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白日陰影

箱詰系、拘束系の18禁小説を書いています。関連の同人・版権作品のレビューも書きます。18歳以下の閲覧禁止。

カゴノヒト 1


 一般的に、冒険者になる者には大きく分けて三つの道がある。
 ソロか、すでにあるグループに入れてもらうか、パーティに入れてもらうか、だ。

 まずソロは単純。ひとりで頑張る道。
 依頼人からの事情聴取から探索、戦闘、倒した獲物の処理、その他諸々の雑務。
 冒険者ギルドがやってくれることを除いた、ありとあらゆる全てをひとりでやる。
 当然高い戦闘力や技術、知識までもが求められ、完全ソロでやれている冒険者はほとんどいない。
 その代わり、報酬や名声の全てが自分のものになる。
 ハイリスク・ハイリターンの道だ。

 次にグループに入れてもらう道。
 大抵の冒険者には得意不得意があるから、それを補い合う形だ。
 前衛に立って戦う者、後衛に立って魔法を唱える者、狩り場にたどり着くまでや迷宮の道中の警戒を行う者、狩った獲物を上手く処理する者。
 分担して行うことで、すべてをひとりでやるよりも確実に、かつ、より良い形で行える。
 安全や確実性に関してはそれなりのものが担保出来る。
 ただ、分業であるがゆえによほど気の合うメンバーとでなければ諍いが絶えなかったり、一度メンバーが固定されると新参者が入りづらかったり、問題点も多い。
 報酬や名声はそれなりに分割されるが、ひとりではクリアできない依頼を受けれるため、実入りはそこそこと言ったところ。

 最後に、パーティに入れてもらう道。
 パーティ、とはグループをさらに巨大化したような状態のことで、十人を超える大所帯がパーティと言われる。
 基本的にはリーダーとなる者がいて、その者を慕ったり、あるいは何らかの理由があってその者を中心に集まったグループの輪が、パーティと呼ばれるようになる。
 言うなればグループの発展系であり、リーダーの采配で複数の依頼を同時並行で受けたり、専門職を何人も集めて難しい依頼に当たることが出来る。
 リーダーが許可さえすればパーティに入れるため、新参者でも入りやすく、それぞれの職の専門家がいるため、知識や技術の伝承が自然と行われる。
 采配の多くをリーダーが握ることになるため、リーダーとの不仲は致命的だが、それ以外のメンバーとはそれなりの折り合いを付けて貰うことも出来る。
 基本的なパーティの指針というものが決まっていて、それに賛同できるならパーティに所属するのが、駆け出し冒険者にとっては最も安全かつ確実と言われている。
 もっとも、大所帯ゆえに依頼をこなすことで得られる報酬や名声は、大きなものにはならないという欠点も抱えているのだが。

 そして、そんな駆け出し冒険者であるところのわたし――シューラはとあるパーティの拠点(ホーム)の前に立っていた。
 街の外れに建っている一軒家がその拠点で、外見だけを見れば極普通の家屋に見える。二階建てで、そこそこ大きい。庭もあるみたいだけど、建物の裏側なのか、どんな感じなのかはよくわからなかった。
 正面には大きな入り口があって、その上にはパーティの名前が書かれた看板が掲げられていた。
 冒険者ギルドで冒険者登録自体は終わっている。この街は大きな街だから、駆け出しの初心者を受け入れているパーティもいくつかあった。
 わたしはその中で「色んな意味で一番安全で、命の危機は少ないけれどお薦めはしない」とギルドで教えてもらったパーティにやって来た。

 冒険者パーティ・カゴノヒト。

 この世界には、神様、もしくは精霊の加護というものがある。
 それはとても強大な力で、おとぎ話に出て来るような勇者様や魔王はそういった加護を必ず持っていたというくらいだ。
 パーティ名から察するに、おそらくこのパーティのリーダーは加護持ちなのだろう。
 加護には一部を人に与えられるものもあるという。
 有名なおとぎ話では、とある国の王様が【コンティニュー】という強大な加護の持ち主で、その加護を与えられた人は、仮に敵との戦いや罠で死んでも、王様の目の前で復活出来たとか。
 その【コンティニュー】ほどじゃなくても、高い防御の加護を授けてもらえれば、よほどのことでは死ななくなる。
(安全って、たぶんそういうことだよね……それに)
 わたしがギルドでお薦めされなかったのに、所属を希望するパーティにここを選んだのは、もうひとつ理由がある。

