり


 些細なことから同性愛であることが周囲に知られてしまった私の恋人のノリコは、それが原因で仕事を辞めざるを得なくなりました。

 マイノリティに寛容になったと言われる現代で、そんな差別的なことが起きるわけがないと思われるかもしれませんが、事実です。
「何が子供に悪影響よ……少数派を排除するやり口こそ、よっぽど悪影響じゃないのよ……!」
 そう恨み言を呟き続けるノリコは、随分酔っているようでした。
 彼女はお酒に強く、私と一緒に飲んでいる時でもそう簡単には酔わないのですが、今日は精神的にも弱っているせいか、お酒が早く回ってしまっているようです。
 あることないこと噂され、身に覚えのないことで蔑まされれば、憤りたくなるのも仕方ないことです。私はうんうんとノリコの恨み節に賛同し、頷きます。
 ノリコが全ての心の膿を吐き出せるように。
 それが恋人であり共に生きるパートナーである私の役割でした。
「女の子に欲情するかも? それなら、あんたたちは男の子相手に欲情してんのかって話よ!」
 どん、とビールジョッキを机に叩きつけるように置くノリコ。
 机がグラグラと揺れて、危うくおつまみがこぼれ落ちるところでした。私はその崩落をさり気なく防ぎつつ、ノリコの言葉に深く頷きます。
「恋愛対象が同性ってだけで、同性ならだれでもいいってわけではないんですけどね。異性愛者が異性なら誰でもいいわけではないように」
 それは当たり前のことでした。
 そもそも、相手の意志を無視して自分の想いや気持ちを押しつけるのは、相手が同性だろうと異性だろうとやってはいけないことでしょう。
 簡単なことなのに、同性愛だけ誰でも構わず欲情すると思われていて、しかもそれを抑えられない獣という扱いを受けるのは正直納得がいきません。少なくともノリコと同じ同性愛者である私はそう思います。
 私の賛同に対し、ノリコは深々と頷きました。
「そうよ! 私はサオリだから好きなの! 愛してるの!」
 いきなり愛の言葉を叫ばれて、私は思わず動きを止めてしまいます。
 普段のノリコは、ストレートに愛の言葉を口にするタイプではありません。行為の最中はともかく、それ以外では割と落ち着いた態度を貫いているタイプでした。少し恥ずかしがり屋なところがあるので不満はありませんが。
 まあ、正直少し寂しい気もしていましたが、それが彼女らしさでもあります。
 しかし今日は荒れていることと、酔っていることもあって、珍しく率直に私のへの好意を口にしてくれます。
 いつもとのギャップで、今度はこっちが少し気恥ずかしいですが、悪い気はしませんでした。突然の愛の宣言の衝撃から回復した私は、笑顔を意識して彼女に言葉を返します。
「私も愛してますよ、ノリコ」
 心からそう返すと、さっきの私と同じようにノリコはぴたりと動きを止め、自分が堂々と愛の言葉を口にしたことを思い出したようです。その頬が酔いのせいだけではない赤みを帯びていくのがわかります。可愛い。
 気恥ずかしさを誤魔化すようにジョッキグラスを口に持って行き――すでに飲み干していて空であることに気付いて、ふらふらと彷徨いました。
 心中の動揺が行動に思いっきり表れています。
「ふふっ」
 そんなノリコが可愛らしすぎて、思わず声をあげて笑ってしまいました。
 誤魔化すことに失敗したノリコは、益々顔を赤くして、ジョッキグラスで顔を隠してしまいます。
「……ありがと」
 ぽつりと呟かれた言葉。
 ノリコの言動の何もかもが愛しく感じてしまいました。
 私は机を挟んでノリコの対面に座っていたのですが、ノリコの隣に移動します。
 そして、有無を言わさずノリコの唇に自分の唇を重ねました。
「ん……っ」
 ノリコは私の行動に少し驚いたものの、素直に応じて舌を絡めてくれます。ちょっとビールとつまみの味がしましたが、お互い様なので気にしないように努めました。
 お酒を飲んでいるからということもあるのでしょうが、ノリコの体温は私よりかなり高めです。合わせた口からじんわりと熱が私の方に伝わってくるのを感じます。
「ん、ぅ……」
 私は舌を伸ばしてノリコの口内を探るように動かします。それに対し、彼女は舌を使って私の舌を絡めようとしてきました。
 唾液が混ざり合うのを感じます。ねっとりとしたノリコの舌に、自分の舌が擦り上げられ、舌の裏の筋を刺激されて思わず身体が跳ねてしまいました。
「う、むぅ……っ」
 ノリコの舌の動きは的確で、私をその動きだけで気持ちよくさせてくれます。普段はノリコの方に主導権を握られっぱなしなのですが、今日は私も彼女を気持ちよくさせてあげたくて、必死に舌を動かしました。
 そんな私の意図は、彼女にも伝わっているのでしょう。嬉しそうに目を細めたのが見えました。熱い吐息が私と彼女との間で交換されます。
 暫くそうやって口付けを交わした後、私とノリコは並んでソファに背中を預け、寄り添うようにして手を絡めます。
 暖かなノリコの体温が伝わって来て、とても心地が良い感触でした。
 彼女はとろんとした顔で私の方にその頭を預けてくれています。私はそんな彼女が可愛くて可愛くて仕方ありませんでした。
「こんなに可愛くて一途なノリコを辞めさせるなんて、園長は見る目がありませんね」
 ノリコは保育士として、真面目に務めていただけです。
 子供達の人気も高く、保育士としては間違いなく優秀でした。
 そんな彼女に対して園長は、「同性愛者であるという噂が保護者に広まってしまい、園のイメージを損ねるから辞めて欲しい」と言外に求めたというのですから、本当に世の中の無理解は腹立たしいものです。
 ノリコは昔から保育士になるための努力を続けていました。
 幼い頃の憧れを夢のままで終わらせず、苦労して資格を取って保育士になれたと喜んでいたのに。
「許されるのなら、園長をぶん殴りに行きたいですよ」
「許されないからやめようね」
 正直な本音を口にしたところ、即座に止められてしまいました。
 本当はノリコの方こそぶん殴りたいでしょうに。
 そんなに風にちゃんとした倫理観もあるノリコが一方的に追い出されたのは、やはり納得がいかないものがあります。
「これから、どうしようか……」
 ノリコは溜息を吐きながらそう呟きます。
「まだ貯蓄はありますが、時間の問題ですね」
 ノリコが保育園を辞めさせられたことで、私たちは社会との繋がりを断たれたような気持ちでした。
 私はとある派遣会社に所属して働いていますが、いまはほとんど仕事がありません。
 その理由は、実はノリコと同じです。
 同性愛者であることが、周囲に知られ、干されてしまったのです。
 同性愛は病気でもなければ、ましてや人に移る類いのものでもないというのに、まるで病原菌のような扱いを受けました。
 所属していた派遣会社の仕組み上、同僚であっても同じ職場に赴くことはあまりなかったのですが、同じ会社に所属する者同士の仲間意識くらいはあったはずです。
 なのに、同性愛者は仲間ではない、と言わんばかりの露骨な態度を取られてしまい、正直来るものを感じたものです。
 いま現在、会社からは「現在割り振れる仕事がない」という、明らかに嘘で不誠実な理由で放置されています。
 法的に訴えれば勝てるとは思いますが、そんな気力も湧かなかったというのが正直なところです。
 私は子供の頃の夢を叶えたノリコと違って、仕事はあくまで生きていくための、お金を得るための手段としてしか思っていませんでした。ですから会社に拘ることはなかったので、別の職場を見つけるために色々と動いてはいました。
 ですが、不景気のせいもあって、ろくな仕事らしい仕事がなく、しばらくは貯蓄とノリコに頼って生きていくしかない、と思っていた矢先の出来事でした。
 少しは同性愛にも寛容な社会になってきた、とネット上では言われていますが、少なくとも私たちの周りはそうではなかったのです。
 この先、果たして私たちが生きていける新天地があるのか――わかりません。
「……ノリコは、再就職とか、目指します? あるいは不当な解雇をしたということで裁判を起こすという方法もありますが」
 私はまずそう聞きました。保育士になりたいという夢を持っていたノリコは、まだ諦めていないかもしれません。
 もしそうであるなら、できる限りの協力は惜しまないつもりでした。
 しかしノリコは、悲しそうに顔を歪め、首を横に振ります。
「たぶん無理ね。辞めさせるために、あることないこと噂にされたから、どこも雇ってくれないし、仮に遠くで保育士になれても、いつその噂が届くかもしれないと怯えてビクビクしながら務めるのは無理。裁判も勝てるかもしれないけど、仮に勝ったとしてもその後が難しいわ」
 世論を味方につければ勝てるかもしれませんが、それは同性愛であることを広く知らしめることと同義です。そうなれば保育園に再就職は難しいでしょう。
「そうですね……その可能性は、否定出来ませんね」
 やはりノリコの務めていた保育園の園長は、一発ぶん殴った方がいい気がして来ました。保育園としての体裁もあるのでしょうけど、人を貶めることが許されるわけがありません。
 とはいえ、無理解で非寛容な人々のことを考えても仕方ありません。
 私が考えるべきは、愛するノリコのことだけなのですから。
 幼い頃からの夢であった保育士の道を断たれたノリコは、生きていく気力を失ってしまっているようでした。
「ノリコ……」
 そんな彼女に『その提案』をしても良いものでしょうか。
 私は口を開きかけたものの、躊躇してしまいます。
 弱みにつけ込むような形になってしまうのではないかと思ったからです。
 しかし。
「ねえ、サオリ。提案があるんだけど」
 ノリコは私が思っていたよりも、遙かに世の中に対して絶望していたようです。

