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白日陰影

箱詰系、拘束系の18禁小説を書いています。関連の同人・版権作品のレビューも書きます。18歳以下の閲覧禁止。

後ろのめりに死ぬ私

でぃれに様からコミッション依頼をいただいて書いた作品です。
呼吸制御で死ネタなので、耐性がない人は注意してください。
リアルには真似しないようにしてくださいね。死ぬから。

つづきからどうぞ
後ろのめりに死ぬ私


 大学を卒業したその日、私は死ぬことにした。

 就職に失敗したわけでも、大学を卒業したら結婚を予定していた相手と破談になった、というような悲劇的なドラマがあったわけでもない。
 私が死のうと思った理由はただひとつ。
 好きな人が遙か遠くに行ってしまうからだった。
「それじゃあまたね、かがり。お互い頑張りましょ」
 その子は、私の大好きな笑顔で、そんな風に言ってくれた。
 いつだって明るくて元気な彼女。その笑顔がもう見納めになるのかと思うと、胸の奥がきゅんと高鳴るのを感じる。
「うん……そうだね」
 彼女はいつだって私と一緒にいてくれた。ルームメイトとして一緒に暮らした四年間。
 それはとても楽しい時間だった。もしかしたら、彼女も私と同じように、私に恋してくれはしないかと期待したこともあった。
 けれども、私と同じ気持ちになってはくれなかった。
 友達として――最期の贅沢をいうなら、親友としては良好な関係を築けていたけども。
 彼女は私を恋の相手には選んでくれなかった。
 それは仕方ない。そう、仕方の無いことなのだ。
「みさとー。そろそろいくぞー」
 そう言って遠くで手を振っているのは、彼女の恋人だった。お世辞にもイケメンとは言いがたい、素朴な顔をした彼。けれど彼がとても優しいことは私も知っているし、そんな彼だからこそ彼女を幸せに出来ると思えた。
 彼女と彼は大学卒業と同時に結婚し、遠く離れた北海道にある彼の実家で農業を営んで暮らすのだという。
 大好き、という気持ちが溢れている輝かしい笑顔で、彼女が手を振り返す。
 その姿に、私の脆い心は千々に千切れていくようだった。
「かがり、ばいばい!」
 最高の笑顔で、彼女は私から離れていった。
 私は「またね」とも「さよなら」とも言えず、彼女が遠ざかって彼の方に走って行くのを眺めていた。
 彼が運転してきた車に彼女は乗り込み、あっという間に居なくなってしまった。
 何の余韻もなく、何のドラマもなく。
 これからも幸せに生きていくであろう彼女と、これから独り寂しく死んでいく私。
 人生が広がっていく彼女と、人生が閉じていく私。

 そんな未来の落差に私は――震えるほどの、快感を覚えてしまうのだった。




 彼女がいなくなった部屋はがらんとしていた。
 元々彼女の荷物の方が多かったということもあるけど、私が今日のためにこっそり片付けを済ませていたということが大きい。この日のために何ヶ月もかけて、彼女に気づかれない程度に必要最低限の荷物に絞って残していた。
(大学卒業したら出て行かなきゃいけない部屋だから、気づかなくても仕方ないよね……)
 引っ越しの準備という体にしていたから、彼女に疑われることは全くなかった。
 就活ではなく終活をしていることに気づいて欲しかったような気もするけど、気づかれるとそれはそれで大変ややこしいことになっていただろうから、きっとこれでいい。
 独りで納得しつつ、自分が残した最後の荷物を、順に車に積み込んでいった。この日のために中古で買った軽ワゴン車。自分一人でも十分運べる程度の荷物を積み込めば、私の退出準備も完了する。
(本当はこの部屋で終わらせたかったけど……次の人の迷惑になっちゃうもんね)
 彼女と暮らした思い出のある部屋を汚しながら悲惨に終わる、というのも実に破滅的で惹かれるものがありはしたのだけど。
 小心者の私は、なるべく周りに迷惑がかからない形で人生を終えようと思っていた。
 私が破滅願望に目覚めたのは、何もあの子と愛し合えないのを自覚したからじゃない。
 元々、幼い頃から私には破滅願望があったのだ。
 それは多分、私を生んだ両親が、ふたりで心中する道を選んだから。両親は私の前で互いに互いの首を絞め合って亡くなった。とても幸せそうな最期だったと記憶している。
 なんで両親が私を巻きこんでくれなかったのかはわからない。
 わからないけど、それ以降私はいつか自分が終わる時は、両親のように終わりたいと思うようになってしまった。
(……だから、あの子は私を好きにならなくて良かったんだろうなぁ)
 いつか一緒に死んでもらおうとしていたかもしれないから。
 彼女が私を好きにならなくて、結果としてはよかったのかもしれない。きっと彼女はこれから優しい彼と一緒にたくさんの子供に恵まれて、幸せに生きていくのだろうから。
 理想は愛し合う二人で一緒に死ぬことだったけど、私の愛する人は他の人を愛して真っ当に生きていく道を選んだから仕方ない。
 彼女への愛だけを胸に抱え、私は今日死ぬつもりだった。
 部屋を引き払って、荷物を積んだ車に乗って移動すること暫く。