 それは、このパーティのリーダーが女性で、加入条件も女性限定だということだ。

 一部例外はあるみたいだけど、基本的に女性しか所属出来ないのは、とても重要なことだった。
 わたしにとって、男性というのは恐怖の対象だったからだ。
 わたしの生まれた村は、ある日大規模な山賊の襲撃によって無慈悲に蹂躙された。その際、わたしも捕らえられ、山賊の頭によって無理矢理犯され、散々な目に遭わされた。
 すぐにやって来た国の軍隊によって山賊たちは蹴散らされ、救出されたものの、わたしは男性に対する恐怖心を植え付けられてしまった。
 その後紆余曲折あって恐怖心は克服し、男性だからと誰彼無しに恐怖することはなくなったけど、男性が傍にいられるだけでいまだに落ち着かない。
 村はなくなってしまったし、何か手に職があるわけでもないわたしに残されていたのは、冒険者になる道くらいしかなかった。
 かといってただの村娘でしかなかったわたしに、ソロでやれるほどの実力があるはずもなく、女性のみのグループは大抵がすでにメンバーが充実していて入れなかった。
 そんなわたしにとって、女性限定のパーティは渡りに船だ。しかも、初心者でも歓迎となれば、わたしにはそこしかないというものだった。
 曲がりなりにもギルドに認知されているパーティだし、実績もかなりのものがある。
 どうしてお薦めされていないのか不思議なくらいだ。
(ギルドの受付の人は教えてくれなかったんだよね……何があるんだろ)
 受付の人はなんとも形容しがたい顔をしていた。
 彼女曰く、犯罪行為に手を染めているとか、メンバーの女性を娼婦として派遣するとか、そういうことではない、とは断言してくれたけど。
(じゃあどういうことなのか……って話だよね)
 行けばわかる、としか言ってくれなかった。
 むしろ、行って体験してみないと所属できるかどうかわからない、と言われたけど。
(体験ってどういうことだろ……お試し期間とかがあるのかな?)
 単純に楽ができるわけではないのだろう。
 わたしは意を決して、『カゴノヒト』の拠点の扉を叩いた。
「ごめんください! パーティの加入希望で来ま、し……た……」
 挨拶が途中で中途半端になったのは、誰もいないのに叩いた扉が自動的に開いたからだった。
 優れた魔法使いのいる家では窓や扉が自動開閉するようになっていると噂では聞いていたけど、実際に見るのは初めてだったので、驚いてしまった。
 そのまま開ききった扉の向こうは、広い部屋になっていた。
 住宅というよりは、酒場とか飲食店のような構造で、広い部屋の中に丸いテーブルがいくつか点在していて、その周りに椅子が置かれている。
 さらに、まさにお店っぽい、カウンターらしき台が正面にあって、その向こう側にだれかが座っていた。
 その人は、にっこりと笑顔を浮かべていた。
「ようこそ。『カゴノヒト』へ。可愛らしい小鳥ちゃん♡ 私は受付を担当しているシャーティよ。よろしくね♡」
 わたしはその言葉にすぐに反応することができなかった。
 それは、人懐っこく、気安い態度でいるその人――シャーティさんの姿、いや、服装が奇妙極まるものだったからだ。カウンターの向こうに立っているから、上半身しか見えないけど、その範囲だけでも十分奇妙だった。
 シャーティさんは、全体的には、極普通の人間の女性に見えた。
 特に耳が尖っているということも、角が生えているということもない。背中に届くくらいのウェーブがかった金色の髪も、白い肌もこの辺りでは普通に見られる特徴だ。
 成熟した大人の女性らしく、大きな胸や細いくびれがとても魅力的だった。
 線の細いしゅっとした顔立ちなどから、美人なのはわかる。
 でも、そんなシャーティさんには、とても奇妙な点があった。

 彼女の目は、不思議な布によって覆われていたのだ。

 その布には穴が空いているということもなく、完全に目を覆っているので、目隠しをしている状態だった。
 目を覆っている目隠しは黒っぽい素材で、厚みも結構あるように見える。その厚みと材質からすると光が透けて見えるということもなさそうだし、完全な盲目状態になっているはずだった。
 けれど、シャーティさんの目は、確かにこちらを見ているのがわかる。じっと見ている視線を感じるからだ。
 その目隠しだけでも十分不可思議なのだけど、不思議な点はそこだけじゃなかった。
 シャーティさんが身に付けている服。
 それもまた目隠しと同じで、黒い素材で出来ていた。
 それは彼女の女性的な魅力に溢れた身体を強調するように、身体にぴったりと張り付いているような形状をしていた。乳房の形が綺麗に出てしまっていて、裸に色を塗ったと言われても一瞬信じてしまうかもしれない。
 この街では様々な種族や文化が混在しているため、シャーティさんはそういう服飾文化なのだと思えば問題はないのだけど、わたしの知る文化にそういうものはなかったので、見ていると少し恥ずかしい。
 物を知らない田舎者だと思われたくなかったので、態度には出さないように努めたけど。
 ただ、種族とか文化とかでは説明しがたいこともあった。
 それは、シャーティさんがカウンターの上に置いている手にある。