「私と一緒に――死んでくれない?」

 率直なノリコの言葉に、思わず背筋が震えるのを感じました。
 それは恐怖や忌避感からの震えではありません。
 興奮と歓喜から来る、震えでした。
 なぜなら。

「ノリコが望むなら、喜んで」

 私がしようと思っていた提案も、それと同じだったからです。
 私の言葉を受け、ノリコは安心したように微笑むと、部屋の奥から大量の荷物を引っ張り出して来ます。
 ノリコが取り出してきた大量の道具――それはいわゆるSMプレイに用いるものばかりなのでした。
 そしてそれらの道具は。

 呼吸制御プレイに用いる道具が大半を占めていました。

 並べられた凶悪な道具の数々を見て、私は思わず呟きます。
「……これに関しては、子供に悪影響を与えると言われても――会社の同僚に引かれても、反論できないですね」
 私が正直なところを口にすると、ノリコも同意見なのか、力無く笑います。
「まあねえ。サオリ以外の誰にも言う気はないけれど」
 それは私も同意見でした。
 私たちは誰彼無しにこのことを話すような考え無しではありません。危険なプレイの愛好家として、それくらいの分別はあります。
 呼吸制御プレイは一歩間違えたら死ぬ、死ななくても一生影響が残る可能性がある、とても危険なプレイです。
 緊縛における吊りのようなもので、正しい手順と互いの深い信頼関係がなければ、決して手を出してはいけないプレイの一つと言えるでしょう。
 呼吸を制御するということは、脳への重篤なダメージが生じうるからです。下手なプレイは吊りよりもよっぽど危険なのですから。
 そんな危ういプレイに私たちは嵌まっており、時には気を失ってしまうほどの、死に到りかねないギリギリの綱渡りをしたこともあります。
 そしていつだったか、自分たちで人生を終わらせることがあれば、二人一緒に気持ちよく感じながら死に到りたいと話していたのです。
(ちゃんと覚えていてくれたんですね……さすがノリコです)
 その時はまだこんなことになるとは思っていなかったので、冗談の比率の方が大きい話でした。
 私個人としては、そういう人生の終わり方が理想だと思っていましたが。
 ノリコにとってもそうだったというのは、とても嬉しいことでした。
「無粋ですが一応確認します……酔った勢いとか、やけっぱちになっての提案ではありませんよね?」
 念のため、私はノリコにそう確認を取ります。
 一緒に死にたいと言ってくれたノリコを信じていないわけではありませんが、命はひとつだけしかありません。
 人生で一度しか出来ないプレイですから、間違いがあってはいけません。
 特にふたり一緒に逝こうというのなら、十分な準備をした上でプレイを行うことになります。ギリギリでやっぱりやめた、といえないわけですから、明確な意思の確認は必要でした。
 意思確認が大事なのはノリコも自覚しているのか、気を悪くした様子はなく、ただ道具を取り出していきます。
「その答えは――これを見てもらったらわかるわ」
 ノリコはそう言って、普段私たちが使っていた道具ではないものを、別口で取り出して来ました。
 彼女が両手で抱えて運ばなければならないほどに、大きな箱です。
「……ノリコ? なんですか? その大きなものは……?」
 いままでのプレイで使ったことのあるラバースーツを初めとした多種多様な拘束具はすでに机の上に並んでいます。元々彼女に預けていたので、それらがここにあるのは普通です。
 それらに施してあるセーフティを外して使うことで、死に到るまで呼吸制御をすることを、私は想定していました。
 しかしノリコが出してきたものは、いままでのプレイでは使ったことの覚えの無い、明らかに大掛かりな装置です。
 それが何なのかノリコに訊くと、彼女はどことなくばつが悪そうに頭を掻きました。
「実は、少しだけボーナスが出た時に、海外から取り寄せてたの。いつかサオリと一緒に使いたいなって思って」
 そう言って箱の中から取り出して、広げられた道具。
 それは、同じ趣味を持つ私には、簡単になんなのかがわかるものでした。
「バキュームベッド……いえ、チューブ、ですか?」
 円筒状に伸びる本体と思われるラバー状の袋に、真下に設置すると思われる吸引機構。

 それはふたりがまとめて入れる程に大きな、バキュームチューブでした。

 私たちが憧れてやってみたことのある呼吸制御プレイの中に、真空パックプレイというものがあります。
 それは比較的どこでも売られている布団圧縮袋の中に入り、掃除機で吸引して袋の中の空気を抜く、というものです。やることはシンプルですが当然呼吸はできなくなりますし、完全に体の動きは疎外されます。
 一歩間違えば死に到る、とても危険な呼吸制御プレイのひとつです。
 呼吸制御プレイ愛好家の私たちとしては、是非とも試してみたかったものではあったのですが、結論から言って私たちはそれを一度経験しただけで二度とやらなくなってしまいました。
 使った圧縮袋が悪かったのかもしれませんが、吸い付いてくる袋が身体に食い込んで来て、呼吸が出来なくて苦しい、という前にそちらの方が気になってしまったのです。
 ただ、全身を余すこと無く圧迫され、世界から切り離されたところで動けなくなる感覚はとてもよいものでした。
 その時に「バキューム系専用のプレイ道具が欲しいね」と話していたのです。
 ただ、そういった道具は日本ではあまり流通しておらず、それなりの質を求めると金額も一気に高くなってしまい、手が出せなかったのでした。
 だというのに、ノリコはふたりがまとめて入れるほど巨大なバキュームチューブを購入してくれていたのです。ボーナスが出たからとは言いますが、色々と切り詰めなければ買えないレベルの代物だと思われました。
「ラバー部分に触ってみて? すごいから」
 ノリコが得意げにそう促してきます。
 私は彼女に言われるがまま、バキュームチューブのチューブ部分を触ってみました。
 それはとても丈夫なラバーの感触でしたが、同時に肌に吸い付くような柔らかさも感じました。相当質がいいのが触れただけでわかります。
「ちなみに耐刃強度も凄いから、爪はもちろん、そんじょそこらの金具の出っ張り程度じゃ、びくともしないのよ」
 それは普段私たちが使っている多種多様な拘束具を取りつけた状態でも、バキュームすることが可能だということです。
 さらに、ノリコはバキュームする装置、真空パックプレイでいう掃除機の役割を果たす装置を示す。
「これ、バキュームする時間も決められるんだけど……海外って凄いわよね。時間単位じゃなくて、日数でもカウント出来るようになってるの」
 安全のために、最長でも九時間までしか設定できないタイプもあったんだけどね、とノリコは呟きます。
 その言葉を聞いて、ノリコがどうしてこのタイプのものを選んだのか、そしてどうしてこの装置を見れば彼女が死に到る呼吸制御プレイに対して本気であるのかわかるのか、私は察しました。
 海外から取りよせたとノリコは言っていました。
 それは彼女がその道具を入手したのが、昨日今日のことではないということです。
 そんな彼女が場合によっては死ぬ可能性のある道具を用意していたということは、保育園を辞めさせられる前から、そのことを考えていたということなのです。
 ノリコは立ち上がり、少しおぼつかない足取りで動き出します。
「酔いを覚ますついでに、お風呂に入って身体を綺麗にしてくるわ。サオリも、一緒に入る?」
 私は少し考え、彼女と最後の入浴をすることにしました。
「いいですね、洗いっこしましょうか。でも、あまり盛りあがらないようにしましょうね」
 本番は呼吸制御プレイなのですから。
 私とノリコはこれから死のうと思っているとは思えないほど穏やかに、最後の入浴へと向かったのでした。


