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白日陰影

箱詰系、拘束系の18禁小説を書いています。関連の同人・版権作品のレビューも書きます。18歳以下の閲覧禁止。

カゴノヒト 1


 一般的に、冒険者になる者には大きく分けて三つの道がある。
 ソロか、すでにあるグループに入れてもらうか、パーティに入れてもらうか、だ。

 まずソロは単純。ひとりで頑張る道。
 依頼人からの事情聴取から探索、戦闘、倒した獲物の処理、その他諸々の雑務。
 冒険者ギルドがやってくれることを除いた、ありとあらゆる全てをひとりでやる。
 当然高い戦闘力や技術、知識までもが求められ、完全ソロでやれている冒険者はほとんどいない。
 その代わり、報酬や名声の全てが自分のものになる。
 ハイリスク・ハイリターンの道だ。

 次にグループに入れてもらう道。
 大抵の冒険者には得意不得意があるから、それを補い合う形だ。
 前衛に立って戦う者、後衛に立って魔法を唱える者、狩り場にたどり着くまでや迷宮の道中の警戒を行う者、狩った獲物を上手く処理する者。
 分担して行うことで、すべてをひとりでやるよりも確実に、かつ、より良い形で行える。
 安全や確実性に関してはそれなりのものが担保出来る。
 ただ、分業であるがゆえによほど気の合うメンバーとでなければ諍いが絶えなかったり、一度メンバーが固定されると新参者が入りづらかったり、問題点も多い。
 報酬や名声はそれなりに分割されるが、ひとりではクリアできない依頼を受けれるため、実入りはそこそこと言ったところ。

 最後に、パーティに入れてもらう道。
 パーティ、とはグループをさらに巨大化したような状態のことで、十人を超える大所帯がパーティと言われる。
 基本的にはリーダーとなる者がいて、その者を慕ったり、あるいは何らかの理由があってその者を中心に集まったグループの輪が、パーティと呼ばれるようになる。
 言うなればグループの発展系であり、リーダーの采配で複数の依頼を同時並行で受けたり、専門職を何人も集めて難しい依頼に当たることが出来る。
 リーダーが許可さえすればパーティに入れるため、新参者でも入りやすく、それぞれの職の専門家がいるため、知識や技術の伝承が自然と行われる。
 采配の多くをリーダーが握ることになるため、リーダーとの不仲は致命的だが、それ以外のメンバーとはそれなりの折り合いを付けて貰うことも出来る。
 基本的なパーティの指針というものが決まっていて、それに賛同できるならパーティに所属するのが、駆け出し冒険者にとっては最も安全かつ確実と言われている。
 もっとも、大所帯ゆえに依頼をこなすことで得られる報酬や名声は、大きなものにはならないという欠点も抱えているのだが。

 そして、そんな駆け出し冒険者であるところのわたし――シューラはとあるパーティの拠点(ホーム)の前に立っていた。
 街の外れに建っている一軒家がその拠点で、外見だけを見れば極普通の家屋に見える。二階建てで、そこそこ大きい。庭もあるみたいだけど、建物の裏側なのか、どんな感じなのかはよくわからなかった。
 正面には大きな入り口があって、その上にはパーティの名前が書かれた看板が掲げられていた。
 冒険者ギルドで冒険者登録自体は終わっている。この街は大きな街だから、駆け出しの初心者を受け入れているパーティもいくつかあった。
 わたしはその中で「色んな意味で一番安全で、命の危機は少ないけれどお薦めはしない」とギルドで教えてもらったパーティにやって来た。

 冒険者パーティ・カゴノヒト。

 この世界には、神様、もしくは精霊の加護というものがある。
 それはとても強大な力で、おとぎ話に出て来るような勇者様や魔王はそういった加護を必ず持っていたというくらいだ。
 パーティ名から察するに、おそらくこのパーティのリーダーは加護持ちなのだろう。
 加護には一部を人に与えられるものもあるという。
 有名なおとぎ話では、とある国の王様が【コンティニュー】という強大な加護の持ち主で、その加護を与えられた人は、仮に敵との戦いや罠で死んでも、王様の目の前で復活出来たとか。
 その【コンティニュー】ほどじゃなくても、高い防御の加護を授けてもらえれば、よほどのことでは死ななくなる。
(安全って、たぶんそういうことだよね……それに)
 わたしがギルドでお薦めされなかったのに、所属を希望するパーティにここを選んだのは、もうひとつ理由がある。