 彼女の両手は――分厚い金属の枷によって、一纏めに拘束されていたのだ。

 広い世界、そういう文化が全くないわけではないとは思うのだけど。
 少なくともわたしの常識に従って考えれば、そういう手枷や足枷といった『自由を束縛する道具』は、囚人か、あるいは奴隷が身に付けるものだった。わたしも山賊の頭に無理矢理犯されていた時、両手と両足に鎖で繋げられた枷を取りつけられていた。
 ただ、彼女が身に付けている手枷は、両手に着けた金属の枷を鎖で繋いでいるのではなく、枷同士が結合している形なので、普通の手枷よりも、もっと自由度が少なそうだった。
 枷は手首あたりを覆っているのだけど、きっちり固定されているせいで彼女は両手を肘までぴったり揃えないとならなくなっていた。
 そのために、大きな胸が両腕によって挟まれ、より強く強調されている。
 彼女の着ている服が服だから、乳房の丸みがよりはっきりわかって、なお恥ずかしい。視線を向けづらく感じつつ、わたしはシャーティさんが手枷をしている理由を考える。
(もしかして……受付対応のために奴隷を雇っている、とか……?)
 あり得るかもしれない。
 罪を犯して奴隷身分に落とされたというなら、自由を奪って受け付けに置くというのも、筋は通っているかもしれない。そこまでして受付が必要かと言えばそうじゃないし、彼女の気さくな雰囲気から違うような気はしていたけど。
 動けないわたしに対し、シャーティさんはくすくすと大人っぽく、品良く笑った。
「ちなみに、私は元犯罪者でも囚人でもなければ、奴隷身分にあるわけでもないわよ?」
 どきりとした。
 心を読まれたように感じたけど、ここを訪れる人は大抵同じことを考えるのだろう。
「説明してあげるから、とりあえず中に入って来て」
 そういえばまだ建物の外に立っていたことに気付き、慌てて中に入る。
 すると、開いた時同様、ドアは勝手に閉まっていった。
 カウンターの前まで行くと、中に立っている彼女が姿勢良くお辞儀をする。
「改めまして、『カゴノヒト』へようこそ、新人ちゃん。私たちは去る者追わず、来る者拒まず、のスタンスだから安心していいわよ♡」
「ど、どうしてわたしが新人だってわかったんです?」
 ここまでのやり取りで、目隠しのようなものをしているけど、見えていないわけではないということはわかっていた。
 なので、単なる観察眼かもしれなかったけど、一応尋ねてみた。
「ふふふ……私の目には貴女の『ステータス』が見えるの」
「すてー、たす?」
「ええ。体力とか魔力とか、身体的な能力を数値化したものよ。一般的な呼称じゃないからわからなくて無理もないわ。うちのマスターがそう呼べっていうから、私もそう呼んでるだけだし。日々の体調や調子で変動する数値だから、本当はステータスとも呼び辛いらしいけどね」
「は、はぁ……」
 訳がわからない。マスターというのは、たぶんこのパーティのリーダーのことだろう。
 マスターという呼び方はギルドなど、もっと大きな組織のリーダーに使われるものだ。
 パーティリーダーに使われることはそうそうないけど、それだけシャーティさんがリーダーを慕っているということかもしれない。弟子が師匠を呼ぶ時にも使うから、そういう関係という可能性もある。
「私には貴女の大体の実力が数値で見えるの。それによると、貴女の数値は駆け出し冒険者と同程度……一般的な村人の女の子とほとんど変わらないから、冒険者ギルドに登録したばかりの、新人だということは明白だわ」
 立ち居振る舞いだけでも普通にわかったけどね、と彼女はいう。
 目が見えていなければ言えない台詞だ。
「……やっぱり見えて、るんですよね」
 まっすぐ顔を見てきているような感じはしたし、そうだとわかってはいたけど、そう口に出してみる。
 シャーティさんは特に隠し立てするようなことはなく、普通に頷いて肯定した。
「実は『ステータス』が見えるのもこの目隠しのおかげなの。この目隠しにはマスターから与えられた加護が宿っていてね。魔力を込めると、周囲の景色が数値付きで見えるようになるわけ。魔力を込めないと何も見えないけど、魔力を大量に消費するから、ずっと使い続けるのは無理なのよね」
「……使っていないときは、外せばいいんじゃないですか?」
 単純な話だと思った。そうすれば必要な時だけ、必要な効果を使うことが出来、視界を奪われずにも済むと。
 けれど、そんな簡単な話ではなかったようだ。
「残念だけど、それは無理なの。この目隠しはね、一度効果を発揮すると、数時間は外せなくなる制約があるから」
 事も無げにいうシャーティさんだけど、それはかなり厳しい制約じゃないだろうか。
 魔法の中にはそういった制約を守ることによって大きな効果を発揮するものもあるというのは訊いたことがあるけど、目隠しのそれはまるで呪いのようだ。
「いま、呪いみたいだって思ったでしょ」
 また言い合ってられた。もしかして目隠しの効果で心の中まで見えるようになっているんじゃなかろうか。
 でも、さすがにそこまでは無理だろうから、同じ事を考える人がたくさんいるということだろう。
 そうだとするといまさら取り繕っても無意味だ。
「……正直、思いました」
「そうよねぇ。思うわよねぇ。マスターの得た加護って、どう考えても呪いよね」
 しみじみとシャーティさんは呟く。
 わたしはともかく、正式なパーティメンバーであるはずの彼女がそんな風に言っても良いのだろうか。
 どう答えたらいいものかわからず、曖昧に笑みを浮かべる。
 しみじみ呟いていたシャーティさんが、ふと、手枷によって連結された両手を器用に動かし、片方の掌をもう片方の手で作った拳で叩いた。
「あっ、と。いけないいけない。ついお話しに夢中になっちゃうのは私の悪い癖だわ。新人ちゃんはうちに体験入団しに来たってことでいいのよね?」
「そう……ですね。そういうことになりますね」
 怪しげなパーティに所属していいものか割と本気で迷うけども。
 体験出来るというのなら、体験させて貰ってから所属するかどうか決めても遅くはない。冒険者ギルドでの歯切れの悪さは気になるけど、新人冒険者を体よく使い捨てるようなパーティなら、ギルドに存在を許されているわけがない。
 シャーティさんの立ち居振る舞いからも、パーティの雰囲気はそう悪くはないはずだった。いまこの場には彼女しかいないからわからないところも多かったけど。
「それじゃあ、まずは名前を教えてくれるかしら?」
 彼女は書類らしきものを取り出して、そこにメモを取り始めた。読み書きは一応出来るようになっていたけど、まだ綺麗に書く自信はなかったので、任せることにする。
「ロバラ、です」
「ロバラちゃん、ね……得意な分野は?」
「これという特技はないです……けど、畑仕事で体力はある方だと思います」
 どういう働きが出来るのかということを考えてくれるのだろう。
 シャーティさんからされるいくつもの質問に、わたしは正直に答えていった。
 目隠しをしているシャーティさんが迷いなくメモを取っているのは奇妙な光景といえば奇妙な光景だったけど、だんだんそれにも慣れてきた。
 ほどなくして必要な聞き取りは終わったのか、シャーティさんが質問とメモを取る手を止める。
「うん、これで大丈夫よ。仮入団を受け付けるわ」
「いいんですか? 何の特徴もないですし、それに、リーダーさんに聴かなくてもいいんでしょうか……」
 シャーティさんは受付担当と言っていたから、リーダーではない。
 パーティに所属していいかどうかを決めるのは、リーダーの役割なはずだった。
 そのことが気になって聴いてみると、シャーティさんはこくりと頷く。
「ええ、大丈夫よ。本入団ならともかく、仮入団に関しては私に一任させてもらっているし……うちは基本的に女の子を拒むことはないわ」
「それ、気になっていたんですけど……なんで女性限定なんですか?」
 女性限定というのは、わたしのような男性恐怖症には助かることだけど、不安になる種でもある。女性を集めて何をしているのか、あるいは、しようとしているのか。
 もしかすると、とんでもないことに巻きこまれる可能性だってある。それは尋ねておきたかった。
 するとシャーティさんは困ったように笑った。
「うーん、そうねぇ……ほんとは、男性が絶対ダメだってわけじゃないんだけど……マスターの趣味、かしら」
「しゅ、趣味?」
「まあ、それはおいおい、ね。変な意味じゃないから安心してちょうだい。最初に言った通り、うちのパーティは来る物拒まず去る者追わず。嫌になったらいつでも抜けていいから。……抜けられるかどうかはわからないけど」
 最後にぽつりと呟かれた言葉は、小さくてわたしには聞こえなかった。
 シャーティさんは笑顔で、話を先に進める。
「それじゃあまずは……うちのパーティの制服を着てみてもらいましょうか♡」

