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白日陰影

箱詰系、拘束系の18禁小説を書いています。関連の同人・版権作品のレビューも書きます。18歳以下の閲覧禁止。

カゴノヒト 2


 シャーティさん曰く、現在カゴノヒトのメンバーは出払ってしまっているみたいで、メンバーへの紹介は帰ってきてからになるらしい。
 メンバーが帰ってくるのを待つ間に、わたしはこのパーティの制服を着てみることになった。
(パーティに制服なんてあるんだ……)
 わたしの認識だと、制服っていうのは兵士の人とか、ギルドみたいな大きな組織の事務員さんなんかが着るものだった。
 冒険者のパーティにもそういったものがあるというのは初めて聴いた。
 このパーティだけの特徴なのかもしれないけど。
「ロバラちゃん。こっちの部屋に来てもらえる?」
 言いながら、シャーティさんがカウンターの中を移動し、奥の部屋へと移動していく。その際、鎖の鳴るような音が響いているのに気付いたけど、鎖がどこにあるのかは見えなかった。
 わたしはシャーティさんに言われるまま、カウンターの中に入って彼女に続こうとして――その足下で太い鎖が動いているのに気付き、踏まないように慌てて飛び退いた。
 その鎖は、シャーティさんから伸びていた。
 彼女の足首には大きな枷が取りつけられていて、鎖はそこから伸びていた。鎖がどこに繋がっているかはわからないけど、まさかどこにも繋がっていないということはないだろう。 どこかに鎖で繋がれているとしたら、いよいよ本当に囚人みたいだ。
 もっとも、それにしては鎖が長すぎる気はしたけど。
「あ、あの、シャーティさん……それ……」
 鎖のことを聴こうと声をかけると、彼女はわたしが何を言いたいのか気付いたらしく。
「ああ、気にしないで。踏まれると転んじゃうから、踏まないように気をつけてね」
 あっさりと流された。あまりに平然としているものだから、わたしもそれ以上突っ込んで聴くことは出来ず、言われた通り、踏まないように注意して彼女の後ろについていく。
 そこで改めてシャーティさんの全体像に意識が向けられ、その異様な姿に唖然とした。
 シャーティさんの全身は、上半身と同じで、黒くてよくわからない不思議な素材で出来た服で覆われていた。肌に色を塗ったかのような、ぴっちりと張り付いている衣装。彼女の細い腰や丸みを帯びたお尻、すらりと長い足が強調されている。
 腰の、というか股間の、普通なら下着を身につける場所は内側から下着の形に少し盛り上がっているようなので、何か着ているみたいだけど、それが本当にただの下着かどうかはわからない。なんとなくだけど、普通の下着ではない気がする。
 肌の露出はむしろ皆無だというのに、肌を見せるよりもエッチな感じがするのは、わたしが田舎者だからだろうか。
 そんな恰好であるにも関わらず、シャーティさんは優雅に歩いてわたしを先導してくれる。じゃらじゃらと鎖の鳴る音を響かせながら、彼女は歩いていた。
 色んな意味で目のやり場に困る姿だった。
 カウンターの奥の扉を潜り、奥の部屋へと移動するシャーティさんに続き、わたしもその扉をを潜る。中は普通の部屋みたいだった。応接室みたいな、人を迎えるための部屋っぽい。
(部屋は普通……よね……)
 だからこそ、シャーティさんの姿がより異様に映るのだけど。
 そんなことを思いながらわたしが部屋に入ってすぐ、部屋の扉が自動的に閉まった。思わずびっくりして振り返るわたしに、シャーティさんが優しい声をかけてくれる。
「心配しなくて大丈夫。勝手に開けられることはないから、安心して着替えてね」
「魔法のドア、なんですか?」
「んー、そうではあるけど、普通の魔法のドアとは少し違うから……まあ、その話はおいおい、ね」
 はぐらかされてしまった。
(まあ、パーティの秘密が関わってるなら、そう簡単には教えてもらえないわよね。……あれ? そういえば、鎖は?)
 ドアは閉まってしまったけど、シャーティさんの脚に繋がっていた鎖はどうなったんだろう。
 気になってそこを見てみると、扉の下には鎖が通れる分の隙間があって、鎖があってもちゃんと閉まるようになっていた。
(ちゃんと考えて造ってあるんだ……でもなんで鎖なんかで繋がれてるんだろう……?)
 わたしが不思議に思っている間に、シャーティさんが棚からパーティの制服を一着取り出してくれていた。
 ただそれは服と呼んでいいのか、微妙なものだった。