 それは、このパーティのリーダーが女性で、加入条件も女性限定だということだ。

 一部例外はあるみたいだけど、基本的に女性しか所属出来ないのは、とても重要なことだった。
 わたしにとって、男性というのは恐怖の対象だったからだ。
 わたしの生まれた村は、ある日大規模な山賊の襲撃によって無慈悲に蹂躙された。その際、わたしも捕らえられ、山賊の頭によって無理矢理犯され、散々な目に遭わされた。
 すぐにやって来た国の軍隊によって山賊たちは蹴散らされ、救出されたものの、わたしは男性に対する恐怖心を植え付けられてしまった。
 その後紆余曲折あって恐怖心は克服し、男性だからと誰彼無しに恐怖することはなくなったけど、男性が傍にいられるだけでいまだに落ち着かない。
 村はなくなってしまったし、何か手に職があるわけでもないわたしに残されていたのは、冒険者になる道くらいしかなかった。
 かといってただの村娘でしかなかったわたしに、ソロでやれるほどの実力があるはずもなく、女性のみのグループは大抵がすでにメンバーが充実していて入れなかった。
 そんなわたしにとって、女性限定のパーティは渡りに船だ。しかも、初心者でも歓迎となれば、わたしにはそこしかないというものだった。
 曲がりなりにもギルドに認知されているパーティだし、実績もかなりのものがある。
 どうしてお薦めされていないのか不思議なくらいだ。
(ギルドの受付の人は教えてくれなかったんだよね……何があるんだろ)
 受付の人はなんとも形容しがたい顔をしていた。
 彼女曰く、犯罪行為に手を染めているとか、メンバーの女性を娼婦として派遣するとか、そういうことではない、とは断言してくれたけど。
(じゃあどういうことなのか……って話だよね)
 行けばわかる、としか言ってくれなかった。
 むしろ、行って体験してみないと所属できるかどうかわからない、と言われたけど。
(体験ってどういうことだろ……お試し期間とかがあるのかな?)
 単純に楽ができるわけではないのだろう。
 わたしは意を決して、『カゴノヒト』の拠点の扉を叩いた。
「ごめんください! パーティの加入希望で来ま、し……た……」
 挨拶が途中で中途半端になったのは、誰もいないのに叩いた扉が自動的に開いたからだった。
 優れた魔法使いのいる家では窓や扉が自動開閉するようになっていると噂では聞いていたけど、実際に見るのは初めてだったので、驚いてしまった。
 そのまま開ききった扉の向こうは、広い部屋になっていた。
 住宅というよりは、酒場とか飲食店のような構造で、広い部屋の中に丸いテーブルがいくつか点在していて、その周りに椅子が置かれている。
 さらに、まさにお店っぽい、カウンターらしき台が正面にあって、その向こう側にだれかが座っていた。
 その人は、にっこりと笑顔を浮かべていた。
「ようこそ。『カゴノヒト』へ。可愛らしい小鳥ちゃん♡ 私は受付を担当しているシャーティよ。よろしくね♡」
 わたしはその言葉にすぐに反応することができなかった。
 それは、人懐っこく、気安い態度でいるその人――シャーティさんの姿、いや、服装が奇妙極まるものだったからだ。カウンターの向こうに立っているから、上半身しか見えないけど、その範囲だけでも十分奇妙だった。
 シャーティさんは、全体的には、極普通の人間の女性に見えた。
 特に耳が尖っているということも、角が生えているということもない。背中に届くくらいのウェーブがかった金色の髪も、白い肌もこの辺りでは普通に見られる特徴だ。
 成熟した大人の女性らしく、大きな胸や細いくびれがとても魅力的だった。
 線の細いしゅっとした顔立ちなどから、美人なのはわかる。
 でも、そんなシャーティさんには、とても奇妙な点があった。

 彼女の目は、不思議な布によって覆われていたのだ。

 その布には穴が空いているということもなく、完全に目を覆っているので、目隠しをしている状態だった。
 目を覆っている目隠しは黒っぽい素材で、厚みも結構あるように見える。その厚みと材質からすると光が透けて見えるということもなさそうだし、完全な盲目状態になっているはずだった。
 けれど、シャーティさんの目は、確かにこちらを見ているのがわかる。じっと見ている視線を感じるからだ。
 その目隠しだけでも十分不可思議なのだけど、不思議な点はそこだけじゃなかった。
 シャーティさんが身に付けている服。
 それもまた目隠しと同じで、黒い素材で出来ていた。
 それは彼女の女性的な魅力に溢れた身体を強調するように、身体にぴったりと張り付いているような形状をしていた。乳房の形が綺麗に出てしまっていて、裸に色を塗ったと言われても一瞬信じてしまうかもしれない。
 この街では様々な種族や文化が混在しているため、シャーティさんはそういう服飾文化なのだと思えば問題はないのだけど、わたしの知る文化にそういうものはなかったので、見ていると少し恥ずかしい。
 物を知らない田舎者だと思われたくなかったので、態度には出さないように努めたけど。
 ただ、種族とか文化とかでは説明しがたいこともあった。
 それは、シャーティさんがカウンターの上に置いている手にある。