 それが、すべての始まりだった。

つづく
[ 2019/03/18 23:43 ] 小説・短編 カゴノヒト | TB(0) | CM(0)

カゴノヒト 2


 シャーティさん曰く、現在カゴノヒトのメンバーは出払ってしまっているみたいで、メンバーへの紹介は帰ってきてからになるらしい。
 メンバーが帰ってくるのを待つ間に、わたしはこのパーティの制服を着てみることになった。
(パーティに制服なんてあるんだ……)
 わたしの認識だと、制服っていうのは兵士の人とか、ギルドみたいな大きな組織の事務員さんなんかが着るものだった。
 冒険者のパーティにもそういったものがあるというのは初めて聴いた。
 このパーティだけの特徴なのかもしれないけど。
「ロバラちゃん。こっちの部屋に来てもらえる?」
 言いながら、シャーティさんがカウンターの中を移動し、奥の部屋へと移動していく。その際、鎖の鳴るような音が響いているのに気付いたけど、鎖がどこにあるのかは見えなかった。
 わたしはシャーティさんに言われるまま、カウンターの中に入って彼女に続こうとして――その足下で太い鎖が動いているのに気付き、踏まないように慌てて飛び退いた。
 その鎖は、シャーティさんから伸びていた。
 彼女の足首には大きな枷が取りつけられていて、鎖はそこから伸びていた。鎖がどこに繋がっているかはわからないけど、まさかどこにも繋がっていないということはないだろう。 どこかに鎖で繋がれているとしたら、いよいよ本当に囚人みたいだ。
 もっとも、それにしては鎖が長すぎる気はしたけど。
「あ、あの、シャーティさん……それ……」
 鎖のことを聴こうと声をかけると、彼女はわたしが何を言いたいのか気付いたらしく。
「ああ、気にしないで。踏まれると転んじゃうから、踏まないように気をつけてね」
 あっさりと流された。あまりに平然としているものだから、わたしもそれ以上突っ込んで聴くことは出来ず、言われた通り、踏まないように注意して彼女の後ろについていく。
 そこで改めてシャーティさんの全体像に意識が向けられ、その異様な姿に唖然とした。
 シャーティさんの全身は、上半身と同じで、黒くてよくわからない不思議な素材で出来た服で覆われていた。肌に色を塗ったかのような、ぴっちりと張り付いている衣装。彼女の細い腰や丸みを帯びたお尻、すらりと長い足が強調されている。
 腰の、というか股間の、普通なら下着を身につける場所は内側から下着の形に少し盛り上がっているようなので、何か着ているみたいだけど、それが本当にただの下着かどうかはわからない。なんとなくだけど、普通の下着ではない気がする。
 肌の露出はむしろ皆無だというのに、肌を見せるよりもエッチな感じがするのは、わたしが田舎者だからだろうか。
 そんな恰好であるにも関わらず、シャーティさんは優雅に歩いてわたしを先導してくれる。じゃらじゃらと鎖の鳴る音を響かせながら、彼女は歩いていた。
 色んな意味で目のやり場に困る姿だった。
 カウンターの奥の扉を潜り、奥の部屋へと移動するシャーティさんに続き、わたしもその扉をを潜る。中は普通の部屋みたいだった。応接室みたいな、人を迎えるための部屋っぽい。
(部屋は普通……よね……)
 だからこそ、シャーティさんの姿がより異様に映るのだけど。
 そんなことを思いながらわたしが部屋に入ってすぐ、部屋の扉が自動的に閉まった。思わずびっくりして振り返るわたしに、シャーティさんが優しい声をかけてくれる。
「心配しなくて大丈夫。勝手に開けられることはないから、安心して着替えてね」
「魔法のドア、なんですか?」
「んー、そうではあるけど、普通の魔法のドアとは少し違うから……まあ、その話はおいおい、ね」
 はぐらかされてしまった。
(まあ、パーティの秘密が関わってるなら、そう簡単には教えてもらえないわよね。……あれ? そういえば、鎖は?)
 ドアは閉まってしまったけど、シャーティさんの脚に繋がっていた鎖はどうなったんだろう。
 気になってそこを見てみると、扉の下には鎖が通れる分の隙間があって、鎖があってもちゃんと閉まるようになっていた。
(ちゃんと考えて造ってあるんだ……でもなんで鎖なんかで繋がれてるんだろう……?)
 わたしが不思議に思っている間に、シャーティさんが棚からパーティの制服を一着取り出してくれていた。
 ただそれは服と呼んでいいのか、微妙なものだった。

「これがうちの制服――私も身に付けている『ラバースーツ』よ」

つづく
[ 2019/03/20 17:34 ] 小説・短編 カゴノヒト | TB(0) | CM(0)