 そして一時間後。
 すっきりさっぱりした私たちは、バスタオルだけを身体に巻いた状態で、部屋に戻ってきていました。
 あくまで入浴は前準備で本番は後だと意識した甲斐あってか、私たちは程よく気持ちよくなる程度で済ませることができていました。
 お腹の中まですっきり綺麗になった私たちは、改めてその大きな機械――バキュームチューブを見ます。
「……どんな感じなのか、ちゃんと動くのか、確かめて見る必要がありますよね?」
「ええ、そうね」
 私とノリコはそう言葉と視線を交わし、拳を握りしめます。
 正々堂々としたじゃんけん一回勝負の結果、試運転にはノリコが吸引されてみることになりました。凄く悔しかったですが、本番でいきなりバキュームを味わうというのも、それはそれで良いものです。
「じゃあ、お願いね!」
 それはもう清々しいくらいに綺麗な瞳で、ノリコがバスタオルを外して全裸になります。ノリコの身体はとても均整の採れた、女性として羨ましいくらいの理想型でした。
 小さな顔、細い首、柔らかなカーブを描く肩、程よい胸の膨らみ、腰の括れは細く、お尻は張りがあって安定感があり、すらりと長い手足がそんな体を支えています。
 私も決して悪い方では無いと思うのですが、理想型の極みのノリコに比べると、お腹はちょっと肉付きが良すぎる感じがしますし、安産型といえば聞こえはいいですがお尻も大きすぎる気がしています。胸も大きいので全体のバランスは悪くないと思うのですが、自分の顔はそんなに好きではありません。
 ともあれ、私はバキュームチューブの説明書を読みながら、チューブ型のラバーを大きく広げます。最初からついていたローションのような潤滑油をチューブの内側に流し、よく馴染ませます。
 その間に、ノリコは耳栓をしていました。強力な吸引の場合、鼓膜がやられてしまうためです。本当の最後の瞬間なら鼓膜が破れても問題ないのですが、いまはまだ試運転であって、本番ではないので、そういった安全対策が必要でした。
 耳が塞げればそれでいいので、完全に耳が聞こえなくなったわけではありません。
「とりあえずタイマー機能はオフにして……手動スイッチでオンオフの切り替えはしますね」
 聞こえるように大きめの声で言うと、ちゃんと通じたらしく、ノリコがあ頷きます。
「うん、御願い」
 わくわく、という擬音が浮かんでいそうなほどはしゃいだノリコは、床に直接寝転ぶと、チューブを履くように、足からチューブに覆われていきました。
 ふたり一緒に入れる大きさなのですから当然ですが、チューブの太さにはかなりの余裕が生まれています。そのため、例えるなら鯉のぼりに食べられていくような、少し間抜けな姿になってしまっています。
 吸引する装置から伸びる二つの管を、頭側と足側のチューブの端にそれぞれ繋げます。管はチューブの端を挟み込み、空気を全く逃さないようになっています。
 ラバー製のチューブの中に閉じこめられたノリコ。チューブは透明ではないので、ノリコの身体のラインがチューブの表面に浮かび上がっています。もぞもぞと動いているのがなんとなくわかりました。
 なんとも奇妙で、滑稽な姿にも見えましたが、これから彼女に起こるであろうことを考えると、興奮で心臓がどくんどくんと五月蠅く脈動しています。
「準備オッケーよ」
 ノリコがチューブの中で気をつけの姿勢を取ります。
 これでいつでも吸引を始められる状態になりました。
(とりあえず不具合が無いかの確認さえ出来ればいいですから……一分だけにしましょうか)
 なんとなくで時間を決め、私は早速バキュームチューブのスイッチを入れました。
 吸引する装置が起動し、チューブ内の空気の吸引が始まります。

――ギュウウウウ! ミチ、ミチチ、ビチッ……

 想像以上のことが一瞬で起きました。
 さすがは海外製というべきなのか、凄まじい吸引力でチューブ内の空気が吸い出され、ノリコの身体にチューブが張り付いたのです。
 ラバーはノリコの身体を綺麗に浮かび上がらせながら彼女を締め付け、まるで彼女の型が造られたかのように、彼女をぴっとりと覆い尽くしていました。
「ングッ!? ン、ンン~ッ!」
 それなりの覚悟をしていたはずのノリコが、大きな悲鳴をあげます。
 しかし彼女の身体を覆うラバーは分厚く強固で、ノリコが渾身の力で暴れてもびくともしません。
 ギチギチとラバーが軋む音はすれど、ぴくりとしか動かないのは驚きました。
「ウグッ、ウウッ、ムゥーッ!」
 当然、呼吸が出来る余地なんてものは一切ありません。口も鼻も完全に塞がれ、自分の口から息を吐き出してもあっという間に吸い取られて、わずかな余裕もできません。

――ミチッ、ギチッ、ギュムッ……

 ラバーがぴっちり張り付いているために、ノリコが身体を動かそうと力を入れると、その部分の筋肉が浮かび上がります。その様子がわかりやすいのは腹筋でした。ラバーが筋肉の形に浮かび上がり、その筋肉の形自体は健康的なのに、なぜかとてもエッチな光景に見えました。
(腹筋に力を入れようとしてるってことは……体を曲げようとしてるんですよね……でも全く動いていないところを見ると……それほどに強烈な締め付けということですよね……?)
 いくらラバーが強靱なものとはいえ、身体を曲げることくらいは出来そうなものですけれど。その時の私は、何となくのイメージでそう思いました。
 それはかつて私たちが動画で見た真空パックプレイでは、圧縮された状態でも体を曲げたり伸ばしたりといったことは出来ていたからです。
 その動画の印象からすると、バキュームチューブであっても、それくらいの動きは出来るのではないかと考えていました。
 ただ、それは本来布団を圧縮するためのものを、本来用途として意図していないプレイに使用していたためなのです。