 彼女の両手は――分厚い金属の枷によって、一纏めに拘束されていたのだ。

 広い世界、そういう文化が全くないわけではないとは思うのだけど。
 少なくともわたしの常識に従って考えれば、そういう手枷や足枷といった『自由を束縛する道具』は、囚人か、あるいは奴隷が身に付けるものだった。わたしも山賊の頭に無理矢理犯されていた時、両手と両足に鎖で繋げられた枷を取りつけられていた。
 ただ、彼女が身に付けている手枷は、両手に着けた金属の枷を鎖で繋いでいるのではなく、枷同士が結合している形なので、普通の手枷よりも、もっと自由度が少なそうだった。
 枷は手首あたりを覆っているのだけど、きっちり固定されているせいで彼女は両手を肘までぴったり揃えないとならなくなっていた。
 そのために、大きな胸が両腕によって挟まれ、より強く強調されている。
 彼女の着ている服が服だから、乳房の丸みがよりはっきりわかって、なお恥ずかしい。視線を向けづらく感じつつ、わたしはシャーティさんが手枷をしている理由を考える。
(もしかして……受付対応のために奴隷を雇っている、とか……?)
 あり得るかもしれない。
 罪を犯して奴隷身分に落とされたというなら、自由を奪って受け付けに置くというのも、筋は通っているかもしれない。そこまでして受付が必要かと言えばそうじゃないし、彼女の気さくな雰囲気から違うような気はしていたけど。
 動けないわたしに対し、シャーティさんはくすくすと大人っぽく、品良く笑った。
「ちなみに、私は元犯罪者でも囚人でもなければ、奴隷身分にあるわけでもないわよ?」
 どきりとした。
 心を読まれたように感じたけど、ここを訪れる人は大抵同じことを考えるのだろう。
「説明してあげるから、とりあえず中に入って来て」
 そういえばまだ建物の外に立っていたことに気付き、慌てて中に入る。
 すると、開いた時同様、ドアは勝手に閉まっていった。
 カウンターの前まで行くと、中に立っている彼女が姿勢良くお辞儀をする。
「改めまして、『カゴノヒト』へようこそ、新人ちゃん。私たちは去る者追わず、来る者拒まず、のスタンスだから安心していいわよ♡」
「ど、どうしてわたしが新人だってわかったんです?」
 ここまでのやり取りで、目隠しのようなものをしているけど、見えていないわけではないということはわかっていた。
 なので、単なる観察眼かもしれなかったけど、一応尋ねてみた。
「ふふふ……私の目には貴女の『ステータス』が見えるの」
「すてー、たす?」
「ええ。体力とか魔力とか、身体的な能力を数値化したものよ。一般的な呼称じゃないからわからなくて無理もないわ。うちのマスターがそう呼べっていうから、私もそう呼んでるだけだし。日々の体調や調子で変動する数値だから、本当はステータスとも呼び辛いらしいけどね」
「は、はぁ……」
 訳がわからない。マスターというのは、たぶんこのパーティのリーダーのことだろう。
 マスターという呼び方はギルドなど、もっと大きな組織のリーダーに使われるものだ。
 パーティリーダーに使われることはそうそうないけど、それだけシャーティさんがリーダーを慕っているということかもしれない。弟子が師匠を呼ぶ時にも使うから、そういう関係という可能性もある。
「私には貴女の大体の実力が数値で見えるの。それによると、貴女の数値は駆け出し冒険者と同程度……一般的な村人の女の子とほとんど変わらないから、冒険者ギルドに登録したばかりの、新人だということは明白だわ」
 立ち居振る舞いだけでも普通にわかったけどね、と彼女はいう。
 目が見えていなければ言えない台詞だ。
「……やっぱり見えて、るんですよね」
 まっすぐ顔を見てきているような感じはしたし、そうだとわかってはいたけど、そう口に出してみる。
 シャーティさんは特に隠し立てするようなことはなく、普通に頷いて肯定した。
「実は『ステータス』が見えるのもこの目隠しのおかげなの。この目隠しにはマスターから与えられた加護が宿っていてね。魔力を込めると、周囲の景色が数値付きで見えるようになるわけ。魔力を込めないと何も見えないけど、魔力を大量に消費するから、ずっと使い続けるのは無理なのよね」
「……使っていないときは、外せばいいんじゃないですか?」
 単純な話だと思った。そうすれば必要な時だけ、必要な効果を使うことが出来、視界を奪われずにも済むと。
 けれど、そんな簡単な話ではなかったようだ。
「残念だけど、それは無理なの。この目隠しはね、一度効果を発揮すると、数時間は外せなくなる制約があるから」