カゴノヒト 3


 それはまるで人間の皮のような様相をしていた。
 人間の首から下の皮を剥ぎ、黒く染めたような、そんな異様な服。
 シャーティさんに手渡されたものの、どうすればいいかわからず、固まってしまった。
 感触もまた異様なものだった。もちろん人間の皮ではない感触だったけど、かといって布ではあり得ない。分厚くて、よくなめして整えられた動物の皮っぽい感じ。
 ただ、動物の皮というには、その感触はあまりにも人工的で、自然っぽい荒れた感じがない。つるつるし、かつちょっと張り付いてくる肌触りはカエルのそれに似ているかもしれないけど、やっぱりそれと同一ではない。
 わたしは困惑した心持ちのまま、シャーティさんに尋ねていた。
「あの……これ……なん、なんですか……?」
 どう聞けば正解なのかわからない。混乱した心をそのまま口にすると、シャーティさんもまた首を傾げた。
「だから、ラバースーツよ? ……あ。そうね。そう言われてもわからないわよね」
 たぶんシャーティさんも通ってきた道だったのか、わたしが言わんとしていることを察してくれたようだった。
「そうね……ラバーは……えーと、わたしもそんなに詳しいわけじゃないのよね。マスター曰く、此方ではあまり流通していない『護謨』という素材で出来た服……だそうよ」
 マスターという人が済んでいた地域は、この辺りではないということだろうか。
 とにかく。遠く離れた異国での風習であり、民族衣装のようなものだというのであれば、まだわからなくはない。
「す、すっごい変わってません……?」
 それはシャーティさんの見た目からも明らかだ。この辺りではまず見ない姿なのは間違いない。
 シャーティさんにもその自覚はあるのか、こくりと頷いた。
「そうね。確かに最初は私も面食らったわ。けれど、着慣れると案外快適だし、なによりこの服には重要な秘密があるの」
「秘密?」
「ええ。貴女も外で口外しないようにしてね。この服にはね……とても強い防御の加護が与えられているの」
 そういって内緒話をするように囁くシャーティさんは、その服を誇るように続けた。
「その加護とは『環境適応』――凍える氷山であろうと、燃えさかる火口であろうと、これを身に付けているだけで、ありとあらゆる環境に適応できるようになるの」
 シャーティさんが誇るのも無理はない。わたしは開いた口が塞がらなかった。
 それが本当なら、とんでもない性能を持った衣服だ。これ一枚で環境に適応出来るのだとすれば、それほど心強いこともない。
 けれど、それだけじゃなかった。
「さらに――」
 シャーティさんの言葉はまだ続いていたのだから。
「『状態変化無効』――毒も麻痺も睡眠も。この服は着用者の不利益になるあらゆる効果を遮断するわ」
「ふたつの加護が、同時に与えられるっていうんですか!?」
 加護は大変貴重なもののはずだ。それを同時にふたつ、それもどちらも有用すぎる効果を与えられるというのは、信じられないことだった。
 冒険者の死因の多くは、モンスターなどの敵と直接やりあって受ける傷よりも、攻撃によって与えられ、戦闘後にも残る状態変化だという。それを防げるとなれば――その有用性は計り知れない。
 けれど、驚くのはまだ早かった。シャーティさんは、にやりと楽しげに笑ったかと思うと、「そして」と続けたからだ。
「『防御力大上昇』――さすがに攻撃を完全に防いでくれるわけじゃないけど、これ一枚で全身鎧並みの防御力を発揮するの。持って貰ってるからわかるとおもうけど、重さはそれほどじゃないわ」
 同時に三つも加護を与えられるという、とんでもないことを言い始めた。そんなのは伝説の中でしか語られない防具の話だ。
「う、嘘でしょ……?」
 そう呟いてしまったわたしの言い分は、間違っていないはずだった。シャーティさんもそれはわかっているのか、特に気を害した様子もなく、ニコニコとむしろ楽しげに微笑んでいる。
「そうね。嘘みたいだけど本当よ。もちろん弱点はあるわ。まず、例外を除いて重ね着が出来ないこと。このラバースーツは大気中に漂う魔力を吸収して、それで破格の性能を発揮しているみたいなの。普通の服を上に着てしまうと、加護の力が弱まってしまうのよ」
 なるほど、だから身体にぴっちりと張り付いて、色が黒じゃなければ裸と見間違えそうな見た目でも、その上に服を着たりしていないというわけだ。
 それはとても恥ずかしいことだったけど、羞恥を堪えて命が助かるなら、天秤にかけるまでもない。
「さらにもう一点。この服は加護がある服なんじゃなくて、マスターの加護によって生み出された服なの。だから、マスターが定期的に加護を込め直す必要があるわ」
「な、なるほど……」
 三つも破格の加護が乗る性能の服を軽々しく与えていいのだろうかと思えば、そういうことなら問題ない。
 仮に服を持ち逃げしたところで、加護がなくなってしまえばただの服だからだ。
「ロバラちゃんは言わなくてもわかったみたいだけど、くれぐれもそれを持って逃げようなんて思わないでね。…いえ、逃げても別に構わないのだけど、その場合――グッ」
 突然、シャーティさんが不自然なところで言葉を止めた。
 不思議に思って彼女の目隠しされた顔を窺う。顔の大部分が覆われているシャーティさんがどんな表情を浮かべているのかわかり辛い。けれどどこか、何かを我慢しているような、そんな気配があった。
 それに、何か変な、壁の向こうで何かが動いているような。
 何かが、かすかに振動する音が聞こえるような。
「シャーティ、さん?」
 問いかけてみると、シャーティさんは呼吸を止めていたのか、詰めていた息を深々と吐き出した。
「……いえ、なんでもないわ。ごめんなさい、気にしないで」
 ほんの少し震えたシャーティさんの声。
 それは恐怖による震えという感じではなかったけど、わたしにはわからない類のもののようだった。
 シャーティさんは、なぜかほんの少し赤みが増した頬を伏せつついう。
「ラバースーツの着方を教えるわね。大丈夫。ロバラちゃんもすぐに慣れるわ」
 シャーティさんはそう言って、わたしにラバースーツを広げるように言った。
 