「これがうちの制服――私も身に付けている『ラバースーツ』よ」

つづく
[ 2019/03/20 17:34 ] 小説・短編 カゴノヒト | TB(0) | CM(0)

カゴノヒト 1


 一般的に、冒険者になる者には大きく分けて三つの道がある。
 ソロか、すでにあるグループに入れてもらうか、パーティに入れてもらうか、だ。

 まずソロは単純。ひとりで頑張る道。
 依頼人からの事情聴取から探索、戦闘、倒した獲物の処理、その他諸々の雑務。
 冒険者ギルドがやってくれることを除いた、ありとあらゆる全てをひとりでやる。
 当然高い戦闘力や技術、知識までもが求められ、完全ソロでやれている冒険者はほとんどいない。
 その代わり、報酬や名声の全てが自分のものになる。
 ハイリスク・ハイリターンの道だ。

 次にグループに入れてもらう道。
 大抵の冒険者には得意不得意があるから、それを補い合う形だ。
 前衛に立って戦う者、後衛に立って魔法を唱える者、狩り場にたどり着くまでや迷宮の道中の警戒を行う者、狩った獲物を上手く処理する者。
 分担して行うことで、すべてをひとりでやるよりも確実に、かつ、より良い形で行える。
 安全や確実性に関してはそれなりのものが担保出来る。
 ただ、分業であるがゆえによほど気の合うメンバーとでなければ諍いが絶えなかったり、一度メンバーが固定されると新参者が入りづらかったり、問題点も多い。
 報酬や名声はそれなりに分割されるが、ひとりではクリアできない依頼を受けれるため、実入りはそこそこと言ったところ。

 最後に、パーティに入れてもらう道。
 パーティ、とはグループをさらに巨大化したような状態のことで、十人を超える大所帯がパーティと言われる。
 基本的にはリーダーとなる者がいて、その者を慕ったり、あるいは何らかの理由があってその者を中心に集まったグループの輪が、パーティと呼ばれるようになる。
 言うなればグループの発展系であり、リーダーの采配で複数の依頼を同時並行で受けたり、専門職を何人も集めて難しい依頼に当たることが出来る。
 リーダーが許可さえすればパーティに入れるため、新参者でも入りやすく、それぞれの職の専門家がいるため、知識や技術の伝承が自然と行われる。
 采配の多くをリーダーが握ることになるため、リーダーとの不仲は致命的だが、それ以外のメンバーとはそれなりの折り合いを付けて貰うことも出来る。
 基本的なパーティの指針というものが決まっていて、それに賛同できるならパーティに所属するのが、駆け出し冒険者にとっては最も安全かつ確実と言われている。
 もっとも、大所帯ゆえに依頼をこなすことで得られる報酬や名声は、大きなものにはならないという欠点も抱えているのだが。

 そして、そんな駆け出し冒険者であるところのわたし――シューラはとあるパーティの拠点(ホーム)の前に立っていた。
 街の外れに建っている一軒家がその拠点で、外見だけを見れば極普通の家屋に見える。二階建てで、そこそこ大きい。庭もあるみたいだけど、建物の裏側なのか、どんな感じなのかはよくわからなかった。
 正面には大きな入り口があって、その上にはパーティの名前が書かれた看板が掲げられていた。
 冒険者ギルドで冒険者登録自体は終わっている。この街は大きな街だから、駆け出しの初心者を受け入れているパーティもいくつかあった。
 わたしはその中で「色んな意味で一番安全で、命の危機は少ないけれどお薦めはしない」とギルドで教えてもらったパーティにやって来た。

 冒険者パーティ・カゴノヒト。

 この世界には、神様、もしくは精霊の加護というものがある。
 それはとても強大な力で、おとぎ話に出て来るような勇者様や魔王はそういった加護を必ず持っていたというくらいだ。
 パーティ名から察するに、おそらくこのパーティのリーダーは加護持ちなのだろう。
 加護には一部を人に与えられるものもあるという。
 有名なおとぎ話では、とある国の王様が【コンティニュー】という強大な加護の持ち主で、その加護を与えられた人は、仮に敵との戦いや罠で死んでも、王様の目の前で復活出来たとか。
 その【コンティニュー】ほどじゃなくても、高い防御の加護を授けてもらえれば、よほどのことでは死ななくなる。
(安全って、たぶんそういうことだよね……それに)
 わたしがギルドでお薦めされなかったのに、所属を希望するパーティにここを選んだのは、もうひとつ理由がある。