 私は私にとっての最後の場所――人気の無い港の一角に辿り着いた。

 ここにはあまり人や車が来ないことを確認済み。何をしていても、誰かが来ることはまずない。
 しかし同時に、長い間車がぽつんとあれば目立つので、死体が腐り始める前に、程よいところで見つけてもらえるはずだった。
 あまりにも放置されすぎると、それはそれで迷惑になってしまうからそのバランスは大事だ。
 死んでからのことなんて考えても仕方ないのだけど、誰にも不幸になって欲しくはなかった。私自身は死を選ぶことこそが幸せだから、いいのだ。
「さて、と……始めようかな……」
 ドキドキしながら、準備を始めることにする。
 今日この日の、最期に楽しむための道具を、たくさん持ってきたのだ。
 破滅願望があるとはいえ、苦しいのも痛いのも嫌だ。
 睡眠薬を大量に摂取して眠るように、という方法も考えたけど、最後なのに薬を飲むだけというのも楽しみがいがない。
 そこで私は、気持ちいいを持続させたまま逝けるように、様々な準備を済ませていた。
 エンジンを切って運転席から降り、軽く伸びをする。誰も居ない港は静かで、潮風が私の髪をバタバタと靡かせた。ぺろりと舌を出して唇を舐める。
「んー……ちょっとしょっぱいなぁ」
 私はそう呟きつつ、ワゴン車の後部に移動。後ろから中へと戻った。
 ワゴン車の内部は、私が最期を迎えるための準備が整っていた。床は寝転んでも大丈夫なように、普通の部屋と同等のカーペットを敷き詰めて柔らかくしてある。
 私はドアが開かないように内側からロックをかける。死にきる前に助けられては困るから、厳重に鍵がかけられるものを選んでいた。
 ガラスにはスモークが入っているので、中の様子は割りでもしない限り見られないはず。
 携帯を懐から取り出して、電源を落とせば、世界から完全に孤立し、独りだけになってしまった。もう誰も助けに来ないし、あの子が戻ってくることもない。
「……さよなら、みさと」
 あの子に対して言えなかった言葉を、呟いてみる。私の呟きは誰にも届かないまま、消えてしまった。
 どうしようもなく孤独で寂しい状況にも関わらず、私の心臓は激しく高鳴っていた。
 いよいよ終わりを始めることが出来るのだから、それも無理はない。
 私は積み込んだ荷物を、車の中に出していった。
 この日のためにコツコツ働いて貯めたお金で買い揃えた道具は、馴らしまでしっかりと済ませてある。私の最期を飾ってくれる道具に不備があっては、有終の美は飾れない。死ぬのに美も何もないかもしれないけれど、私の心持ちの問題だ。
 私は始める前に念のためもう一度道具の状態を確認し、何の不具合もないことを確かめた。完璧に整っている。もう後伸ばしにする理由はひとつもなくなった。
「ふー……」
 大きく深呼吸をして、一端気持ちを落ち着ける。落ち着こうという私の努力に反して、胸に当てた手からは激しい心臓の鼓動が感じ取れていた。
「……ふふっ、本当に、どうしようもない変態ね」
 この性分は死ぬまで治らない――否、死んでも治らないのだろう。
 そんなことを考えつつ、私は自分の服に手をかけた。
 もうこんな服を着ている必要は無い。
 興奮で震える手で失敗しながらも、ボタンを外し、ジッパーを下ろし、ホックを外して、私はあっという間に裸になった。
 脱いだ服は折り畳んで車内の隅に置いておく。事件性がないことを示すためにあらかじめ書いておいた遺書をその上に置いた。
 裸になった私は暫くその格好で床にへたり込んでいた。
 なんて惨めな私。
 今頃私の愛したあの子は、未来への希望を楽しげに語りながら、愛し合う人と一緒に新天地に向かっているというのに。
 私はこんなどん詰まりの狭い場所で、素っ裸になって死のうとしている。
 愛したあの子との格差を自覚する度に、際限なく惨めな気持ちになれた。
 それが私の終わりにとっての、最高のスパイスになる。
 私がまず手に取ったのは、無骨な金属の首輪だった。
 SMプレイで使われる革の首輪とは違う。純粋な金属で出来たその首輪は重く、冷たく、私の首ギリギリの太さしかなかった。
 緩む可能性など欠片もない、絶対的な苦しみの象徴。
 私はそんな首輪を自分の首に巻き、硬い接合部を押し込んで止めた。
「うぇ……っ、くふっ……」
 常に緩く首を絞められているような感覚。血流は止まることがなく、呼吸も遮りはしないけど、そこにそれがあるという実感だけが強烈に残り続ける。
 私は興奮のあまりくらくらする感覚を覚えながら、首輪だけを身に付けた自分の姿をよく自覚した。この首輪はもう外せない。本気でどうにかしようと思えば外せるかもしれないけど、鍵穴は完全に潰してしまっているから、少なくとも私自身にはどうすることも出来ない。 この首輪があるだけで、もう私はまともな生活は送れなくなったのだ。首輪を着けた人間を受け入れてくれる場所なんてどこにもない。
 社会的な死。それを実感する。大学を卒業した時点で、私には何の肩書きも残っていなかったから、ほとんど死んでいたようなものだけど。
 いま私の手で、社会的な私は確実に死んだのだ。
 そのことを改めて自覚し、私は背筋が震えるほどの快感を覚えた。
「――ッ、ン、ァッ!」
 キュンと膣の中が締まるような感触。性的絶頂。
 ただ首輪を嵌めただけなのに、私はそんな風になってしまった。
 呼吸が荒くなって、自然と熱の篭もった息を吐き出してしまう。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
 首輪によってゆるやかに首を締められながら、私は次の道具に手を伸ばした。
 次に私が手に取ったのは、太いバイブが二つ連結された、金属の貞操帯だった。
 バイブはどちらもかなり長くて太い。これを入れられるように穴を解すのは大変だった。バイブの根元は私の手首くらいの太さがあるから、大変なのは当たり前だったけど。
(手で愛して貰うときを夢見て、受け入れられるようにって頑張ったんだよねぇ……)
 しみじみとそんなことを思い返す。
 いまの私の身体の大半は、あの子と愛し合う時が来た時のために調整してあった。毎日毎晩爪は綺麗に整えていたし、身体は常に清潔に、プロポーションも抜群になるように整えていた。彼女の手を受け入れられるよう、両方の穴の拡張だってしていた。
 全て無駄に終わった彼女と愛し合うために整えた身体を、いまから私は無為に使い潰す。
 自給自足で破滅していく私は、傍から見ると滑稽なのかもしれない。
 いや、間違いなく滑稽で惨めで、どうしようもなく愚かだ。
 だけどそれがとても心地よく感じるのだから、救いようがない。
「こんな私と愛し合わなくて良かったよ、みさと」
 どうしようもなく、負け惜しみで捨て台詞だったけど、私は心からそう呟いた。
 気を取り直し、私は貞操帯を装着していく。
 ここまでの行動で、私のあそこはすでに十分な湿り気を帯びていたけれど、さすがに手首ほどもあるバイブを受け入れるには、潤滑油が足りない。
 ここで使うのは、あの子がよく使う芳香剤を溶かしたお湯で作ったローションだった。
 掌に取り出すと、彼女の匂いが車内に充満する。この場に彼女はいないのに、まるで彼女に包み込まれているような、そんな気持ちになれた。
 もちろん私の両腕は何も抱いていない。空想の中で彼女を抱きしめることしか出来ない。
 虚しい。
 匂いだけでも彼女を感じられたら、と思って用意したものなのだけど、思った以上に虚しくて強烈にみじめな気持ちにさせられた。
「あふっ……ふふふ……っ」
 興奮が高まったから、良しとする。