 本当に『そのためだけ』に作られたものの威力というものを、私たちはまだちゃんとわかっていませんでした。

 バキュームチューブの中で圧縮され、ぴくぴくと痙攣することしか出来ない様子のノリコに近付いた私は、そのお腹に浮かび上がる腹筋を指先でなぞってみました。
「ンゥ!? ンゥッ!」
 くすぐったがりの彼女はビクンと身体を痙攣させます。そんな彼女がちょっと可愛く思えた私は、チューブが張り付いて押し潰されたノリコのおっぱいを軽く突いてみます。何気なくした行動でしたが、想像していなかった触感が返ってきて吃驚しました。
(か、硬い!? い、いえ、柔らかいのは柔らかいんですが……この感触は……まるで……ゴムで出来た人形みたいな……)
 私たちが普段の行為の時に着るラバースーツの上から胸を触った時の感触とは、まるで違う感触でした。大きさ自体は圧縮されて一回り小さくなっているのですが。
 面白い感触に、思わず目的を忘れ、ノリコのおっぱいを両手で掴みます。
 両手でそれぞれの乳房を揉んで見ると、片方への刺激がもう片方を掴んでいる方の手にも伝わってきて、興味深くも面白い感触になっていました。
「ングッ……ンン……ッ」
 それがノリコにとってどういう感覚になっているかは、その時の私は考えていませんでした。
 チューブによって圧縮されたノリコは、私の与える刺激に悶えていましたが、やがてその反応が徐々に鈍いものになっていきました。
 ちらりと時間を確認すると、最初に決めた一分はとっくに超えてしまっていました。
(おっとと……うっかりするところでした)
 あまり長くやりすぎてノリコの体力を削り過ぎると、この先の楽しみが失われてしまいます。あくまでいまは試運転なのですから。
 私はバキュームチューブのスイッチを切り、チューブのバキュームを解放します。
「う……ゲホッ! ハァー、ハァー……」
 久しぶりに呼吸をすることが出来たノリコが、胸を上下させて空気を肺に吸いこんでいます。
 私がチューブの端を止めていた部分を解放し、中のノリコの顔が見えるところまでチューブを捲り上げると、ノリコは真っ赤な顔をしてぜいぜいと呼吸を繰り返していました。
 彼女は額に汗を滲ませており、相当苦しかったことが窺えます。普通ならば可哀想に思うところですが、呼吸制御プレイを受け入れている私にとって、それはむしろ羨ましい事実でした。
「相当良かったみたいですね?」
 そしてそれは、同じ性癖を持つノリコも同じなはずなのです。
 ノリコは暫く荒い呼吸を繰り返していましたが、やがて少し呼吸が落ち着いてくると、その眼をゆっくり開いて、私に向けて親指を立てました。
「かなり……よかったわ……」
 タオルで彼女の汗を拭いてあげたり、お茶を飲ませてあげて水分補給をさせたりして世話を焼いていると、ほどなくしてノリコは復活しました。
 いつも通りの様子になったノリコ。
「うん、すごくよかった。よかったけど……」
「けれど?」
「ちょっと強力すぎるわね。全然、指先ひとつ動かなかったわ。拘束の順序とかよく考えないと、変な形になって終わっちゃいそう」
「それは確かにそうですね……」
 私は二人一緒にバキュームチューブの中に入って、お互いの体を弄りながら圧縮され、呼吸が出来ずにゆっくりと息絶える想定をしていたのですが、これでは指先ひとつ動かせないまま、ただ死ぬことになりかねません。
 それでもノリコと一緒に死ねるなら、いいといえばいいのですけど、人生最後のプレイとしては物足りないような気がします。
 そう思ってしっかり拘束の順番を組み立てようとした私に、ノリコが想定外のことを言って来ました。
「サオリ、せっかくそういう気分になってくれたのになんだけど、やっぱり今日死ぬのはやめにしない?」
「え……」
「だって、中途半端は嫌でしょ? それに、よく考えたらちゃんと処理しておいた方が心残りもなくなるじゃない?」
 確かに。
 勢いのまま逝こうとしていましたが、人生最後のプレイをやるからには、しっかりと計画を練った方がいいものになるのは明らかです。
 数日、いえ、数週間程度働かずに生きていけるだけの蓄えはありますし、死への準備期間と思えばそう辛いものではありません。むしろやり残したことが何もなくなった方が、すっきりとした思いで死ねるでしょう。
 もしも準備期間中に心変わりをしたら――という危惧はありましたが、逆に言えばそれを乗り越えられれば、それは私たちが勢いではなく、自分たちの確かな意思で、一緒に逝くことを選んだという証左になります。
 私はノリコの提案に乗ることにしました。
 するとノリコは、いい笑顔でほほ笑むと。
「それじゃあ、今日は普通に呼吸制御プレイやろっか! 次はサオリが入って?」
 初めての経験で死ぬまで行くことはできなくなりますが、しっかり計画を立てるなら私もバキュームチューブがどれくらいのものなのか、経験しておく必要があります。
 私は先ほどまでノリコが入っていたバキュームチューブの中に、体を滑り込ませました。潤滑油はまだ効果を発揮しているようです。ノリコが出した汗も混じっているとは思いますが、そのおかげで難なく体を滑り込ませることができました。
 しかし、ノリコはただ私をバキュームするだけでは済ませませんでした。
「サオリ、これつけて」
「えっ、ノリ――ぶへっ」
 ノリコはいきなり私の顔に何かを押し付けてきました。それがいわゆるガスマスクと言われるものであると、私はすぐに気づきます。そのガスマスクはリブレスバッグに繋がっているもので、もちろん呼吸制御プレイ用に改良が施されているものです。
 吐いた空気はリブレスバッグの中で完結し、徐々に酸素濃度が薄くなっていく仕様になっています。
 シュー、シュー、と音を立ててリブレスバッグが膨らみます。
(全くもう……強引なんですから……)
 耳栓を取り付け、鼓膜の対策もします。
 そうして改めてチューブの中に横たわり、仰向けで楽な姿勢を取ろうとして、ノリコが手で私に横向きになるように指示してきました。
(なるほど、体勢の違いでどうなるかを見たいわけですね)
 私は彼女に指示されるまま、両手を後ろで揃えて伸ばし、拳を作って合わせました。
 分厚いラバーの感触が、体の側面に覆いかぶさっているのが伝わってきます。まるでラバーで出来た布団の中にいるようで、なんとも不思議な感覚でした。
 しばらく頭の上や足の下でごそごそしている気配があった後、ノリコの手が私の肩をぽんぽんと叩きます。
 いよいよ圧縮が始まるのだろうと、私は目を瞑りました。

 そして、その衝撃は一瞬でやってきました。

 バキュームチューブの装置が起動する音がしたかと思うと、全身にラバーがぴったり張り付いて、想像以上の力で締め付けてきたのです。いえ、締め付けるという表現では不足でした。
 まるで大蛇に巻き付かれ、情け容赦なく締め上げられているかのようです。
「ングューッ!?」
 実際に大蛇に巻き付かれれば全身骨折するでしょうから、例えとしては不適格なのですが、その時の私はそういう感想しか持てませんでした。
 全身余すことなくラバーが締め上げ、呼吸もままなりません。ガスマスクとかリブレスバッグとか、関係なく、胸が締め上げられて呼吸ができないのです。
「んぐっ、んぐぅっ!」
 ノリコよりも大きな乳房が仇になったのかもしれません。その体積が圧迫されたときに生じる力は相当なもので、胸を全然膨らませられませんでした。
 手も、想像以上にがっちり圧縮され、作った拳は指先までまったく動かせませんでした。
「フシッ、フシュ、ヒュゥッ!?」
 それでもなんとか呼吸しようと浅く吸って吐いてをしようと試みましたが、まったく意味がありませんでした。おそらくですがリブレスバッグ自体も押し潰されてしまい、リブレスバッグの意味がなくなってしまっているのです。
(あ、あいたた! 食い込んで、るぅ……!)
 さらに悪いことに、そのリブレスバッグが繋がったホースや、リブレスバッグそのものが自分の体に食い込んで来ているのを感じます。
 幸い尖った部分はありませんが、一部金属の部分が肋骨に食い込んでものすごい痛みを生み出していました。
 これはどうにか対処しないと、最悪ものが食い込んで痛いばかりでどうにもならなくなりそうです。
(や、やっぱり勢いでやらなくてよかったです……!)
 しっかりと課題点を解消してからでないと、素晴らしい死に至るプレイは行えませんでした。
 身動き一つ取れない中、そんな風に考えていると、私の乳房に触れてくる手がありました。
 無論、ノリコ以外ありえません。
 ノリコはさっき私にやられた分を、やり返すつもりのようです。
 バキュームチューブによって圧縮された胸を、ノリコの手がさわさわと擦っているのがわかります。
 圧縮され、固くなった私の乳房は、サイズの小さなブラに無理やり押し込められたような状態でした。ただ覆っている材質が柔らかいラバーなので、普通のブラジャーの上から触られるよりも、胸に触られているという感覚が遙かに強くなっています。
「ン、ウゥ……ぅ、うッ」
 私のおっぱいの感度はノリコと共に散々開発してきたので、相当強い方です。
 乳房を軽く撫でられるだけで、ピリピリとした快感が生じ、体を捩りたくなりました。
 しかし強いバキュームチューブの力はそんなわずかな動きも許してはくれません。
 ギシギシ、と音を立ててチューブが軋む音だけが響いていました。
 ノリコが私のおっぱいで遊んでいるうちに、一切呼吸のできない私は、どんどん苦しさが増していっていました。
(あ、う……くる、し……)
 どれほど空気を求めても、締め上げられた私の体は呼吸することを許されません。
 地上に釣り上げられた魚というものはこういった気分なのかもしれないと思いつつ、体がびくんびくんと勝手に痙攣し始めます。
 ノリコはまだ私のおっぱいを揉み、感触を楽しんでいるようでした。酸欠でぼうっとした頭に、乳房を弄られる快感が刻み込まれていきます。
(これで、他のところも刺激したら……すごく……気持ちよさそう……ですね……)
 薄れていく意識の中、私はそう考えていました。
 しっかり備えてこのバキュームを行った時、私とノリコはどんなに気持ちのいい感覚の中逝くことが出来るのでしょうか。
 息が出来ない苦しみが、ゆっくりと快感に変わっていきます。苦しいのに気持ちいい、気持ちいいのに苦しい、という相反した感情が自分の中で渦巻き、混然と一体となって溶けていきます。
 理性や意識もその渦の中に飲み込まれ、私は幸せな最期を予感しながら、意識を闇に落としていきました。