 それは、このパーティのリーダーが女性で、加入条件も女性限定だということだ。

 一部例外はあるみたいだけど、基本的に女性しか所属出来ないのは、とても重要なことだった。
 わたしにとって、男性というのは恐怖の対象だったからだ。
 わたしの生まれた村は、ある日大規模な山賊の襲撃によって無慈悲に蹂躙された。その際、わたしも捕らえられ、山賊の頭によって無理矢理犯され、散々な目に遭わされた。
 すぐにやって来た国の軍隊によって山賊たちは蹴散らされ、救出されたものの、わたしは男性に対する恐怖心を植え付けられてしまった。
 その後紆余曲折あって恐怖心は克服し、男性だからと誰彼無しに恐怖することはなくなったけど、男性が傍にいられるだけでいまだに落ち着かない。
 村はなくなってしまったし、何か手に職があるわけでもないわたしに残されていたのは、冒険者になる道くらいしかなかった。
 かといってただの村娘でしかなかったわたしに、ソロでやれるほどの実力があるはずもなく、女性のみのグループは大抵がすでにメンバーが充実していて入れなかった。
 そんなわたしにとって、女性限定のパーティは渡りに船だ。しかも、初心者でも歓迎となれば、わたしにはそこしかないというものだった。
 曲がりなりにもギルドに認知されているパーティだし、実績もかなりのものがある。
 どうしてお薦めされていないのか不思議なくらいだ。
(ギルドの受付の人は教えてくれなかったんだよね……何があるんだろ)
 受付の人はなんとも形容しがたい顔をしていた。
 彼女曰く、犯罪行為に手を染めているとか、メンバーの女性を娼婦として派遣するとか、そういうことではない、とは断言してくれたけど。
(じゃあどういうことなのか……って話だよね)
 行けばわかる、としか言ってくれなかった。
 むしろ、行って体験してみないと所属できるかどうかわからない、と言われたけど。
(体験ってどういうことだろ……お試し期間とかがあるのかな?)
 単純に楽ができるわけではないのだろう。
 わたしは意を決して、『カゴノヒト』の拠点の扉を叩いた。
「ごめんください! パーティの加入希望で来ま、し……た……」
 挨拶が途中で中途半端になったのは、誰もいないのに叩いた扉が自動的に開いたからだった。
 優れた魔法使いのいる家では窓や扉が自動開閉するようになっていると噂では聞いていたけど、実際に見るのは初めてだったので、驚いてしまった。
 そのまま開ききった扉の向こうは、広い部屋になっていた。
 住宅というよりは、酒場とか飲食店のような構造で、広い部屋の中に丸いテーブルがいくつか点在していて、その周りに椅子が置かれている。
 さらに、まさにお店っぽい、カウンターらしき台が正面にあって、その向こう側にだれかが座っていた。
 その人は、にっこりと笑顔を浮かべていた。
「ようこそ。『カゴノヒト』へ。可愛らしい小鳥ちゃん♡ 私は受付を担当しているシャーティよ。よろしくね♡」
 わたしはその言葉にすぐに反応することができなかった。
 それは、人懐っこく、気安い態度でいるその人――シャーティさんの姿、いや、服装が奇妙極まるものだったからだ。カウンターの向こうに立っているから、上半身しか見えないけど、その範囲だけでも十分奇妙だった。
 シャーティさんは、全体的には、極普通の人間の女性に見えた。
 特に耳が尖っているということも、角が生えているということもない。背中に届くくらいのウェーブがかった金色の髪も、白い肌もこの辺りでは普通に見られる特徴だ。
 成熟した大人の女性らしく、大きな胸や細いくびれがとても魅力的だった。
 線の細いしゅっとした顔立ちなどから、美人なのはわかる。
 でも、そんなシャーティさんには、とても奇妙な点があった。