 ローションをバイブに塗りたくったあと、自分の身体にも塗る。穴を解すため、ローションに塗れされた手を無理矢理膣に押し込んで馴染ませた。
「んんんぅっ、ひゃうッ、アはッ」
 抉るように刺激を与えると、一気に快感が弾ける。世界で一番惨めなオナニーは最高に気持ちが良かった。
 私の穴をドロドロにしているのはローションなのか、それとも愛液なのか、わからない。
 それはわからなくても、十分な濡れようになった私の秘部は、押し当てた貞操帯のバイブをあっさりと飲み込んでしまった。身体の中が太いバイブによって満たされる。
(うぅ……苦しい……けど、気持ちいい……)
 貞操帯は私の腰の骨盤の上で固定するようになっている。私が力任せに貞操帯を引き揚げ、規程の太さまで締め上げると、カチン、と金属の枷が嵌まる音がしてぴくりとも動かなくなった。この貞操帯の鍵も壊してあるから、もう外すことは出来ない。
 この貞操帯に排泄をするための機能はない。仮にいまから私の気が変わって死ぬのを止めたとしても、排尿も排泄も出来ない私は数日で死ぬしかない。
 私の命に、生理的な時間制限が課せられた。放っておいても汚物をため込んで死ぬ。
 そんなことになれば、あまりに惨めな死に様になるだろう。それより前に、自ら死ぬ必要があった。
(ふふ……ほんとなら、そんな必要なんてなかったのにね)
 自ら命を投げ出していく。なんて不謹慎で、なんて贅沢なことなのか。
 少しでもマシな死に方をするために、私はさらに次の道具に手を伸ばした。
 次の道具は、足の自由を奪うもの。
 どこにだって歩いて行ける健康な私の足。
 程よく筋肉を身に付けつつも、筋肉質にならないようにと、気をつけて絞った私の美脚っぷりは、あの子に大変好評だった。
 ふたりで宅飲みして酔っ払った時なんかは、決まってみさとが脚を触ってセクハラしてくるのが常だった。
(あの子は私の気持ちなんて知らないくせに、どこまでも期待させるようなことばっかりするんだから)
 本当に厄介な存在だった。
 私がここまでこじれたのは彼女の思わせぶりな態度にも遠因があったように思う――だなんて。意味のない責任転嫁をしながら、私は彼女が好いてくれた脚を永遠に閉じこめる行動を進める。
 荷物の中から取り出したのは、丈が膝上まである、革の編み上げサイハイブーツだ。実用的じゃないレベルにヒールが高く、相当訓練しないと普通に歩くことも難しい。
 この日のために十分履き慣らしておいたおかげで、革が足にぴったりフィットして気持ちいいものになっている。
 本当は直接素肌に履くのはブーツや肌を傷めるから良くないけど、今日で終わる私がブーツや肌が痛むことを気にする必要は全くない。
(それに、素肌で履いた方が気持ちいいんだよねぇ)
 素肌に吸い付くような革の感触は、とても気持ちが良かった。かなり高額で質のいいものを選んだのだけど、その甲斐はあったといえる。
 お尻を床に付けて座った状態で、下から順番に編み込みを締めていく。ぐっ、ぐっ、と力を込めてひとつ、またひとつ。
 足がゆっくりと締め付けられていく感触は、かなりキツく感じるけど、それこそが狙いだ。暫くすれば脚は痺れて痛いとかそういう感覚も覚えなくなり、指先もまともに動かせなくなる。
 そうやってひとつひとつ生きるための自由を捨てていくのが、とてもいい。
 両方のブーツの編み込みを最後まで引き絞り、二度と外す気のない固結びで固定すると、私の両足は完全にブーツと一体化した。
 試しに立ちあがってみようと、身体を捻って足の裏を床に着け、慎重にバランスを取りながら立ちあがる。
 生まれたての子鹿のように、ふらふらと揺れることしかできなかった。ヒールの高さは私が脚を爪先までぴんと伸ばしてようやく立てるかというもの。少しふらつけばあっという間に転んでしまう。
 履き慣らした結果、少しは慣れることができたと思っていたけど、とても歩ける状態ではなかった。理由はすぐにわかった。
 首に巻き付けた金属製の重い首輪のせいだ。これのせいで思った以上に身体のバランスが崩れ、普通に歩くことさえ出来なくなっている。
 まだ脚は動くけど、こんな状態ではどこに歩いて行くことも出来ない。車を降りることさえ出来なくなった。
 もう自分の脚ではどこにもいけない。
 それを意識した瞬間、興奮の余り意識が真っ白になって、身体が大きくふらついた。
「あっ」
 気づいた時には、尻餅を突いていた。
 膝は伸びきっていなかったし、床は柔らかい素材に張り替えてある。だからそれほど尻餅自体の衝撃は強くなかった。
 だけど、いまの私は太いバイブが連結された貞操帯を身に付けていて、突いた尻餅の衝撃はもろに体内を貫いた。
「あぎゃっ!」
 身体の中を殴られたみたいな衝撃が全身に伝播して、私は呻き声を上げながら暫く悶絶することしかできなかった。
 身体を丸め、お腹に手を当てて痛みと苦しみが過ぎ去るのを待つ。涙がボロボロ溢れて止まらない。
「はーっ、はーっ、はーっ……」
 幸い失禁はしなくて済んだけど、全身が痺れて力が入らなかった。
 よだれが垂れているのを感じつつも、荒い呼吸が止まらない。
(あぁ……つらい……)
 私は独りで何をやっているんだろう、という空虚な気持ちが心に芽生える。
 もうどうしたって後には引き返せないというのに、そんなことを考えてしまう。
 そのぽっかり空いた穴を埋めてくれるパートナーは私にはいない。
 このまま自分独りで、最後まで、最期まで続けるしかない。
 惨めで哀れな自分の状況を感じる度に、破滅がひしひしと迫って来ていることを感じ、さらに興奮が燃えあがる。
 どうしようもない、文字通り破滅的な変態なのだ。
「ふぅ……ふぅ……」
 脱力していた身体に力を込めて起き上がり、さらに準備を進める。
 ブーツには膝上、膝下、脹ら脛、足首、とブーツの裾を引き絞るためのベルトがある。
 このブーツは改造がしてあって、そのベルトは左右の靴それぞれと連結出来るようになっていた。つまりそのベルトを締めてしまうと、私は右足と左足を離して動かす、という人間が原始時代から当たり前にしてきた行動も出来なくなる。
「ん……っ、これで……っと」
 足首、脹ら脛、膝下、膝上。
 それぞれのベルトを引き絞って固定し、膝を曲げ伸ばす以外何も出来なくする。
 そしてそのベルトを緩められないよう、小さな南京錠で固定する。
 この南京錠、見た目は極普通だ。ホームセンターで千円以内で売っているような、安物の南京錠のように見えるけど、実はとんでもなく硬い材質で出来ている特注品だった。
 細く見えるつるの部分も、一般家庭で手に入るようなペンチで壊せる代物ではない。どちらを壊せばという話なら、よっぽどブーツの方を壊した方が外しやすいだろう。
 そんな南京錠によってベルトを固定すれば、私にはもうどう足掻いても取り外せない。
「ふー……」
 息を吐きながら、まずひとつ。
――かちん。
 何でも無い鍵の閉まる音が、私の人生の終幕を告げる鐘の音のように聞こえた。
――かちん、かちん、かちん。
 すべてのベルトが鍵によって固定され、鍵を使わないと外せなくなった。
 鍵はこの場にはあるけど、絶対に手は届かない。
 なぜなら、鍵はカプセルに入れ、私自身が飲み込んでしまっているからだ。
 小さな鍵とはいえ、それを入れられるような大きさのカプセルを飲み込むのは大変だったけど、なんとか飲み込んでいた。飲み込んでからだいぶ時間が経っているから、吐き出すことも出来ない。