 私とノリコが死ぬことを決めてから数日――再び私たちはバキュームチューブの前で準備を進めていました。
「いよいよ、ですね」
 しみじみとした思いでそう呟くと、ノリコも賛同して頷いてくれました。
「ええ。十分テストも繰り返したし……ちゃんと死に切れそうね」
 嬉々として死ぬことを口にするノリコ。
 その表情はとても晴れやかで、この瞬間の彼女の綺麗な表情だけを見ればこれから死のうと思っているとは、誰も思わないでしょう。
 結局、死ぬことを決めてから少し時間が経ちましたが、私たちの意志は揺らぐことなく、日に日に期待が高まるばかりか、終わりを見通して生活していたためか、いまだかつてないくらいに清々しい気持ちでさえありました。
 そもそも私たちは同性愛ということで、普通の人より多くのことに思い悩んで来た人生でした。
 私はノリコに出会ってから――そして恐らくノリコも私に出会ってから――は少し気が楽になっていましたが、それでも人と違うということは気を遣うことが多く、私たちにとってこの世界は、存在し続けるだけで精神が消耗する、息苦しい世界だったのです。
 ですが、もうこれ以上周りの無理解に思い悩む必要も、捕らわれる必要もないわけです。
 そうなれば、私たちの気持ちが楽になるのは、ある意味当然ではありました。
 お互いという最大の理解者と共にあの世に旅立てるということは、最高に幸せなことです。
 ただ正直、私には何の未練もありませんでしたが、ノリコの方は保育士としての心残りはあるんじゃないかと危惧していました。
 私は夢らしい夢もなく、ただ漫然と生きてきた人生でしたが、ノリコは純粋に夢を目指し、順当に夢を叶え、理不尽な形で奪われたためです。未練があってもおかしくありません。
 そんな私の疑問に対し、ある日ノリコはこう語ってくれました。
「少しの間だったけど、夢が叶った時間はあったし、かえって良かったのかもしれないわ」
「良かった、ですか?」
「ええ、仕事は基本的にとても楽しかったけれど――長く続けていれば経験したくないことも経験していたでしょうから」
 彼女のその言葉に、私は納得するものを感じました。どんなにノリコがいい保育士であったとしても、毎年担当する子供が入れ替わっていく中で、問題を抱えた子供がひとりもいないわけがありません。実際、ノリコから何度かそういう子供の話は聴いていましたし。
 そういったことも乗り越えてこその人生だとは思いますが、私たちの人生はただでさえ息苦しかったのですから、仕事においてはいいところだけ経験して終わっても良いのではないかと思います。
 私としても、ノリコに未練がないならそれでいいので、深くは追求しませんでしたが。
 最後の晩餐も済ませ、遺書も書き、後始末の手配も全て終えた私たちは、もはやこの世界に対する未練は何もありませんでした。
 あとは最期のプレイでどれだけ気持ちよく逝けるか。
 私たちにとって、それだけがいまの関心でした。
 部屋にはブルーシートを敷き、私たちが逝った後の始末がしやすいように整えています。どっちにせよ事故物件にはなってしまいますが、なるべく綺麗に死ぬので勘弁してもらいましょう。大家さんには迷惑料として、ある程度のお金が渡るように遺言にも認めましたし。
 青いブルーシートの覆われた異様な部屋の中央には、バキュームチューブの機材が静かに鎮座しています。
 この数日間、実験のために何度か起動させましたが、そのたびに最高のパフォーマンスを発揮してくれていました。吸引する機体部分と、圧縮するラバー状のチューブ部分。どちらにも異常がないことは何度も確認しています。
 私とノリコは、入浴や洗腸などの様々な前準備を終わらせ、いよいよ最期のプレイを始める時を迎えました。
 バスタオルだけを身体に巻いたノリコと見つめ合います。
「……それじゃあ、サオリ」
「ええ、始めましょう」
 わたしとノリコは様々な道具が並べられた床の上、バキュームチューブの機体が鎮座する前で、口付けを交わしました。
 まるで初めてキスをした時のように、心臓が激しく高鳴っているのがわかります。
 唇と唇が触れるだけの優しいキス。舌も入れず呼気の交換も行わなかったのに、私の気持ちは大いに昂ぶってしまいました。
 それは恐らくノリコも同じだったのでしょう。長い間ディープキスをした時のように、ノリコの目は早くもとろんとして緩んでいました。
「……ノリコ、脱がしますよ」
「うん、御願い」
 脱がすといってもバスタオル一枚剥ぐだけなのですが、人に取って貰って素裸を曝け出すという行為が重要なのです。
 ここ数日十分な睡眠や食事、それに十全な手入れを経たノリコの身体は、白く輝いていました。思わず襲いかかりたくなるような、性的な魅力に満ちている身体でした。
 ある意味、私が育てたといっても過言ではない肢体ですので、自慢の逸材です。
 そんな彼女の身体は彼女の物でもあり、私の物でもあります。お互いがお互いのものなのですから、遠慮無く私は彼女の曝け出された胸を触りました。
 柔らかなおっぱいは入浴直後特有の、わずかな湿り気を有しており、肌のきめ細かさもあって手のひらに吸い付くような感覚です。
「ん……っ」
 触れただけなのにノリコはぴくんと身体を震わせ、その身を恥ずかしげに捩りました。
 裸を見られて恥ずかしがるような間柄でもないので、彼女が恥ずかしがっているのは別に理由があります。
 その理由は、私が手のひらで感じている突起でした。
「凄く硬くなってるじゃないですか。もうこんなに期待しちゃってるんですね」
 あえて言葉に出してノリコの耳元で囁きます。彼女は顔を真っ赤にして、私から顔を逸らしました。胸を両手で庇います。
「い、言わないで……」
 そんな可愛らしい反応をされたら、こちらもきゅんと来るものを感じざるを得ません。
 基本的に私とノリコは対等で、どちらが責めとか受けとかはありません。
 その時々の必要に応じていましたが、いまは私が責めの気持ちになっていました。
 私は可愛いノリコの背後にまわり、抱きしめるようにして両腕を固定し、さらにこちらの空いた手をノリコの股間に這わせます。
「んひゃっ」
 そして彼女の股間は案の定、どろりとした愛液を垂れ流すほどに、濡れていました。指先でその穴を弄り、刺激を加えます。
「おや……こっちもこっちですごい濡れようですね。そんなに弄って欲しいんですか?」
「あっ、ん……っ、ふぁ……」
 私が優しく彼女の股間を撫で擦ると、ノリコは気持ちよさそうな吐息と呻き声をあげました。股間もさらに熱くなり、愛液の分泌液が多くなったような気がします。
 そんなノリコをそのまま気が済むまで弄ってしまっても良かったのですが、今日はただ愛撫し合うだけが目的ではありません。
 最高の死を迎えるのが目的なのです。
 私はこのままノリコを弄り倒したい欲求を辛うじて飲み込み、床に並べた道具の中から最初の道具を手に取ります。
「まずは、これですね」
 最終的にはバキュームチューブに入るという目的があるので、拘束具や責め具の数や形状はあらかじめ厳選しておきました。
 最大の課題は強力なバキュームの中でどうやって気持ちよくなるか、です。
 バキュームチューブは非常に強力なもので、それ自体が拘束具になりますので、身体の拘束に関わるものは少なくても問題ありません。
 逆に問題は、そのバキュームの力が強すぎるということでしょうか。バキュームされるだけでも、気持ち良いのはわかっているのですが、圧縮の力が強すぎてほとんど身動きが取れなくなってしまうのです。
 折角パートナーと一緒にバキュームされるのであれば、バキュームされながらも相手の身体を弄ったり、あらかじめ取りつけておいた責め具をリモコンで起動したりして、楽しみながら逝きたいものです。
 しかし強力なバキュームは、密着している相手を弄るための、わずかな動きすら阻害してしまいます。
 指先も動かせない状態では、相手を弄るどころではないのですから。
 あらかじめできるだけ密着しておく、押し潰されない空間を確保しておくなど、様々な創意工夫をする必要がありました。
 まず、私が手に取った道具は、後の穴に入れるための、長くで太いバイブでした。
 長さは相当な物で、私たちの腕の、肘から先くらいあります。
 バイブは全体的に柔らかく、穴の形に合わせてうねるように変形しながら、直腸を満たしつつ、更に体の奥の奥まで入り込むことが出来ます。
 長さだけでなく、太さも相当なものです。腕ほど、とまではいきませんでしたが、並みの人なら見ただけで卒倒しかねないほどの太さになります。
 そのため、これを使えるのはなるべく長期の休みが取れる時だけでした。しばらく穴が元に戻らず、おむつを着けて生活をしなければならなくなるためです。その後の日常生活に支障を来たすことが確実な、実に凶悪な代物でした。
 しかし今回は、今後の生活のことは一切気にせず、気兼ねせずにこのバイブを味わうことが出来ます。
「ノリコ、四つんばいになって、お尻を突き出してください」
 そう指示を出すと、彼女は素直に従い、その可愛らしいお尻を突き出すようにして、四つんばいになりました。
 無防備に晒された彼女の肛門は、いまから入ってくるものを受け入れようとしているためか、ひくひくと痙攣しつつも、少し脱力気味に広がっていました。
 まるで早く入れて欲しいと主張しているようです。
「ふふふ……偉いですね」
 肛門の様子をじっと観察してあげていると、ノリコが恥ずかしそうに、消え入りそうな声を絞り出します。
「さ、サオリ……早く、してぇ……っ」
 恥ずかしがるノリコはとても可愛くて、もう少し見ていたかったのですが、あまり焦らしてノリコの機嫌を損ねてもいけません。
 私はバイブにローションをたっぷりかけ、ノリコの穴にもしっかり塗して軽く指で解しました。
「行きますよ」
 そう声はかけつつ、容赦はせずにノリコの肛門に、バイブの先端を宛がい、穴の中へとバイブをどんどん滑り込ませていきました。
「あふ……っ、はふっ」
 ずるずる、ずるずる、という音が聞こえて来そうなほどあっさりと、ノリコの肛門はバイブを飲み込んでいきます。これはそれなりに後ろの穴の開発も済んでいるためです。
 バイブは根元をくるくると回転させながら挿し込んでいくと、先端もくるくると先端をもたげて体の奥へ奥へ進む仕組みになっています。その扱いも手慣れたものです。本気で楽しむのは長期休みの前だけでしたが、半分くらいの挿入ならそれこそ毎回やっていました。
 直腸を簡単に通り過ぎ、S字結腸、さらにその奥まで這い進んでいきました。
「んぐっ、んううううう!」
 そのたびにノリコが悶絶して、体を捩ります。
 私たちは肛門を開発していて、このバイブの刺激にも慣れているから、まだ悶絶するくらいで済んでいますが、慣れていない人が初めてこんなバイブを入れられたら、内臓をかき回されるような苦痛と違和感に感じるどころじゃないはずです。七転八倒して泣き叫ぶことでしょう。とてもプレイを続けることは出来ないはずです。
 慣れているノリコでも拳を握りしめ、涙目になって呻かなければ耐えられないくらいですし。
 私はそんなノリコの様子を楽しみつつ、バイブを根元まで入れることに成功しました。
(結構難しいんですよね、ここまで入れるのって)
 それでも根元まで挿入出来た私は、誇らしげな気分になって、息も絶え絶えなノリコに声をかけます。
「これでよし……と。ノリコ、大丈夫ですか?」
「はぁ……はぁ……ひ、久しぶりだと結構キツいわね……」
 そういうノリコが身体を起こしました。肛門からバイブの持ち手が飛びだしていて、少し間抜けながらも、なんともエッチな姿です。
 身体の奥まで入り込んだバイブはそう簡単なことでは抜けません。さらにこのバイブは少し特殊な材質で、体温に反応して少し膨らむようになっていました。恐ろしい仕様なのです。
 私たちも初めてこのバイブを使った時は、引っ張っても引っ張っても抜けないバイブの抵抗に遭い、相当焦ったものです。いい歳をした大人が二人、半裸で半泣きになっていた肛門から飛び出したバイブに悪戦していた様は、傍からみればさぞ滑稽だったことでしょう。
 朝までかかってようやく抜けたときは、謎の感動があったものです。まあ、そのあとしばらくはふたりして体調を崩してしまい、数日の間ほぼ一日中寝て過ごしたものです。苦い失敗談ではありますが、いまからすれば懐かしい思い出です。笑えて来てしまいます。
「ふふ……っ」
 そんな私の思い出し笑いをどう受け取ったのか、ノリコが同じバイブを手にし、それにローションを馴染ませ始めました。
「サオリ~? 次はあんたの番なんだからね? 覚悟しなさい!」
 なんだか誤解をされているようです。慌てて言い繕います。
「い、いまのは、ノリコを笑ったわけではないですよ?」
「それはそうだろうけど、サオリだけ余裕なのは腹立つから、さっさと挿れるわよ!」
 実に理不尽です。ノリコは負けず嫌いなので時々こういうところがあります。
 でも別に悪意があるわけではない、とお互いわかっているので、私は大人しくノリコに言われるまま、四つんばいになってお尻をノリコに差し出しました。
 ノリコが私のお尻の肉を片手で掴みます。残念ながらというべきか、ノリコの小さな手で鷲掴みに出来るほど、私のお尻は小さくありません。
「……サオリのお尻って、触ってて気持ちいいわよね」
 揉み揉み、と私のお尻を揉んでくるノリコ。
 お尻を突き出した姿勢でその場所を揉まれるのは、ノリコが相手でもさすがに恥ずかしく感じます。股間も晒す格好なわけですし。
「あの……早く挿れてもらえません?」
「まあ! 早く欲しいだなんて、サオリったら大胆ね♪」
 ここぞとばかりにノリコはからかってきます。それはわかっているのですが、顔が赤くなるのを自覚していました。
「いやいや、そういう意味じゃ……んぎゅっ!」
 いきなりバイブの先端が入ってきました。直前に洗腸は徹底的に済ませていますから、バイブの挿入の邪魔になるようなものはありません。
 それを差し引いても、私の穴はバイブの先端をあっさり飲み込んでしまいました。
 油断していたので自然と脱力していたこともあり、直腸内が一気にバイブによって満たされてしまっています。
 身体の奥に、バイブの先端が当たっているような、異様な感覚が生じています。
「よーし、行くわよー」
 ノリコがそう楽しげに言って、バイブを奥へ奥へと導いて行きます。
 身体の中で蛇が暴れているような、そんな得体の知れない感覚に、意識が全部持って行かれそうになります。
 バイブが身体のの奥の奥へと進む度、私は悶絶するほどに感じてしまうのでした。
「はぁ……はぁっ、はぁ……」
「はい、これでおっけー。よく頑張りました」
 ノリコはそう言って手を放します。根元まで入ったバイブの持ち手がお尻から突き出しているのを感じました。
(まだ……ここからなんですよね……!)
 このバイブの本領は挿入の瞬間ではありません。
 バイブに体温が馴染むと、体の中でバイブの存在感が嫌でも増していくのを感じます。特別製のバイブが、体温に反応して膨張しているのです。
 ただでさえいっぱいだったお腹の中が、さらに隅々まで満たされていくようです。そんな不思議な感覚をあますことなく味わっていました。
 この上、バイブが動き始めたらどれほど感じてしまえるのか。
 早く動かして欲しくなってしまいます。
 その衝動をなんとか抑えつつ、私は手を突いて身体を起こします。ノリコは続けて、次の道具に手を伸ばしていました。
「次はこれだったわね」
 ノリコが持ちだしたのは、貞操ブラでした。本来は装着者に自由に触れられないようにした上で、内蔵されたローターで乳首を刺激するものです。いつもならそれを用いるのは露出プレイの時なのですが、今回は自由に胸を弄れるわけではないので、それを取りつけることで胸への刺激を行うことにしていました。
「着けてあげるわ」
「宜しくお願いします。ノリコにも着けてあげますね」
 まるで普通の服を着せ合うが如く、私たちは貞操ブラをお互いに着せていきます。和気藹々とした雰囲気ではありましたが、傍からみればさぞおかしな光景だったでしょう。
「さて、次は……」
「この辺りは最後ですね。先にチューブの中に入れておきましょうか」
 いくつかの道具を、私たちは協力してチューブの中に入れます。それらはチューブの中に入ってから身につけるものだったからです。
「あと先に身につけておくべきものは……」
「これ……ですね」
 そう言って私とノリコが同時に見たもの、それは。