 彼女の目は、不思議な布によって覆われていたのだ。

 その布には穴が空いているということもなく、完全に目を覆っているので、目隠しをしている状態だった。
 目を覆っている目隠しは黒っぽい素材で、厚みも結構あるように見える。その厚みと材質からすると光が透けて見えるということもなさそうだし、完全な盲目状態になっているはずだった。
 けれど、シャーティさんの目は、確かにこちらを見ているのがわかる。じっと見ている視線を感じるからだ。
 その目隠しだけでも十分不可思議なのだけど、不思議な点はそこだけじゃなかった。
 シャーティさんが身に付けている服。
 それもまた目隠しと同じで、黒い素材で出来ていた。
 それは彼女の女性的な魅力に溢れた身体を強調するように、身体にぴったりと張り付いているような形状をしていた。乳房の形が綺麗に出てしまっていて、裸に色を塗ったと言われても一瞬信じてしまうかもしれない。
 この街では様々な種族や文化が混在しているため、シャーティさんはそういう服飾文化なのだと思えば問題はないのだけど、わたしの知る文化にそういうものはなかったので、見ていると少し恥ずかしい。
 物を知らない田舎者だと思われたくなかったので、態度には出さないように努めたけど。
 ただ、種族とか文化とかでは説明しがたいこともあった。
 それは、シャーティさんがカウンターの上に置いている手にある。