 南京錠は合鍵が作れるような安物ではないから、私が自力で排泄するか、お腹を割いて取り出すしか、鍵を取り出す方法はない。そして排泄するための穴は永遠に塞がっているので、お腹を割くことでしか、鍵は取り出せないわけだ。
 鍵のありかは遺書に書いてあるから、私が死んだあとでお医者さんが上手く取り出してくれるだろう。
 首輪や貞操帯が外せない以上、あまり意味はないかもしれないけど。
「ふ、ぅ……っ」
 一端小休止を挟む。
 なんだかんだと体中に力を込めないといけないし、拘束された身体は変なところに力が入ってしまうので、かなりしんどい。
 絶妙に締まる首輪のために呼吸もゆっくりとしか行えないので、酸素も不足がちになる。
 拘束を足していくごとに、どんどん苦しみは増していた。
 けれどそれが――いい。
「ふー……、よし」
 私は続いて、胴体の拘束に入ることにした。見納めとして、自分の身体を見下ろす。
 自分でいうのもなんだけれど、均整の取れた美しい身体だった。
 シミ一つ、傷一つない身体。胸の大きさはそうでもないけれど、みさとからは美乳と褒められていた。彼女は巨乳で、それにどれほど触れたいと思ったことか。その機会は一度もなかったけれど。
 柔らかく隆起した胸の先端に、ピンク色の突起がある。その色や形は到って普通であり、黒ずんでいたり陥没していたりもしていない。みさとに「かがりの乳首って、シンプルにえっちぃよね」などと称されたこともある。
(ほんと、残酷だよね)
 そう言ってくれるのであれば、少しはそういう気持ちになってくれてもいいだろうに、あの子は決して私に対してそういう気持ちにはなってくれなかった。
 あの子にとっては単なるおふざけ。女の子同士だからこそ言える冗談でしかなかったのだ。こっちはあの子の大きなおっぱいにそういう気持ちで触れたいと何度思ったことか。
 いまから終わろうという時でさえ、彼女のことばかり考えてしまう。惚れた弱みとはよくいったもので、どうしようもなく彼女に焦がれているのだった。
 焦がれ続け、満たされなかった結果が、いまの私の状況だ。まあ、満たされたとしても、遺体がひとつ増えただけだったかもしれないけれど。
「……はぁ」
 様々な思いの篭もった息を一つ吐き、準備を続行する。
 胴体を拘束するのは、特別製のボンテージ衣装だ。ベルトによって構成されたその衣装は、胴体を亀甲縛りに似た複雑な形で引き絞ることが出来る。
 自分一人でもしっかり締められるように、ベルトには逆行防止の機構があった。一度締めると、緩めるためには特別な工具が必要になる。
 その工具も、南京錠の鍵と一緒にすでに私のお腹の中にある。
 締めすぎることによって失神でもしてしまったら、道半ばの状態で死ぬことになる。
(それは最悪の展開だから、ここは絶対に慎重に……と)
 ボンテージを身に付け、一目盛りずつ慎重にベルトを引き絞っていく。
 私の身体は黒い革のボンテージによって、縦横無尽に引き絞られていった。
 ベルトが身体に這い回り、少し捻るだけでどこかが食い込んで来る。縛って吊されて熟成するハムか何かになった気分だった。
「すー……、うっ」
 首輪が許す限りで、ゆっくりと息を吸いこみ、肺を膨らませると、それだけでベルトが身体に食い込んだ。鈍い痛みが発され、それ以上の深い呼吸が遮られる。
 これで私は、浅い呼吸しか出来なくなった。
(もうちょっと締めても大丈夫かな……?)
 慎重になりつつも、ギリギリを攻めたい私は、肺を膨らませた状態でもう少しだけベルトを絞り、より強くボンテージを身体に食い込ませる。
 さらに苦しくはなったけれど、気を失いはしないだろうという絶妙な強さだ。
 その時点で自分の身体を見下ろせば、そこには無残に歪んだ体がある。さっきまでは確かに均整の採れた、優れたプロポーションの体があったのに。そんなものが意味をなくすほどにベルトが食い込んで、私の身体は無残にひしゃげているようだった。
 それほど大きくはなかったはずの私の乳房も、ボンテージに括り出されてより強調されている。これなら私も巨乳といって良いかもしれない。
 あの子が美乳と呼んでくれた胸は、上下左右から絞り出されてなんとも不格好な、滑稽な形になってしまっている。
 絞り出された乳房に触れると、ビリッと鋭い感覚が走った。
「ん……っ。気持ちいい……あ、そうだ」
 ふと思い出したことがあって、私は手を使って車内を這いずり、荷物の中からスケッチブックサイズの鏡を取り出した。それを後のドアに立てかけ、自分の姿がよく見えるようにする。
 自分の最期の姿をしっかりみて起きたかったので、用意しておいたのだった。
 鏡に映る私は、自分でも驚くくらいに、扇情的な姿になっていた。
 死の熱に浮かされた女が独り、映っている。死に焦がれて陶然とした目は、どこかあの子の目に似ていた。あの子が彼氏に向けていた目と同じだ。意味合いが全く違うのに、同じような目をしているなんて、皮肉な話だ。
(ああ、これがいまの私……私なのよね……)
 鏡の中で、金属の首輪が輝いている。さらに、裸体を絞り出すボンテージ、鈍色に輝く貞操帯。脚は傍から見るだけでもわかるほどに、自由を失っていた。
 朱に染まった頬が興奮を表している。
 自分の状態を客観的に認識して、余計みじめな気持ちになった。
 その状態、姿こそが私の目的なのだ。意識すればするほど、興奮はさらに高まっていく。
「まだまだ……急がなきゃ……」
 自分の最期を飾るために用意した道具は、まだあった。
 私は急いで、次の道具に手を伸ばした。わざわざ自分で不自由にした身体で、必死に動いている滑稽な女の姿を視界の端で認識してしまう。自分の手首ほどもある太いものを咥え込んだ膣が、ぎゅっと締め付けられるのを自覚していた。
 次に私が手に取ったのは、乳首に取りつけるイヤリング型のローターだ。
 本当はピアスホールを開けて、そこにピアスタイプのローターを通そうかと思っていたのだけど、みさとと一緒に居られる間は、傷一つ無い綺麗な体で居続けようというのが、私の密かな意地だった。
 もし万が一。あの子が私に振り向いてくれた時に、汚れていたり傷ついていたりした身体で彼女を迎えたくなかった。
 彼女と別れた今なら、別にピアスホールを空けても良かったのだけれど、穴を開けた直後はさすがに痛いばかりで感じるどころじゃないだろうし、ノイズになってしまいそうだったから、その方式は諦めていた。
 代わりに準備したのが、このイヤリングタイプのローターだ。
 このイヤリングの金具は、強力なバネによって乳首を挟み込むように出来ている。何度か試してみたけれど、私が全身を使ってそれを着けた乳首を床に擦りつけたとしても、外れないくらいには強力に挟み込めることがわかっている。
 その実験をした際は、乳首に走った激痛に悶絶して失禁までしてしまい、後の始末が大変だった。
 そんな風にあえて擦りつけた時や、挟み込んだ直後は痛いけど、痛みさえ引けばローターの刺激で感じるようになるのは実践済みだった。
 自分の乳首に手を伸ばし、軽く触れてみる。胴体を縛るボンテージによって絞り出された私の乳首は、すっかり硬く尖っていた。そんな乳首に触れた瞬間、びりっと快感が私を震えさせる。
「あ……っ」
 思わず声が出た。あの子と愛し合えた時、気持ちよくなれるよう、乳首も敏感に開発済みだった。
 ゆえに、私の乳首はちょっと触れるだけで十分な硬度を保つ。
(これだけ膨らんでいたら……大丈夫よね)
 私はいままでの興奮とは違う意味で、心臓がドキドキするのを感じつつ、ローター付きイヤリングの金具を開いて、乳首を挟み込んだ。
 ひんやりとしたリングの感触に、背筋が思わず粟立つ。