つづく
[ 2019/03/27 22:14 ] 小説・短編 カゴノヒト | TB(0) | CM(0)

カゴノヒト おわり


 シャーティさんに渡されたラバースーツというものを広げてみる。
 やっぱり人間の首から下の皮を剥いで、黒く染めたみたいな印象だった。そうじゃないとわかるのは、背中の、背骨に沿う形で、不思議な金具?のようなものがあるからだ。
「それはジッパーっていうのよ」
 わたしがその金具を見ていることに気づいて、訊く前にシャーティさんが教えてくれた。
 目隠しに込められた魔法を使って見えているのだということはわかっていても、目隠しをしているシャーティさんに『見られている』というのは、不思議な感覚だった。
 シャーティさんは慣れているのか、わたしの手元に手を伸ばして、ジッパーなる金具の上部を指さす。
「ここに小さな金具が着いているでしょう? これを下に引っ張ってみて」
「こう、ですか……? わっ」
 言われるままに金具を引っ張ってみたら、その金具が下に移動して、ジッパーが半分に割れていった。まるでサナギが羽化する時のように、ラバースーツの背中が開いていく。背中のジッパーは腰のあたりまで下ろせるみたいだった。
「もしかして……この中に?」
「ええ。その開いた中に身体を滑り込ませるの。あ、着ている服は脱いじゃってね」
「は、はい……」
 少し恥ずかしい気もするけど、同性だし、シャーティさんも同じラバースーツを着ているわけだし、大人しく着替えることにした。
 着ていた服を脱いで机の上に置き、下着姿になる。そしてラバースーツを着ようとして、シャーティさんに待ったをかけられた。
「ロバラちゃん、待って。下着も脱いでね」
「えっ!? し、下着もですか!?」
 ラバースーツを裸の上から着ろという。
 わたしは思わずシャーティさんの腰のあたりを見てしまった。ぴっちりしたラバースーツの下に、何か着ていることを示している盛りあがっている跡が見える。
(何か着ているっぽいのに……?)
 その視線に気づかれたのか、シャーティさんは少し苦笑いをする。
「ああ……私がこの下に着ているのは、普通の下着じゃないの。これを着たいなら着てもいいんだけど、これは上級者向けだから……初めての人は、裸の上から直接着て貰う方がいいと思うわ」
 どうやら、シャーティさんの着ているのは普通の下着じゃないようだった。
 どういうものかわからないけど、上級者向けと言われてしまっては、無理にそれを着るのも躊躇われる。
 躊躇われるのだけど、かといって裸になって得体の知れないラバースーツなるものを着る、というのも抵抗があることだった。
 それに、シャーティさんは同性とはいえ、裸を見られるのは正直恥ずかしい。
 そう感じて躊躇していると、シャーティさんが微笑みながら言った。
「恥ずかしがらなくても大丈夫よ。皆同じだし……どうしても恥ずかしくてダメだと思えば、パーティ脱退はいつでも出来るから。今回だけの試しだと思って着てみてくれたらいいわ」
 優しい言葉での甘い誘惑。
 恥ずかしいけど、それで素晴らしい加護が得られるのだから、我慢する価値はある。
(どうしても無理そうなら、抜けさせてもらおう……)
 いつでも抜けられるなら大丈夫。
 そう考えて、わたしは下着に手をかけた。思い切って上下とも脱ぎ去り、さっさとラバースーツを着てしまうことにする。
「足から入れるといいわ。あと、初めてだと片脚立ちになって着るのは難しいから、椅子に座った方がいいわね」
 そう促され、わたしはラバースーツを持って椅子に腰掛ける。お尻にひんやりとした椅子の感触が触れて、思わずぞくりとした。普通、裸で椅子に座ったりしないからだ。
(気にしない……気にしない……)
 わたしはそう胸の内で念じつつ、ラバースーツを改めて目の前に広げる。ジッパーを下げて、ぱっくり開いたラバースーツの背に足を入れる。
 スーツの中は思ったよりひやっとした感じではなく、むしろ暖かみのある感じだった。加護があるおかげなのか、ラバーという素材自体が持つ特性なのか。
 それはわからないけど、見た目の印象よりは快適な感触だった。
 背中の割れ目から、まずは足の先を差し込んでみる。ラバースーツはかなりの抵抗感があり、着るのにはかなり苦労しそうだ。
 そう思っていたら、シャーティさんが奇妙な形をした瓶を持って来て、それをラバースーツの中に振りかけた。
「それは……?」
「これは滑りを良くするための潤滑魔法の粉よ。もう一度足を入れてみて」
 潤滑魔法なんてきいたことがないけど、とりあえずもう一度試してみた。
 すると、さっきは酷く抵抗があったのに今度は滑りよく、突き入れた足がかなり奥の方まで入ってしまった。
「わっ、ほんとだ。すごい……」
「あ、先端まで入れる前に、もう片方の足も入れた方が楽よ。ある程度は伸びるから穿けるとは思うけど」
 言われた通り、もう片方の足もラバースーツの中に入れる。こちらもするりと奥まで入ってしまった。
(……それにしても)
 滑りが良くなったのはいいのだけど、中でヌメリが感じられるようになったことで、なんだか服を着ているというよりは、補食されているかのようで、少し微妙な気持ちになる。
 とりあえず、両足をラバースーツの足先の先端まで押し込む。足が太ももくらいまでぴっちり覆われた。生地が弛まないように、先端から身体に沿わせるように撫でながら、上へ上へと引き上げていく。
(うー……やっぱりなんか、服って言うか皮膚の上にもう一枚皮膚があるみたいで落ち着かないなぁ……)
 この調子で全身包まれてしまったらどんな感覚になるのだろうか。
 想像がつかなくてちょっと怖い。