 彼女の両手は――分厚い金属の枷によって、一纏めに拘束されていたのだ。

 広い世界、そういう文化が全くないわけではないとは思うのだけど。
 少なくともわたしの常識に従って考えれば、そういう手枷や足枷といった『自由を束縛する道具』は、囚人か、あるいは奴隷が身に付けるものだった。わたしも山賊の頭に無理矢理犯されていた時、両手と両足に鎖で繋げられた枷を取りつけられていた。
 ただ、彼女が身に付けている手枷は、両手に着けた金属の枷を鎖で繋いでいるのではなく、枷同士が結合している形なので、普通の手枷よりも、もっと自由度が少なそうだった。
 枷は手首あたりを覆っているのだけど、きっちり固定されているせいで彼女は両手を肘までぴったり揃えないとならなくなっていた。
 そのために、大きな胸が両腕によって挟まれ、より強く強調されている。
 彼女の着ている服が服だから、乳房の丸みがよりはっきりわかって、なお恥ずかしい。視線を向けづらく感じつつ、わたしはシャーティさんが手枷をしている理由を考える。
(もしかして……受付対応のために奴隷を雇っている、とか……?)
 あり得るかもしれない。
 罪を犯して奴隷身分に落とされたというなら、自由を奪って受け付けに置くというのも、筋は通っているかもしれない。そこまでして受付が必要かと言えばそうじゃないし、彼女の気さくな雰囲気から違うような気はしていたけど。
 動けないわたしに対し、シャーティさんはくすくすと大人っぽく、品良く笑った。
「ちなみに、私は元犯罪者でも囚人でもなければ、奴隷身分にあるわけでもないわよ?」
 どきりとした。
 心を読まれたように感じたけど、ここを訪れる人は大抵同じことを考えるのだろう。
「説明してあげるから、とりあえず中に入って来て」
 そういえばまだ建物の外に立っていたことに気付き、慌てて中に入る。
 すると、開いた時同様、ドアは勝手に閉まっていった。
 カウンターの前まで行くと、中に立っている彼女が姿勢良くお辞儀をする。
「改めまして、『カゴノヒト』へようこそ、新人ちゃん。私たちは去る者追わず、来る者拒まず、のスタンスだから安心していいわよ♡」
「ど、どうしてわたしが新人だってわかったんです?」
 ここまでのやり取りで、目隠しのようなものをしているけど、見えていないわけではないということはわかっていた。
 なので、単なる観察眼かもしれなかったけど、一応尋ねてみた。
「ふふふ……私の目には貴女の『ステータス』が見えるの」
「すてー、たす?」
「ええ。体力とか魔力とか、身体的な能力を数値化したものよ。一般的な呼称じゃないからわからなくて無理もないわ。うちのマスターがそう呼べっていうから、私もそう呼んでるだけだし。日々の体調や調子で変動する数値だから、本当はステータスとも呼び辛いらしいけどね」
「は、はぁ……」
 訳がわからない。マスターというのは、たぶんこのパーティのリーダーのことだろう。
 マスターという呼び方はギルドなど、もっと大きな組織のリーダーに使われるものだ。
 パーティリーダーに使われることはそうそうないけど、それだけシャーティさんがリーダーを慕っているということかもしれない。弟子が師匠を呼ぶ時にも使うから、そういう関係という可能性もある。
「私には貴女の大体の実力が数値で見えるの。それによると、貴女の数値は駆け出し冒険者と同程度……一般的な村人の女の子とほとんど変わらないから、冒険者ギルドに登録したばかりの、新人だということは明白だわ」
 立ち居振る舞いだけでも普通にわかったけどね、と彼女はいう。
 目が見えていなければ言えない台詞だ。
「……やっぱり見えて、るんですよね」
 まっすぐ顔を見てきているような感じはしたし、そうだとわかってはいたけど、そう口に出してみる。
 シャーティさんは特に隠し立てするようなことはなく、普通に頷いて肯定した。
「実は『ステータス』が見えるのもこの目隠しのおかげなの。この目隠しにはマスターから与えられた加護が宿っていてね。魔力を込めると、周囲の景色が数値付きで見えるようになるわけ。魔力を込めないと何も見えないけど、魔力を大量に消費するから、ずっと使い続けるのは無理なのよね」
「……使っていないときは、外せばいいんじゃないですか?」
 単純な話だと思った。そうすれば必要な時だけ、必要な効果を使うことが出来、視界を奪われずにも済むと。
 けれど、そんな簡単な話ではなかったようだ。