 金具を開いていた指先から力を緩めると、乳首が強く挟み込まれた。
「い……っ、つ、ぅ……っ!」
 乳首が挟み込まれた瞬間、私は激痛に視界が白く瞬くのを感じた。
 こんな風に、冷たい金具で挟み込むために開発したわけではないから、その激痛も当然だった。本当は、あの子と優しく愛し合うためだったのだから。こんな乱暴な刺激は想定していない。
 二重の意味で、胸が痛んだ。
 こうなったら一気に済ませてしまおうと、私はもう片方の乳首にも同じようにローター付きイヤリングを装着する。また目の前が白くなった。
「ふーっ、ふーっ、ふーっ……!」
 痛い。本当に痛い。涙が出て来る。
(でもこれで、暫くしたら気持ちよくなれるはず……っ)
 じんじんと発される痛みに顔を顰めながら、私は気を紛らわせるために次の道具に手を伸ばした。
 次に手に取ったのは、鼻から顔の下半分を覆うマスクだった。
 見た目はいわゆるガスマスクというもので、これを顔にすると先端から伸びるホースを通してしか呼吸が出来なくなる。
 それだけならただのガスマスクだけど、このマスクには特別な装置がついていた。
 マスクの内側には丸い球形のバルーンが接続されていて、マスクを着けるとそのバルーンは自然と口の中に入ってくるようになっていた。
 私はマスクがずれていないことをしっかり確認しながら、バルーンを咥え、バンドを引き絞ってマスクを固定する。ガスマスクについているバンドはしっかり後頭部で止まり、隙間から空気は全く漏れていなかった。
 鼻呼吸をすると、ガスマスク特有のキツいゴムの臭いだけがして、他の臭いはわからなくなってしまった。
(よし……あとはこれで……)
 口内のバルーンを膨らませるほうのポンプを手に取る。それは空気を取り入れているホースと同じ場所から伸びていた。
 ポンプを押し込む度に、口に咥えたバルーンが大きくなっていく。顎が外れそうなほどに膨らみ、舌が抑え込まれて動かせなくなる。
「んが……んぐぐ……」
 元々ガスマスクを被った時点でほとんど声にできなかったけど、口の中が物理的に塞がれて、助けを呼ぶことも出来なくなった。電話も封じられた。
 ガスマスクの固定に使用している鍵や、膨らませたバルーンを萎ませるための道具も、南京錠の鍵とカプセルを共有してお腹の中にある。
(これだけたくさんの鍵や道具を飲み込んだ人間なんて、私が初めてなんじゃないかなぁ)
 そんな阿呆なことを考えつつ、私は完全に口も塞いでしまった。
 フスー、フスー、とホースの先端から私の吸って吐く息が出入りしている。
 そのホースの先端には、呼吸制御の王道の小道具、リブレスバッグが装着される予定だ。
 リブレスバッグには外から空気を取り入れる機能を排除してあるので、それを着けてしまえば徐々にリブレスバッグの中で酸素は薄くなり、最終的にゆるやかに死に到れる、という仕組みだった。
 それを着けると否応なくカウントダウンが始まってしまうので、つけるのはまだ先。
 それより前に、私が生きるために持っていた自由の全てを放棄してしまうつもりだった。
 私に残されている自由のひとつは耳。
 人の声を聞くためにある、人として生きるために大事な機能を放棄する。
 遮音機能抜群のヘッドホンを被った。そのヘッドホンはガスマスクに固定する機能があり、ふたつの道具は一体化して外れなくなる。
 元々場所柄的にずっと静かではあったのだけど、本当に外界の音の一切が遮断されてしまった。聞こえるのは私自身の呼吸音と、心臓の音だけ。呻こうと思えば呻けたけど、それも意味を成さない音でしかない。
 もうこれで、誰の声を聞くことも出来なくなった。誰かが車の外から呼び掛けていたとしても、もう私に反応する術はない。
 あの子の声も、もう聞くことはできなくなった。耳に痛いほどの静寂に、優しく元気な彼女の声が恋しくなる。
 私はいよいよ、最後の仕上げへと進む。
 残る自由は呼吸を除けば、目と腕の二つのみ。
 独りで全てをやらなくてはいけないわたしにとって、このふたつの自由の放棄は難題だ。
 順番を間違えると、そこからどうにもならなくなってしまう。
 まず私は、このために特別頑丈に作ったゴーグルを手に取った。それは外側にカメラがついていて、レンズの内側にカメラの映像が映し出される仕組みだ。
 これで目を覆いつつも、映像を見て準備が進められるという仕組みだった。バッテリーが切れれば視界は真っ暗になって、何も見えなくなるから、バッテリーが切れる前に準備を済ませなければならない。余裕は持っておいたから大丈夫だと思うけども。
 こういう細かい機械工作は私の得意分野だった。
 あの子は逆に今時珍しいくらいの機械音痴で、私が根気強く教えてようやくスマホの操作も覚えたくらいだった。
 だからか、「かがりはそういうのを活かした仕事をすればいいよ!」とよく言われたものだ。死ぬ気だった私は苦笑いで受けることしかできなかったけど、私のことを真剣に考えて言ってくれていたことはわかっていたので、とても嬉しかった。
 実際、そういう技術力は建前として面接を受けた会社の採用担当の人にも中々好評で、内々定を出してくれた企業もあったくらいだから、自信を持っていいレベルだったと思う。
 そんな生きていくために使える技術を、死ぬために使っているのだから、私はどうしようもない愚か者だ。
(さあ……いよいよ、ね)
 私はガスマスクのホースの先に、大きく膨らませたリブレスバッグを装着する。
 接続部をしっかりと締めた上で外せないように鍵をかけ、浅く長く呼吸してリブレスバッグが萎み、膨らむのを確かめる。空気は全く漏れていないようだ。
 死へのカウントダウンが、始まった。
(急がなきゃ)
 最後に、腕の自由も捨ててしまえば、死を待つ体勢になれる。
 腕の自由の捨て方は色々悩んだのだけど、アームバインダーを使うことにしていた。
 自縛でアームバインダーを使用するのは難しい、と言われている。ただ、それは後から外すところまで考えなければならないからで、外さないことを前提とするならやりようはいくらでもあった。
 私はまず、正座の姿勢になった。そしてアームバインダーの先端部分、手の先が入る部分にある金属の部品を、両足のヒールに引っかけて固定する。
 アームバインダーの縁にある細いベルトを身体の前に回し、首に引っかけるようにし
て、ずり落ちないように工夫する。
 まず、片腕をアームバインダーの中に入れた。ラバー製のアームバインダーが肌に吸い付いて来て、とても気持ちいい。軽く拳を握った状態で、先端まで押し込む。
 そして、アームバインダーのジッパーにかけた長い紐を、膝立ちになってなるべくアームバインダーの位置を高くしながら、自動車の天井にあるフックに引っかけた。
「フーッ、フーッ……」
 無理な体勢で色々と動かしているから、額に汗が滲んで呼吸が荒くなる。
 その荒い呼吸に合わせて、リブレスバッグが萎んだり膨らんだりしている。まだ酸素に余裕はあるけど、急がないと酸素不足に陥って窒息してしまう。
 ここまで来たからには完璧に拘束されてから死にたい。
 最後まで自由だった片腕を、アームバインダーの中に押し込んでいくと、両腕が身体の後ろで一本の棒のように固定される。先端部で固めた拳同士がぶつかる。
(……これで、最後)
 もしも戻るならこのタイミングしかない。両手が自由な今なら、生きるためにできることはあるかもしれない。
 万が一にも満たない可能性ではあったけど、何かの間違いで生き残れるかもしれなかった。
 けれど、仮に生きようとしたところで、私はどこに戻ればいいのか。