 私とノリコが呼吸制御プレイに使うために用意した、特注のマスクでした。

 外から見た形は、鼻から顔の下半分をぴっちり覆うタイプのマスクです。
 ただし、口に当たる部分には、丸い円筒形に穴が空いています。それは本来であれば、マウスピースのように口内に嵌まり込み、口を開いた状態で固定し、男性のペニスを強制的に咥えさせるためのものです。
 実際購入した時の器具の説明文は、それを想定したものでした。
 もちろん女同士であり、呼吸制御愛好家の私たちの目的はそれではありません。
 実はこのマスク、ふたつを連結することが出来るように改造してありました。
 鼻も口も完全に塞いでしまうこのマスクは、口のところに空いた穴から呼吸することしか出来ません。
 その穴を連結してしまったらどうなってしまうか、自明のことです。

 マスクをした者同士、お互いの吐く息しか吸えなくなるのです。

 さらに口の中が繋がっていることで、限定的ではありますが、舌を絡めることも可能です。呼吸制御をしながら、相手と舌を絡めることが出来るのです。
 特注で作っただけあって、私たちのプレイに最大に適しているマスクなわけです。
 かつてはふたりで向かい合った状態で互いの身体を拘束し、このマスクで繋がって気絶する寸前まで互いに愛し合ったものでした。
 今回はそれを使って、ノリコと舌を絡め、お互いの存在を最後まで感じながら、最期を迎えるわけです。普段は外せるようにしているのですが、いまは一度嵌ったら二度と外れないように、意図的に壊してあります。
 いまからその瞬間を想像してしまい、呼吸が荒くなってしまいました。
「……サオリ」
「なんですか? ノリコ」
「これが最後になるから……」
 このマスクを着ければ、明瞭に言葉を交わすことはできなくなります。
 ノリコは私を真剣な表情で見つめていました。私もそれに応えます。
「いままでありがとう。そして……最期も一緒にいてくれてありがとう」
「それはお互い様です。ありがとうございます、ノリコ」
 私とノリコは指と指を絡め、ありったけの想いを込めて短くキスを交わしました。
「愛してるよ、サオリ」
「愛してます、ノリコ」
 愛の言葉を囁き合って、ふたりして笑います。
 胸をローターが仕込まれた貞操ブラが覆っていることと、肛門に極長超太バイブが突き刺さっていることを気にしなければ、私たちにとっては最も健全で幸せな一瞬でした。