「残念だけど、それは無理なの。この目隠しはね、一度効果を発揮すると、数時間は外せなくなる制約があるから」
 事も無げにいうシャーティさんだけど、それはかなり厳しい制約じゃないだろうか。
 魔法の中にはそういった制約を守ることによって大きな効果を発揮するものもあるというのは訊いたことがあるけど、目隠しのそれはまるで呪いのようだ。
「いま、呪いみたいだって思ったでしょ」
 また言い合ってられた。もしかして目隠しの効果で心の中まで見えるようになっているんじゃなかろうか。
 でも、さすがにそこまでは無理だろうから、同じ事を考える人がたくさんいるということだろう。
 そうだとするといまさら取り繕っても無意味だ。
「……正直、思いました」
「そうよねぇ。思うわよねぇ。マスターの得た加護って、どう考えても呪いよね」
 しみじみとシャーティさんは呟く。
 わたしはともかく、正式なパーティメンバーであるはずの彼女がそんな風に言っても良いのだろうか。
 どう答えたらいいものかわからず、曖昧に笑みを浮かべる。
 しみじみ呟いていたシャーティさんが、ふと、手枷によって連結された両手を器用に動かし、片方の掌をもう片方の手で作った拳で叩いた。
「あっ、と。いけないいけない。ついお話しに夢中になっちゃうのは私の悪い癖だわ。新人ちゃんはうちに体験入団しに来たってことでいいのよね?」
「そう……ですね。そういうことになりますね」
 怪しげなパーティに所属していいものか割と本気で迷うけども。
 体験出来るというのなら、体験させて貰ってから所属するかどうか決めても遅くはない。冒険者ギルドでの歯切れの悪さは気になるけど、新人冒険者を体よく使い捨てるようなパーティなら、ギルドに存在を許されているわけがない。
 シャーティさんの立ち居振る舞いからも、パーティの雰囲気はそう悪くはないはずだった。いまこの場には彼女しかいないからわからないところも多かったけど。
「それじゃあ、まずは名前を教えてくれるかしら?」
 彼女は書類らしきものを取り出して、そこにメモを取り始めた。読み書きは一応出来るようになっていたけど、まだ綺麗に書く自信はなかったので、任せることにする。
「ロバラ、です」
「ロバラちゃん、ね……得意な分野は?」
「これという特技はないです……けど、畑仕事で体力はある方だと思います」
 どういう働きが出来るのかということを考えてくれるのだろう。
 シャーティさんからされるいくつもの質問に、わたしは正直に答えていった。
 目隠しをしているシャーティさんが迷いなくメモを取っているのは奇妙な光景といえば奇妙な光景だったけど、だんだんそれにも慣れてきた。
 ほどなくして必要な聞き取りは終わったのか、シャーティさんが質問とメモを取る手を止める。
「うん、これで大丈夫よ。仮入団を受け付けるわ」
「いいんですか? 何の特徴もないですし、それに、リーダーさんに聴かなくてもいいんでしょうか……」
 シャーティさんは受付担当と言っていたから、リーダーではない。
 パーティに所属していいかどうかを決めるのは、リーダーの役割なはずだった。
 そのことが気になって聴いてみると、シャーティさんはこくりと頷く。
「ええ、大丈夫よ。本入団ならともかく、仮入団に関しては私に一任させてもらっているし……うちは基本的に女の子を拒むことはないわ」
「それ、気になっていたんですけど……なんで女性限定なんですか?」
 女性限定というのは、わたしのような男性恐怖症には助かることだけど、不安になる種でもある。女性を集めて何をしているのか、あるいは、しようとしているのか。
 もしかすると、とんでもないことに巻きこまれる可能性だってある。それは尋ねておきたかった。
 するとシャーティさんは困ったように笑った。
「うーん、そうねぇ……ほんとは、男性が絶対ダメだってわけじゃないんだけど……マスターの趣味、かしら」
「しゅ、趣味?」
「まあ、それはおいおい、ね。変な意味じゃないから安心してちょうだい。最初に言った通り、うちのパーティは来る物拒まず去る者追わず。嫌になったらいつでも抜けていいから。……抜けられるかどうかはわからないけど」
 最後にぽつりと呟かれた言葉は、小さくてわたしには聞こえなかった。
 シャーティさんは笑顔で、話を先に進める。
「それじゃあまずは……うちのパーティの制服を着てみてもらいましょうか♡」