 両親はとっくの昔に心中した。
 幸せになったあの子の邪魔はできない。

 私には戻る場所も行く場所も――この世界のどこにもないのだ。

 私は最後の未練と迷いを断ち切るつもりで、腰を真下に落としていく。
 それに伴って、アームバインダーのジッパーが上に向かって引かれ、両腕の拘束が完成していった。
 手首から二の腕、肘、力こぶのあたりを、ジッパーの感触が移動していく。
 両腕を纏めて固定し、締め付ける力が更にキツくなって、思わず悲鳴をあげた。
「ング、ゥゥ……ッ」
 だが、完全に塞がった口では、蚊の鳴くような悲鳴しかあげられない。その悲鳴を誰かが聞いて助けてくれるなんてことは、ありえない。
 そしてとうとう、アームバインダーのジッパーが一番上まで引き上げられた。
 もうどんなに頑張って暴れても、拘束が緩むことはない。

 数時間後の死が――確定した。

 ゾクゾクと背筋を得体の知れない感覚が走っていく。
 私は天井のフックに引っかかっている紐を、頭を使って外した。
 これで、ずっと正座のままでいる必要は無い。
 大きな刺激にならないように、ゆっくりとその場に横たわる。
「フー……フー……」
 身体の各部を締め上げる拘束が私から完全に自由を奪っていた。目の前でリブレスバッグが膨らんだり萎んだりしているのが見える。
 もうあとはただ死を待つだけ。全力で暴れても、もはやどうにもならない。
 興奮でどうにかなりそうだった。やっと恋い焦がれていた死に到ることができる。
 ここにあの子が一緒にいてくれたら、と少し思ったけれど、そんな未練は視界が暗くなっていくに従って薄れていった。
 いよいよゴーグルの電源が切れる。
 視界が暗闇に閉ざされ、ありとあらゆる自由を捨てた女の身体の感覚だけが、私の感じられる世界の全てになる。