 そしてここからは――不健全に、破滅の幸福へと落ちていくだけです。

 私とノリコはもう言葉を交わす必要はないとばかりに、無言で準備を進めます。
 ノリコはあれでロマンチストですから、生涯最後に発した言葉を愛の言葉にしたいのでしょう。
 一方、どうしても、というほどの拘りこそありませんでしたが、その浪漫自体には私も同意だったので、無言でマスクを手に取り、背中を向けたノリコに取りつけてあげました。
「アゥ……うー……」
 顔の下半分がマスクに覆われ、円筒形の器具が口内に嵌ります。しかし舌を抑えているわけではありませんので、喋ろうと思えば、不明瞭ではありますが喋れるはずです。
 もっとも、本人喋るつもりがないので、あげるのは唸り声だけでした。
「ウー」
 今度はノリコがマスクを手に取ったので、私は背を向けてマスクを取り付けてもらいます。
 大きく口を開け、顔の下半分がマスクによって覆われるのを受け入れます。
「ムゥ……ウ」
 このマスクは鼻の部分にゴムの突起があり、鼻の穴を隙間無く埋めてしまいます。
 口呼吸しか出来なくなった私は、なるべく声を形にしないように気をつけつつ、同時に涎を垂らしてしまわないように気をつけなければなりませんでした。
 機械の設定などが間違っていないかを確認した後、私とノリコは頷きあって、最期のステージへと進みます。
 巨大なバキュームチューブ。
 その下側はすでに装置の管に繋げてありますので、私たちは上側から、チューブを履く様にしてチューブの中へと潜り込んで行きました。
 まるで二人して、キャンプで使われる寝袋に潜り込んでいくような感じです。向かい合って身体を寝かせた状態になるため、至近距離にノリコの顔が来ます。
 ふたりが同時に入れる仕様とは言え、実際にふたりが入るとかなり狭苦しいです。いまは私たち以外にも物が置いてありますので、そのせいもあってかなり窮屈でした。
 それでもなんとか頭の先までチューブの中に納めると、まずチューブの上部を管に接続します。
 多少は苦労はしますが、ちゃんと内側からでも固定できるのは驚きです。あるいは、こういった心中も想定して作られているのではないかと邪推したくなります。バキューム時間を一日以上設定できるのもおかしな話ですし。
 まあ実際のところは、タイマー機能のことを考えると、独りでもバキュームチューブプレイが出来るようにするためなのでしょう。
 製造元の真意はわかりませんし、知る方法ももうない訳ですが、私たちにとっては都合がいいので、ありがたく利用させてもらうことにします。
 チューブの上部が機材に接続されると、私たちは完全に世界から切り離された存在になります。
 この世界には私とノリコしかいません。
 分厚いラバー越しに微かに入り込む光で、辛うじて輪郭くらいはわかりますが、お互いの顔すら、もうほとんど見えませんでした。
「「フゥ……フゥ……」」
 けれど、慣れ親しんだ呼吸音がすぐ傍からしているので、暗闇の中にあっても怖くはありませんでした。
 私たちは半分手探りで、残った道具をお互いに取りつけていきます。
 強力なバキュームで鼓膜が破れないように耳栓をします。死ぬのですから鼓膜が破れても問題ないかもしれませんが、鼓膜が破れたことで激しい痛みを伴ったり、気分が悪くなったりするとせっかくの死への旅路にノイズが入ることになってしまいます。ノリコと相談して、そうならないように耳栓をしようと決めていました。
 次に左手に簡単なコントローラーを握り、その上から分厚い革で出来た、ミトン状の手袋を嵌めます。
 少々不格好ではありますが、こうすることで胸や肛門に仕込んだローターやバイブを、自分たちの意志で動かすことができます。
 この段階で左手が使えなくなりますが、お互いわかっているので協力すれば問題ありません。手首のあたりの紐をしっかり引き絞って、外れなくします。
 そして、次に分厚い目隠しをお互いにさせ合います。これも鼓膜と同じで、眼球が圧迫され過ぎて痛くなったり気分が悪くなったりしないための措置でした。
 実際、何度かバキュームチューブを試していた時、顔に張り付く力が強く、気分が悪くなり、解放されても暫く目が見えなくなったことがありました。あのときは気分も最悪で、このまま失明したらどうしようかと肝を冷やしたものです。
 その時の教訓から、過度に眼球が圧迫されないように目隠しをしておくことにしたわけです。
 バキュームが始まったらどちらにせよ見えなくなるのですが、私たちの視界は早くも閉ざされてしまいました。
 あとは手探りと感覚で準備を進めるしかありません。
(とはいえ、もうそんなにないですし……あと一息です)
 まず私は手探りでノリコの顔の位置を把握し、その口に嵌められた枷と、自分の口を塞ぐ枷とを触れさせ合いました。軽くノリコの頬を指で叩いて合図を送ると、それに応じてノリコが大きく息を吸いこみます。
 私もそれと同時に、深く息を吸いこんで――

 口と口を連結し、固定してしまいます。

 もうこれで、私もノリコも、お互いが吐く息しか吸えなくなりました。
 どろりと熱い息が唾液と共に流れ込んできます。入った来た空気を吸い込みます。熱の篭もったその息は、私の肺を満たし、そしてそれを私が吐き出すと、吐き出した先に吸いこまれていきました。
「ふぅ……ふぅ……」
 枷を通じて、呼気の交換が行われているのです。これ自体は慣れ親しんだ感覚ですが、これが生涯最後の呼吸になるのかと思うと、興奮度合いが増します。
(苦しいけど、気持ちいいですね……ん?)
 熱いものが私の中に伸びてくるのがわかります。
 ノリコが舌を伸ばして来ているのだとわかり、すぐにでも舌を絡めたくなりましたが、少し我慢です。
 そういう意図を込めて、舌を絡めることはせず舌先で弾きました。弾かれて驚いたのでしょう。ノリコの舌が引っ込みます。
「んぅ……っ」
 不満そうな声をあげるノリコですが、仕方ありません。
 まだ体勢がちゃんと整っていないですし、このまま逝ってしまったらこれまでの準備が中途半端に終わってしまいます。
 私はなるべく深く息をしないように気を付けつつ、左手をノリコに回して抱きしめ、右手はノリコの身体を伝って、彼女の股間に――秘部へと這わせます。
 そこはもうすっかり濡れていて、ドロドロになっていました。
(いきますよ、ノリコ)
 私は中指と薬指の二本を揃えて、その穴の中に指を挿し入れていきます。
 そして同様に、ノリコも私の身体を左手で抱きしめ、右手で私の股間を弄ってきます。

――ぐちゅり、ちゅぷり……

 私の股間はここまでの拘束ですっかり濡れているらしく、ノリコの指によって弄られると、湿った音を発しているのがわかります。
 私とノリコは、前の穴に関してはお互いの指しか入れない、という約束を交わしていました。
 同性愛者であることに誇りを持っていた私たちは、紛い物であれ男性器を、自分たちが愛し合うための代替物として性器に受け入れるのが、どうしても許容出来なかったのです。
 お互いの指だけがそこに入れる、という特別感は、私たちを満足させてくれていました。

 抱きしめ合い、性器に指を入れあった私たちは、ようやくひとつになることができました。

 どくん、どくんと心臓が鼓動するのが全身で感じられます。
 私は右手の親指でノリコの下腹部を軽く二度叩きます。
 最後の確認です。
 同様に、ノリコも親指で二度、私の下腹部を叩きました。
 問題ないという合図です。
 私はいよいよその瞬間が来ることを感じつつ、自分の舌をノリコの舌に伸ばしました。
 一瞬引っ込んだノリコの舌が、私の舌と絡み合い、言葉よりも雄弁にお互いの意志を伝えます。
(逝きますよ――ノリコ)
(逝きましょ――サオリ)
 私は左手に握り込んだコントローラーのスイッチを押しました。
 バキュームチューブの装置が動き、全方位から私たちの身体にチューブが張り付いて、圧縮してきます。

――ギュウウウウ! ミシッギチチッ!