 けれどいまさら引き返すわけにも行かず、わたしは立ち上がってラバースーツをさらに引き上げていく。腰の上、へその辺りまで引き上げたところで、シャーティさんがわたしの後ろに回り込み、補助してくれた。
「ずり下がらないように私が持っておくから、両腕を入れちゃって」
「あ、はい」
 言われた通り、両腕をラバースーツの中に入れていく。やっぱり昆虫の羽化の逆回転みたいだと思った。
「んっ、変な感じ……ですね」
 ラバースーツが身体を覆っていく。両足、腰、両腕、そしていま胸がスーツに覆われた。スーツの内側はシャーティさんが振りかけた魔法の粉のおかげで滑りやすく、着やすくなっているのと同時に、少し張り付くような感じがした。胸のあたりが特にそれを強く感じる。ぴったりと、わたしの身体の曲線に綺麗に合わさっていた。
 締め付けられるような窮屈さは感じるけど、それと同時に、必要以上に締まるわけでもなく、ただぴったりと身体に沿って存在している感じ。
 その感覚は指先の方からシワを伸ばすようにしてぴちぴちにすると、余計に強くなった。
「それじゃあ、ジッパーをあげるわね。……ふふ」
「どうしたんですか?」
 急にシャーティさんが笑ったので、どこかおかしな状態になっているのかと思った。
 けれど、彼女はそういう意味で笑ったのではなく。
「ごめんなさい。なんでもないわ。この瞬間が溜まらないのよね、と思って」
「それってどういう――ふぁっ!」
 ちゃんと問おうとしたわたしの意識が、あっという間に持って行かれそうになる。
 ジッパーの金具を持ったシャーティさんの指が、わたしの背骨に沿って上がっていく。それと同時に、わたしは身体がラバースーツによって締め付けられる感触に、変な声をあげてしまっていた。
 すでに十分身体にぴったり接していると思っていたラバースーツは、背中のジッパーが上がり、開いていた部分が閉じて行くに従って、よりぴっちりと、ほどよい強さでわたしの身体を締め上げてくる。
 思わず内股になって、背筋を曲げそうになったのを、背後のシャーティさんが軽く肩を引いて、身体を起こされる。
「はーい、背筋は伸ばしてね」
 経験したことのない異様な感覚に、わたしの頭は完全に混乱していて、言われるがまま、背筋を伸ばした。
「は、いいっ、ふ、ぅ……っ!」
 その私自身の動きに従って、ラバースーツが股間に食い込み、お腹を引き絞り、呼吸するだけで胸の辺りに抵抗を感じるようになった。
 まるで巨人の掌に優しく包まれ、握られているかのような、異様な感覚が全身から走っていた。
 ラバースーツに全部を把握されている。経験したことのない、不思議な感覚だった。
 けれど、それは決して嫌な感覚ではなくて。
 むしろずっとそうされていたいような、すべてを委ねて存在しているような、そんな幸福感があった。
 その時のわたしがどんな顔をしていたかはわからない。
 唯一それを見ていたシャーティさんは、優しく笑ってくれていた。
「あらあら……ロバラちゃん、素質がありそうね。これは、マスターに気に入られてしまいそうだわ」
 シャーティさんは楽しげに呟いていたけど、どういう意味なのだろうか。
 わたしが未知の感覚に悶えている間に、ラバースーツのジッパーは上まで上がりきったようだ。うなじのあたりまで上がっていたシャーティさんの手が離れる。
 首の中程までラバースーツは及んでいて、ほんの少し喉に違和感があった。呼吸を阻害するほどじゃないけど、首だけじゃなく胸もラバースーツに締め付けられているからか、慢性的な息苦しさが続いている。
 でも、息苦しいはずなのに、なぜか不快な感じはしなかった。力強く抱きしめられているような、そんな心地いい感覚が生じているのだ。
 初めての感覚を処理しきれず、ぼーっとして立ちつくしていると、シャーティさんに肩を叩かれる。
「ロバラちゃん、大丈夫? ……まさか、いきなりラバースーツ酔いしてたの?」
 彼女は驚いた顔をしているけど、わたしにはなんで驚いているのか、わからない。
「えっと……ラバースーツ酔い……ですか?」
「ええ。稀にいるんだけどね。ラバースーツって独特の着心地をしているでしょう? だから、その着心地に酔っちゃう子がたまにいるのよ。悪いことじゃないし、むしろ良いことだから心配しないでいいわ」
 そう微笑むシャーティさん。
「普通は何度か着て、慣れてきた頃にそうなるんだけど……ロバラちゃんは本当に逸材かもしれないわね」
 ぼそりと呟かれたシャーティさんの声は、なぜかすごく嬉しそうだった。
 とりあえず呆れられたり、引かれたりはしていないようで安心した。
「これでラバースーツは着れたわ……あ。ひとつ忘れてた」
 普通に立っているだけでも、少し身動ぎしただけで、ラバースーツが身体の各部を締め付けてくる。その感覚に精一杯だった私は、背後に立つシャーティさんが何を取り出したのか見ていなかった。
 シャーティさんの手が、わたしの首元に触れてくる。
 金属で出来たチョーカーのようなものが、わたしの首に取りつけられた。
「えっ、ちょっ、ちょっと!?」
 突然のことに驚いていると、シャーティさんが補足してくれた。
「このチョーカーも加護付きの特別製なの。私は外に出ないから必要ないから着けてないけど」
 ただでさえ息苦しいところに、さらに拘束が加えられて、本当に息が出来なくなるんじゃないかと焦ったけど、幸いさらに息苦しくなっただけで呼吸は阻害されなかった。ギリギリの域を攻めてくる。
 そのチョーカーは首にぴったり張り付いていて、わずかな遊びもない。ラバースーツもそうだけど、なんでこんなにわたしのサイズぴったりなのだろう。
「これで基本の制服は着終わったわ。鏡で自分の姿を見てみる?」
 シャーティさんに促されるまま、わたしは部屋の片隅に用意されていた全身が映る大きさの鏡の前に立たされた。