 そしてそれは、終わりの始まる合図でもあった。

 ゴーグルの電源が切れ、視界がなくなるのを合図に、身体に身につけた責め具の全てが、起動したからだ。
 触覚を除いた五感を捨てた私の身体に、その触覚を通じて与えられたのは、強烈すぎる快感だった。
 乳首に取りつけたローター、そして体内に挿し込んだ二本の巨大なバイブ。
 一番感じる性感帯に取りつけたそれらの責め具は、私を否応なく一瞬で快楽の絶頂へと叩き上げたのだった。
 体内を蹴り上げられたみたいな、そんなすさまじい衝撃がいきなり襲ってきた。
「グゥッ、ウゥッ!!」
 無駄だと判っているのに、体が暴れるのを止められなかった。力を込めた拍子に、全身を覆う拘束具がミシミシと音を立てて軋む。
 もちろんこの時のために大金を積んで準備した本格的な拘束具が、私程度の力でどうにかできるわけもない。
 ゴーグルの電源が切れるのと同時に動きだした膣内のバイブは、まるで蛇のように蠢き、私の膣内を震えながら這い回る。肛門に潜り込んでいるバイブも同様に蠢いていた。
 二本のバイブはそれぞれ別に動いているので、時折壁ごしにぶつかり、私に気も狂わんばかりの強烈な快感を叩きつけてくる。
 こんなものを普通の人が入れられたら、感じるどころじゃない。二つのバイブにお腹が食い破られそうな痛みが生じて、声もなく悶絶することしかできないだろう。
 だけど私は違った。この日のために何度も調整し、苦しみよりも快感が勝るように訓練してきたからだ。
 そして、その下地に加えて、バイブに垂らしておいた特性のローションの効果。
 いまはもう匂いを嗅ぐことも出来ないけど、みさとの愛用している芳香剤の匂いを沁み込ませたローションが、バイブふたつが蠢く痛みや苦しみを軽減してくれている。
 その甲斐あって、私は股間の二本のバイブの動きで非常に気持ちよくなれていた。
 ただ、私が考えていたより、徹底的な拘束を加えたことによって快感のステージが数段上がっていた。
「フーッ! フーッ! フーッ!」
 あまりの快感に呼吸が荒くなる。
 もう見えないけど、呼吸に合わせてリブレスバッグが激しく膨らんだり萎んだりしていることだろう。限られた空間に残っていた酸素がどれくらいなのか、わからないけど、一気に消費してしまっているのは確かだった。
 まだそんなに息苦しくはないけど、このままだと限界を超えて早い段階で気を失ってしまうかもしれない。
(それは……だめ……っ、まだ……まだ……っ)
 少しでも最期の時間を楽しむために。
 バイブが生じさせる快感の渦の中、必死に呼吸を整える。それは相当難しいことだった。
 そんな私の努力を嘲笑うかのように、乳首を挟んでいるイヤリング型ローターが鋭い刺激を与えてくる。
 ただ震えるだけじゃ味気ないと思って、ランダムなパターンで震えるように設定していたのだけど、その効果は想像以上に強烈な刺激になって、私に襲いかかってきた。
 まるで誰かの指によって乳首を突かれているような気がする。
 誰かの指先が乳首を摘まんで、押し潰して来ているような。
 そんな鋭くも激しい快感が連続で私に襲い掛かっていた。
(はぅっ、は、ああっ)
 その刺激から逃れようと体を捻る。横向きになっていた体が、仰向けになるのがわかった。
 後ろ手に固めた両腕が体の下敷きになってしまったけど、気にしていられない。
 体を弓なりに逸らして呻く。そこに、また乳首を突かれるような刺激が走った。
「ハヒッ……あッ、ウぅッ!」
 パターンの変わるタイミングが良くて、まるで近くに人がいて、悪戯をされているかのように錯覚する。
 この刺激の主が愛するみさとであったなら、どれほど良かっただろうか。
 いつものように楽しそうに、私をからかうときと同じように。
 拘束されて動けない私の乳首に悪戯してきてくれているとしたら。
 実際には、みさとがそんなことをしてくれるわけがない。それは私自身が一番痛いほど理解していたけど、最後くらいは好きに妄想しても罰は当たらないだろう。
 乳首への刺激を、みさとにされているつもりで、刺激を享受する。
『ふふっ、かがりってば、敏感~。乳首すっごく大きく、固くなってるじゃない』
 悪戯好きなみさとなら、そんな風に言いながら責めてくるのが容易に想像がつく。
(み、みさと……みないで……私の、恥ずかしいところ……っ)
 そんな風に私が逃れようとしても、あの子はきっと許してくれない。そんな私の反応をむしろ楽しむことだろう。
『ほらほらっ、かがりのえっちな乳首を、もっと責めて、弄ってあげる!』
 あの子が私の乳首を弄っている。尖って反応してしまう私のいやらしい乳首を、彼女の細い指が摘まんで、押し潰し、擦りあげる。
「ふぎっ! ん、むゥ~~~ッ!」
 みさとに弄られている、と思い込むだけで快感のステージがさらにひとつ上がった気がした。
 どれほど彼女に夢を見ているのか。その妄想が妄想であることは痛いほど理解していたから、私は余計に惨めな気持ちで、大きな快感を覚えてしまう。
 身体を捩らせ、呻きながら藻掻いた。身体の節々が痛くなるほどに力が入り、拘束具がギシギシと音を立てる。
 けれど、そんなことで拘束された身体が自由になることはなく、乳首に刺激を与えてくるローターが止まることもなかった。
 もし本当に本人が刺激を与えているのであれば、ある程度でやめているだろう。あの子は悪戯好きで快活な子だったけれど、サドスティックってわけじゃなかった。
 いまの私みたいに、本格的な拘束をされた人を見たら、興味よりも心配が先に立つタイプだ。乳首を捻って虐めるような真似ができるとは思えない。
 だから、無常に刺激を与え続けてくる時点でみさとの手ではないし、みさとに責められる、ということ自体、妄想でしかない。
 現実との乖離により、私の想像のみさとは薄れて消えていった。
 自分の正しい認識が憎い。みさとのことを誰よりも理解しているからこそ、私の愛し合い方で愛し合う妄想すらろくにできないのだから。
 そんなことは、あの子を愛してしまった時からわかっていた。
 私の破滅的な愛は――あの子には受け入れないないと。
 胸が苦しい。それは心情だけの問題ではなかった。
「かふっ! ぐ、うぅ……ッ」
 だんだん呼吸が苦しくなってくる。吸っても吸っても楽にならない。
 リブレスバッグの中の空気がいよいよ二酸化炭素で満たされ、新鮮な空気が吸えなくなってきたのだ。
 眠気が襲ってくる時のように、意識がだんだんぼやけてくる。
 いつもの睡眠と違うのは、気を抜いて意識が落ちたが最後、私の意識はもう二度と戻らないであろうということだった。気絶したところで酸素が必要であることは変わらず、減るしかない今の状況では、一度酸欠で気を失えば再度目覚めることはあり得ない。
 いまさらながらに死への恐怖が沸き上がってくる。
 渇望していた筈の死が目の前にまで迫った時、私の理性は恐怖に悲鳴をあげていた。
 恐怖で呼吸が速くなる。
(ま、ずい……っ、おちつか、なきゃ……!)
 呼吸が速くなればなるほど、死への時間は短くなる。落ち着いて呼吸を鎮めなければならない。
 けれど、私がいくら落ち着こうと努めても、どんどん苦しくなるのは変わらない。
 苦しくなればなるほど、焦りは強まる。
(くるしい、くるしい、くるしい……っ。たす、けて……!)
 ここにはいない誰かに助けを求める。
 誰にも助けられないような場所で、終わりを始めたのは私自身だというのに。
 助けが来るなんてない。
 暴れたところで意味はないのに、体をくねらせ、少しでも何か突破口が開けないのか試してしまう。
 突破口が絶対に開けないように、たとえハンマーやのこぎりを用いたとしても脱出不可能な拘束を施しているのに。
 それらのことを、私自身が一番よく理解していた。
 助けを求めるだけ無駄。拘束を解こうとするだけ無駄。
 頭ではわかっていたけれど、死が一歩一歩迫ってくる現状でそんな余裕はひとつもなかった。
 どくんどくん、と心臓の激しい高鳴りが、締め上げた身体を内側から食い破らんばかりに鳴り響く。
「ウゥ、うぅうううううううっッ!!!!」
 身体が勝手に自由を求めて暴れた。
 生きるために、足掻く。
 こんな風にしたのは自分なのに、私はこう思っていた。