 ひとりでバキュームされた時とは比べ物にならない感覚に、私たちは揃って悲鳴をあげていました。
「「ン――ッ!!」」
 全身が余すことなく、ラバーによって圧縮されています。
 ラバーは分厚く強度も十分にあるのに、柔軟に凹凸に対応し、私とノリコの間すら綺麗に圧縮してくれていました。
「ム~~ッ!!」
 ノリコの叫びがダイレクトに響いてきます。口と口が繋がっているのですから当たり前ですが。
 私たちには私たち自身がどうみえるのか知る由がありませんでしたが、傍からみた私たちは非常に卑猥なオブジェになってしまっていました。
 ふたつの女体が複雑に絡み合っている様子や、身に着けている器具の凹凸さえ露わにしてしまっていたからです。
 特に目立っていたのは股間のバイブです。
 突き出してしまっていた持ち手が、バキュームの圧縮によって体内へとさらに押し込まれていました。
 もう少しバキュームの力が強ければ、私たちの直腸はバイブによって突き破られていたかもしれません。そこまでいかなかったのは幸いでした。
 いずれにせよ、物凄い感覚に襲われていることは間違いありませんでした。
 あまりにも全身から感じるものが強すぎて、混乱さえしてしまいます。
(あ、ある程度は予想していましたが……これは、予想いじょ――)
 そんな風に考えた、瞬間でした。
 いきなり、体内が爆発したのかと思うほどの、衝撃がお腹の中から発生したのです。
「ンギィ!?」
 泡を食ってしまいましたが、どうやらノリコがバイブを起動させたのだということを辛うじて理解することが出来ました。
 バイブがお腹の奥の方まで満たしているので、振動が全身に伝播しています。
 全身が震えるほどの衝撃を受けてしまいましたが、そのおかげでノリコがいきなりバイブを動かした意図がわかりました。
(な、なるほど……! 予想以上にバイブが押し込まれた苦しみを、これで誤魔化したいんですね!)
 そういう意図だと察した私も、ノリコの肛門に入ったバイブのスイッチを入れます。
「ングゥウウウウッ!」
 ノリコの悲鳴が響きます。
 お腹に触れているノリコのお腹が震えている感触が伝わってきています。
「んぁっ! ぅ、うううッ!」
 お腹とお腹が触れあっているのですから、その振動の電波は予想してしかるべきでした。相手だけに生じるはずの振動が、自分の身体にも襲いかかってきて、振動の効果が倍増しています。
(これなら……胸の方も……!)
 貞操ブラを着けているお互いの胸は、抱きしめ合っていたのとバキュームチューブの効果もあって、お互いにお互いの乳房を押し潰すような形になっています。
 それだけ密着しているなら、仕込まれたローターの振動がお互いに感じられるのは当然です。
 私は畳みかけるようにリモコンを操作し、胸のローターの振動をオンにしました。
 まるで自分の胸の方が震えているような、凄まじい刺激が走りました。
「ン、フぁッ!? んぁ、あっ」
 ノリコのローターが震えているにしてはあまりに強い刺激に驚きましたが、自分の側のローターも動いているのだと、すぐに気付きました。
 恐らくノリコも同じ事を考え、同じタイミングでスイッチを入れたのでしょう。
 こんな状態になっても、私とノリコは心が通じ合っているような気がして、胸に喜びが滲みます。

――ギチギチッ、ギシ、ギッ……

 ふたりして激しく悶えているからか、色々な道具が緩衝材になって裸で入った時ほどチューブが密着していないからか、ラバーの軋む大きな音が響きます。
 動けないのは変わりませんでしたが、ラバーの軋む音が気持ちを盛り上げてくれています。
 しかし私は、あっという間に呼吸が苦しくなってくるのを感じていました。
(はぁ……はぁ……もう苦しく……さすがに……はぁ……厳しか……です、ね)
 人間の吐く呼気は完全な二酸化炭素というわけではなく、酸素も含まれています。
 なので、相手の吐く息しか吸えない状態になっても、呼吸が一瞬で出来なくなって意識を失うようなことにはならないと考えていました。酸素が減っていくのは変わりありませんから、苦しいのは当然です。
 それに、人間の吐く息というものは、相手の体温によって温められているため、それを吸えば吸うほど、体に熱が溜まっていくような息苦しさを感じます。
 密閉空間で空気が籠ったことも合い成って、頭がぼうっとし始めていました。
 コントローラーを握った左手を、強く握りしめます。
(まだ……まだ、気は失わない……!)
 最期の愉しみを、この程度で終える気はありませんでした。
 私は右手を動かし、ノリコの秘部を弄ります。バキュームチューブは股間にすらぴっちりと張り付いて来ていましたが、圧縮前からノリコの中に挿入しておいた中指と薬指まで動かせなくはなりません。
 指先で引っ掻くように、ノリコの性器内を刺激します。
 彼女が一番弱いところを重点的に責めると、びくびくん、とノリコの体がいい反応をするのがわかります。ノリコの秘部からさらに愛液が分泌され、指に絡んでくるのを感じました。
「ングッ――ンッ♡」
 さらに股間に密着している手のひらで、ノリコの股間を――クリトリスの辺りを刺激します。さすがにラバーに抑えられているそこは、そこまで自由に動かすことはできませんでした。
 少しもどかしい感じはしましたが、十分以上に昂っているノリコは、その微妙な刺激でも気持ちよくなれているようです。
 内から外から、ノリコを責め続けます。
「ん、ぅ♡ ふぁ、んっ♡ んんっ♡」
 可愛らしい呻き声を上げ、ノリコが悶えます。
 悶えながらも、ノリコも私を気持ちよくするために、動き出してくれていました。
 私の性器が、内側からかき乱されます。
 体の中を伝わって、ぐちゅぐちゅ、と水音が聞こえてきていました。
(そう、いえば……私の、方が……濡れやすい、んでし、たっ、け……っ♡)
「んぅッ、んんっ――んぁっ♡」
 私の弱いところをノリコの指が突いてきます。
 きゅんと膣が締まり、挿し込まれているノリコの指を強く締め付けてしまいました。その私の抵抗を物ともせず、ノリコの指が私の膣内を弄りまわします。
「んッ♡ ぁッ、はふっ、ん、あぁ……ッ♡」
 私は、いまだかつてない快感を得ていました。
 死が目前に迫っていることもあて、快感が倍増されているのかもしれません。
 快感の波が頭の中を焼いていくようでした。
(ああ……意識、が……だんだん……遠く……)
 考えることすら億劫に、思考が緩慢になっていきます。
 密閉され、圧迫され、愛撫し合ったことによって、体温が上がってしまったのでしょうか。
 お腹の中を満たすバイブがさらに太さを増し、普通よりも押し込まれた分も合わせ、お腹の中を突き破らんばかりに押し上げているのがわかります。
 さらにその上バイブの振動は止まらず、全身がバイブになってしまったかのような、そんな錯覚さえ覚えます。
 吸っても吐いても、呼吸は楽になりませんでした。酸素がいよいよ失われ、脳の活動もどんどん停止しているのでしょう。
 さっきまで自分の意思で動かせていた右の指先も、痺れたようになって、ノリコの膣を弄ることすらできなくなっていました。

――はぁ……はぁ……はぁ……

 私とノリコ、ふたりの呼吸音がどちらからともなく静かになっていきます。
 苦しいのか、それとも感覚を求めてなのか、私の体に回されたノリコの腕が、弱弱しい力ながら抱き締めてくれるのを感じます。
 私もうまく動かない体を無理やり動かして、ノリコの体を抱き締めるのに全力を込めました。
 触れ合った全身で、ノリコの鼓動を感じます。幸せな感覚でした。

――どくん、どくん、どく、ん……

 そんな彼女の鼓動は徐々に、ゆっくりと落ち着いて行きます。
 耳鳴りがし始め、何も聞こえなくなりましたが、ノリコの心音はまだ体を通じて伝わってきていました。

 そして、いまの私には、それがすべてでした。

 もうなにも考えられません。
 ただ、最愛のノリコが一緒にいてくれるということだけがわかります。
(あり、がと――ノリコ)
 もしも来世なんていうものがあるのなら、ノリコと一緒に幸せになれる世界でありますように。
 その思考を最後に意識が完全に朦朧となりました。
 覚えていた息苦しさも快感に変わり、自然と突き出した舌が、別の暖かい熱を持つ何かに当たって、気持ち良さを生み出します。
 体の底から湧き上がる気持ち良さと、幸福感に包まれながら、私とノリコの命は静かに消え去っていくのでした。

 最愛のノリコと一緒に逝けた私は、幸せでした。


おわり
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