 そこには、異様な姿のわたしがいた。

 そこに映るわたしは、全身真っ黒な、ラバースーツに包まれている。
 手や足の先までぴっちりとわたしの身体を覆うその服は、わたしの身体のラインを嫌と言うほどはっきりと浮かび上がらせていた。
 ラバースーツそのものに身体を締め付け、ラインを整える効果があるらしく、いまのわたしが取れる最高の身体のラインになっているような気がする。
 普通の服だとそんなに目立たなかった胸も、一回りは大きく見えるし、なにより形がすごく綺麗に出ている。その上、身体を動かす際に胸が揺れても、ほどよい強さで保持してくれているため、全然痛くない。
 揺れないわけじゃないけど、ちゃんと形を保持してくれているから、巨乳の人でもたぶん大丈夫、だと思う。
 首につけられた金属製のチョーカーは、触れると冷たくて硬そうなのに、不思議と首の動きにはほとんど干渉しなかった。加護がついているという話だったけど、装着者の邪魔にならないような魔法でもかかっているのだろうか。
 正直、首に巻く金属製のもの、というと犯罪者などが身に付ける首輪が真っ先に思い浮かんでしまうのだけど、このチョーカーはあまりそういう風には感じなかった。シンプルながらデザインがお洒落で、装飾品として成立している。
(……ドレスを着てこれを着けても違和感ない、かも?)
 まあ、ドレスなんて遠くから見たことしかないのだけど。
 それにしても、繋ぎ目らしきものがないように見えるけど、どうやって外せばいいんだろうか。
「あの、シャーティさん」
「次はロバラちゃんに使ってもらう部屋に案内するわね」
 訊こうとしたら、シャーティさんは言いながら部屋の外に出ていってしまう。
 あとで脱ぐ時に訊けばいいかと、とりあえずシャーティさんのあとに着いて歩く。いつものように歩こうとしたら大きく胸が揺れた。
 身体の感覚でそれがわかって、慌てて腕で押さえる。
(うぅ……これほんとに皆同じ服を着てるのかな……モンスターと戦う時にこれって、結構厳しいんじゃ……)
 痛くはないのはわかってるけど、揺れるのには違いないから、恥ずかしくて仕方ないと思うんだけど。
 そんな風に思いながらも、シャーティさんの後ろについて、階段を上る。
 相変わらずシャーティさんの足には鎖が繋がっていて、じゃらじゃら音を立てている。すごく邪魔になりそうだけど、彼女は慣れている様子で、階段を上るのにも支障がないようだった。
(それにしても長い鎖だよね……絡まったりしないのかな? 他の人が踏んじゃったり……とか)
 何気なく鎖の動きを見ていると、シャーティさんが廊下の角を曲がり、鎖が角に引っかかりそうになった。
 けれど、引っかかるかと思われた鎖は、何事もなくシャーティさんに引かれるまま、動き続けている。
 まるで鎖自体が動いているようにも見えるのは、目の錯覚なのだろうか。
(あまり気にしないようにしよう……)
 そう気持ちを切り替え、シャーティさんについていく。
 シャーティさんはひとつの部屋の前で止まった。ここの扉は自動ではないらしく、シャーティさんが枷のついた手で開けていた。
「ここね。家具はあまりないけど、もし必要なら言ってね。物置に余っている家具がいくつもあるし、大抵のものは融通できると思うわ」
 中はシンプルな部屋だった。ベッドがふたつ置かれていて、壁際には棚や机もある。
 確かに物は少ないけど、わたしみたいな新人を迎えるのならこれくらいの方がいいんだと思う。
「わ、わかりました。ええと、同室の人もお出かけ中ですか?」
 まずはその人に挨拶をしないといけないだろう。
 そう思って訊いてみたのだけど、シャーティさんはなぜか少し困ったように笑う。
「ああ、ごめんなさい。実はこの部屋、いまは誰も使ってない部屋なの。二人部屋をひとりで使うから、少し寂しいかもしれないわね」
「え? そうなんですか?」
 つまりこの部屋は完全に新人用の部屋で、その部屋を使う人はわたし以外いないということらしい。
 一人部屋なんて初めてのことで、むしろ嬉しく思えてしまう。
 それにしても、結構所属している人は多いはずなのに、部屋が余っているなんて、このホームは結構広いのだろうか。
 そう訊いてみたら、シャーティさんは苦笑した。
 彼女がさっきからずっと困ったような笑顔を浮かべているのが気になる。
「シャーティ、さん?」
「そうね……確かに外から見るより、この屋敷が実際に広いのも事実なんだけど。地下室もあるしね。でも、部屋が余ってるのは……」
 ふと、そこまで言ったシャーティさんが言葉を切り、あらぬ方向を見やった。
「……あら。何人か帰ってきたみたいね。とりあえず荷物は部屋に置いちゃって。皆を出迎えに行きましょう。あなたを紹介するから」
「あ、はい。わかりました」
 なんだか色々あるらしい。
 とりあえずパーティメンバーに挨拶するのも大事だから、わたしは着替えなどの荷物を置いて、メンバーを出迎えに行く。
 これからお世話になるパーティメンバーたちだ。失礼がないようにしなければならない。
 わたしはそう思っていたけど、それ以前に彼女たちの姿を見て、呆気に取られることになるのだった。
 パーティの制服だといわれ、わたしが身に付けているラバースーツとチョーカー。
 これはあくまでも『基本の』制服だ。

 つまり――人によって制服はそれぞれ違うのだ。


「カゴノヒトビト」につづく
[ 2019/04/17 22:57 ] 小説・短編 カゴノヒト | TB(0) | CM(0)
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