 事も無げにいうシャーティさんだけど、それはかなり厳しい制約じゃないだろうか。
 魔法の中にはそういった制約を守ることによって大きな効果を発揮するものもあるというのは訊いたことがあるけど、目隠しのそれはまるで呪いのようだ。
「いま、呪いみたいだって思ったでしょ」
 また言い合ってられた。もしかして目隠しの効果で心の中まで見えるようになっているんじゃなかろうか。
 でも、さすがにそこまでは無理だろうから、同じ事を考える人がたくさんいるということだろう。
 そうだとするといまさら取り繕っても無意味だ。
「……正直、思いました」
「そうよねぇ。思うわよねぇ。マスターの得た加護って、どう考えても呪いよね」
 しみじみとシャーティさんは呟く。
 わたしはともかく、正式なパーティメンバーであるはずの彼女がそんな風に言っても良いのだろうか。
 どう答えたらいいものかわからず、曖昧に笑みを浮かべる。
 しみじみ呟いていたシャーティさんが、ふと、手枷によって連結された両手を器用に動かし、片方の掌をもう片方の手で作った拳で叩いた。
「あっ、と。いけないいけない。ついお話しに夢中になっちゃうのは私の悪い癖だわ。新人ちゃんはうちに体験入団しに来たってことでいいのよね?」
「そう……ですね。そういうことになりますね」
 怪しげなパーティに所属していいものか割と本気で迷うけども。
 体験出来るというのなら、体験させて貰ってから所属するかどうか決めても遅くはない。冒険者ギルドでの歯切れの悪さは気になるけど、新人冒険者を体よく使い捨てるようなパーティなら、ギルドに存在を許されているわけがない。
 シャーティさんの立ち居振る舞いからも、パーティの雰囲気はそう悪くはないはずだった。いまこの場には彼女しかいないからわからないところも多かったけど。
「それじゃあ、まずは名前を教えてくれるかしら?」
 彼女は書類らしきものを取り出して、そこにメモを取り始めた。読み書きは一応出来るようになっていたけど、まだ綺麗に書く自信はなかったので、任せることにする。
「ロバラ、です」
「ロバラちゃん、ね……得意な分野は?」
「これという特技はないです……けど、畑仕事で体力はある方だと思います」
 どういう働きが出来るのかということを考えてくれるのだろう。
 シャーティさんからされるいくつもの質問に、わたしは正直に答えていった。
 目隠しをしているシャーティさんが迷いなくメモを取っているのは奇妙な光景といえば奇妙な光景だったけど、だんだんそれにも慣れてきた。
 ほどなくして必要な聞き取りは終わったのか、シャーティさんが質問とメモを取る手を止める。
「うん、これで大丈夫よ。仮入団を受け付けるわ」
「いいんですか? 何の特徴もないですし、それに、リーダーさんに聴かなくてもいいんでしょうか……」
 シャーティさんは受付担当と言っていたから、リーダーではない。
 パーティに所属していいかどうかを決めるのは、リーダーの役割なはずだった。
 そのことが気になって聴いてみると、シャーティさんはこくりと頷く。
「ええ、大丈夫よ。本入団ならともかく、仮入団に関しては私に一任させてもらっているし……うちは基本的に女の子を拒むことはないわ」
「それ、気になっていたんですけど……なんで女性限定なんですか?」
 女性限定というのは、わたしのような男性恐怖症には助かることだけど、不安になる種でもある。女性を集めて何をしているのか、あるいは、しようとしているのか。
 もしかすると、とんでもないことに巻きこまれる可能性だってある。それは尋ねておきたかった。
 するとシャーティさんは困ったように笑った。
「うーん、そうねぇ……ほんとは、男性が絶対ダメだってわけじゃないんだけど……マスターの趣味、かしら」
「しゅ、趣味?」
「まあ、それはおいおい、ね。変な意味じゃないから安心してちょうだい。最初に言った通り、うちのパーティは来る物拒まず去る者追わず。嫌になったらいつでも抜けていいから。……抜けられるかどうかはわからないけど」
 最後にぽつりと呟かれた言葉は、小さくてわたしには聞こえなかった。
 シャーティさんは笑顔で、話を先に進める。
「それじゃあまずは……うちのパーティの制服を着てみてもらいましょうか♡」

 それが、すべての始まりだった。

つづく
[ 2019/03/18 23:43 ] 小説・短編 カゴノヒト | TB(0) | CM(0)
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