(しにたく――ない)

 手を使おうと力を込める――
 アームバインダーが微かに軋んだだけだった。

 足で立とうと力を込める――
 痺れが限界で、上手く動かせなかった。

 助けを呼ぶために声をあげる――
 口内を埋め尽くし、圧迫するバルーンに遮られた。

 誰かいないかと耳を澄ます――
 自分の心臓と呼吸の音以外何も聞こえない。

 何か方法はないかと目を凝らす――
 見えるのは暗闇だけで何も見えない。

 助かる方法はないかと頭を巡らせる――
 酸欠気味でほとんど頭が回らない。

 あらゆる事実が告げていた――私は、死ぬのだと。

 それを改めて自覚した瞬間、全身をいままでないくらいに強い快感が駆け巡った。
 股間を貫いているバイブの振動が、乳首を挟んで震えているローターの振動が、快感をさらに倍増させ、私を至上の絶頂へと持ち上げていく。
「~~~~ッ!」
 真っ暗な視界が真っ白になったように錯覚するほど、連続で絶頂してしまい、自分の状態がわからなくなるほどに快感に翻弄される。
 昂ぶりすぎて戻れない。全身が勝手に跳ね、電流を流された死刑囚のように痙攣する。
 生暖かい感触が股間に広がる。失禁してしまったのだろう。けれど尿の匂いは全くしない。吸っている空気が全く交換されていない証拠だ。
 肛門は塞がっているから大便を漏らす心配がないというのは、発見してくれた人が少しでも嫌な思いをしなくて済むという意味で良かった。
 とはいえ、死体を見つけていい思いをする人はしないだろうし、全身が腐ってしまえば多少の汚物の有無なんて関係ないかもしれないけれど。
「か、ふ……あ……っ、うぁ……」
 絶頂の荒波が過ぎ去り、少し思考に余裕ができる。
 頭が本格的にぼんやりとしてきていて、まともに考えられているかは自信がなかったけれど。
 吸って、吐いて、吸って、吐いて。
 どんなに望んでも新しい新鮮な空気は手に入らない。
 吐いたばかりの濁った生暖かい空気だけが、私の身体に戻ってくる。
 少し前まで死への恐怖に怯えていたのに、いまはその死への恐怖がすっかり麻痺していた。
 これから自分は死ぬんだ、と冷静に感じる。
(あー……もう、いいや……)
 身体から力が抜ける。暴れる気力もその意味もなくなり、私は縛られている身体で、与えられる振動の刺激を緩やかに受け入れていた。
 機械に感情はないから、さっきまでと動き方は全く変わっていない。
 変わっていないはずなのだけど、こちらの心持ちが変わったからか、私が生じる快感も穏やかなものに変わっていた。
 もう激しく感じるだけの余力もなくなっただけかもしれない。
 揺り篭の中であやされているような、そんな穏やかな気持ちよさに包まれていた。
「んぅ……っ、ふ……くぅ……」
 じわじわと快感が広がり、全身が満たされていく。
 こんなに幸せな気分になれたことはいままでなかったかもしれない。
(ん……あれ……? から、だ……うごかな……い……)
 一度脱力してしまった身体には、全く力が込められなくなっていた。身体を捻ることも、首を持ち上げることもできない。頭が体を動かす方法を忘れてしまったようだ。
 足掻くこともできなくなったのだと実感した。
(……? あし、あるよね……?)
 足を動かす動かさない以前の問題で、感覚が完全に消えていることを知った。
 さっきまでは折り畳まれた上で、ブーツにギチギチに締め付けられている感覚があったのに、いまはそれすら全く感じられない。
 私が感じ取れるのは股間と胸に生じている振動からの快感だけで、足が無くなってしまったかのように、腰から下の感覚からほぼ消えていた。
 血が通わなくなって壊死しかけているのかもしれなかったけど、いまの私にはもうどうでもいいことだ。
(て……は、まだ、ある……?)
 腕の方ももうほとんど感覚がない。さっき身体の下敷きにしてしまったから痺れるのが早まったのだろう。
 いまは身体が横を向いているから下敷きにはなっておらず、その分少しだけ血が通ったようだった。足と違って、まだそこにあるという感覚は残っていた。
 けれど、辛うじて残っている感覚も、すぐに消える刹那のものでしかないのだろう。
 私は端から順に身体の感覚を失い、やがては意識そのものが消えることを予期する。
(……しず、か、だぁ……)
 もう自分の心臓の鼓動の音も、呼吸音も聞こえない。聴覚自体が薄れているようだった。
 まだ辛うじて残っている触覚は、心臓の鼓動や呼吸に伴うわずかな振動を捉えている。
 逆にいえば、それだけが私がまだ生きている実感の全てだった。
「……ぅ……っ」
 呻き声すらもうあげられない。自分の身体がゆっくりと動かなくなっていく。
 意識に霞がかかったようになって、気を抜くといまにも永遠に覚めない眠りについてしまいそうだ。
(……もう……いっ……か……ぁ)
 意識を保つ必要もないんじゃないかと、最期まで意識を保とうとする意志が負けそうになる。
 気持ちいい感覚に浸っているのだから、このまま眠るように意識を手放してしまっていいのではないかと。
 諦めてしまえばいいのではないかと悟った。
 そう悟った瞬間、急激に眠くなってきた。死の間際には走馬灯が巡るとされていたけど、私の脳裏には何も浮かばなかった。走馬灯を巡らせる力もなくなったのだろう。
 意識が千々に霧散していく。
(……あー……ぅ、ぁ……)
 もう自分が誰なのかも、みさととの思い出も浮かばない。
 意識が闇に沈んでいく。
 呼吸も、もうできていなかった。
 心臓の鼓動の感触も、ほんのわずかにしか感じない。
 死が目の前にやって来ているのを感じる。
 その時、二本のバイブの振動パターンが変化して、ほんの少し意識が揺り戻された。
 快感が背筋を通って、頭を震わせる。
 何を考えることもできず、ただ与えられる快感を受け入れたこの瞬間、私は、たぶん世界で一番幸せな状態にあった。
「――――ぁ」
 最後の魂を振り絞るような、小さな絶頂が訪れる。
 気持ちいいという感覚だけが全てになり、そして、私の命はその快感に吹き消されるように消えたのだった。

 後に残ったのは、無残に拘束され、全ての自由を失った女の身体。
 与えられた命令に従って、動かない肉の塊を振動させつづける機械。

 しばらくの間、誰もいない空間に、機械の蠢く音だけが虚しく響いていた。


後ろのめりに死ぬ私 おわり



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