 それが、すべての始まりだった。

つづく
[ 2019/03/18 23:43 ] 小説・短編 カゴノヒト | TB(0) | CM(0)

遠隔操作で自縛したら「自分」が増えた


 わたしの目の前で、限りなく自由を奪われた女の子がもがいている。

 至って普通の家の一室、日常的な香りのする部屋の中。
 目に眩しいほどに白いシーツがキッチリ整えられたベッドの上に彼女は仰向けに寝かされていた。
 細く華奢な両手両足は、それぞれ別の拘束具で折り畳んだまま包まれ、伸ばすこともできないようにされている。
 指先はミトンのような丸まった手袋に包まれて、使えないようになっている。遊びが一切ないので、仮に縄抜けなどのエスケープの達人でも抜け出すことは出来ないだろう。
(まあ、そんな技術なんて持っていないから、過剰なんだけど……)
 両肘と両膝には丸い金具があって、太い鎖が連結されている。その鎖が左右に引っ張られて、ベッドの裏で手足の鎖それぞれが繋がっているので、彼女は身体を開かざるを得ない状態にさせられていた。
 彼女がいくら短くなった腕や足で身体を隠そうとしても、鎖は強固に彼女の両手足を固定している。手足に込められるだけの力を入れているようだけど、鎖はわずかに軋むだけでテンションが緩んだりはしなかった。
(恥ずかしい格好よね……部屋に流れる空気が身体に当たるのがよくわかるし……)
 両手両足は完全にラバーで出来た袋状の拘束具で覆われている彼女だけど、それに比して身体は比較的露出度が高かった。
 胴体にはボディハーネスと呼ばれるものが食い込んで、その裸身を彩っていた。掌にあまるほど大きな乳房も、革のベルトが絞り出して大きさを強調している。
 その先端にある桃色の乳首。それに対して、小さなローターが二つ、挟むように固定されている。小さな振動音を奏でながら刺激を与え続けていた。
 その結果、彼女のその敏感な先端は傍目にもわかるほどに硬く尖っていて、どれほどの快感を強制的に与えているのか容易に想像がつく。
(少しもがいただけでも揺れるから、刺激に慣れないのよね……)
 彼女の股間は、両足が曲げた状態で、膝が左右に引っ張られていることで、女の子が普通は絶対にしない格好で開けっぴろげに晒されていた。
 その上、両足は足の裏を合わせる形に固定されている。ボンテージテープというガムテームのようなものでぐるぐる巻きにされていて、足先が微かにぴくぴくと動いているのがわかる程度にしか動かない。
 そんな形で晒されている股間、女の子の一番大事な場所には、恐ろしく大きく太いものが挿入されていた。それはボディハーネスの股間部分を通るベルトに固定され、抜けないようにしている。
(最初はあれだけキツかったのに、よく入るようになったわよね、これ。普通の男の人のものとは違う動きだけど、それがいいっていうか……)
 多少女の子が暴れた程度では抜けず、むしろ押し込んでいるような形だ。男性器を模したそのバイブはローターとは比べものにならない大きな音を立てて動いていて、彼女がその動きに翻弄されているのがよくわかる。
 さらに、クリトリスは丁寧に皮が剥かれたあと、クリキャップで吸い出された上で、ローターが張られていた。
(直接つけたらすごすぎたから、クリキャップ越しに着けてみたけど……余計酷いのかな?)
 仰向けに寝ているから傍目からは見えないけど、お尻の穴にも細工がされていることをわたしは知っている。
 彼女のお尻には太くて長いアナルパールが押し込まれていた。丹念に中のものを出してから入れたから、お腹の奥の奥までそれの感覚が満たしているはずだ。
 いまはお尻の穴から引っ張り出すための金具が飛び出しているだけだから、見た目は大したことがないように見える。
 けれど、ボディハーネスが食い込んでいないあたりのお腹をよく見ると、便秘で大便が腸内に溜まっている時のように、少しぽっこりとしていることから、入れているそれがどれほど太く大きく、長いものなのかは伺いしれた。
(ほんとに苦しいのに、よくやったわよね……)
 必要以上の、執拗なまでの責め具の数々。
 そしてそれは身体だけじゃなく、首から上の頭部にも及んでいた。
 いや、むしろそこから上が本番といえるかもしれない。
 まず首には太くて重い金属製の首輪が巻き付いている。この首輪、着けたまま動くことを想定していないと思えるほど物凄く重い。もし柔らかいマットのベッドに寝かされたら首輪の自重で首が絞まってしまいかねないほどだ。
(ベッドの硬さが足りなかった頃は、危うく気を失いかけたわね)
 いま彼女が寝ているベッドはほどよい固さのマットを使っているから、分厚い首輪がほどよく凹み、固定されているわけでもないのに彼女の首はそこからほとんど動かせなくなっていた。
 顔の下半分、口を覆っているマスクのようなものは、口の中央に丸い栓のようなものがある。いわゆる開口具というもので、その栓を外すことで口内が無防備に晒される仕組みだ。本来なら、男性が着用者にフェラチオを強制させるための装置だった。
 ただ、この口枷の栓は特注品であり、内側に物凄く太くて長いゴム製の張り子が接続されている。
 それは彼女の喉の奥までを犯し、喉のほとんどを占領して、わずかな呼吸さえも苦しいものにしている。
(ほんと苦しいのよね、これ……喉のほとんどが圧迫されて……空気は通るけど、それ以外のものはほとんど通らないし……)
 舌が内側に張りだしたものによって抑え込まれているから、彼女は明瞭な声をあげることもできない。開口具の時点で開きっぱなしになるのだから、ほとんど呻き声しかあげられないのだけど、その栓の残酷な仕掛けによって、呻き声すらささやかなものになっている。
 口で呼吸のできない彼女は、鼻で呼吸するしかできないのだけど、そこにも当然細工がしてある。鼻には穴を塞ぐ形でチューブが通されていて、そのチューブの先端は彼女の顔の横に置かれたリブレスバッグに接続されていた。
 知らない人が見たら黒い風船のようなものにしか見えないものが、彼女の呼吸に合わせて膨らんで萎んで、を繰り返している。そのリブレスバッグは、彼女の鼻のチューブに繋がっているのとは別の太いチューブである程度の外気を取り入れているため、酸素がなくなって死ぬことはない。
 けれど、吐いた息をほとんどそのまま取り入れることになり、酸欠気味になってしまう。
 彼女がそれを通して呼吸をするようになってからしばらく経っているから、頭がぼんやりとして思考が定まらなくなり始めている頃だ。
(ぼーっとして、息を吸っても吸っても楽にならなくて。最初は焦って余計に呼吸して苦しくなったりしたなぁ)
 目の焦点の合い方などを確認出来れば、より詳しくどんな状況かわかるのだろうけど、残念ながらそれはできなかった。
 彼女の目は、分厚い目隠しによって覆われているからだ。その目隠しは普通の布を巻いただけのものではなくて、こういう時のために使われる、革で出来た本格的なアイマスクだった。暴れることはそもそも出来ないけど、仮に頭を振って暴れたところで、全く動かないだろう。それくらい強固に彼女の視界は奪われている。
 彼女は、光の濃淡すら感じられない暗闇を感じているのだ。
(目が見えないだけでも、十分なのにね……)
 耳にはノイズキャンセラー付きのヘッドセットが被せられ、目隠しや口枷と連結して取れないように固定されている。しかも、これだけではなくて、ヘッドセットの中にある耳の穴には、だめ押しとばかりに穴を塞ぐタイプの耳栓が押し込まれていた。
 それにより、わずかな音さえも一切聞こえない。
 身体を通して聞こえる分しか、彼女の耳には音が届いていなかった。それは静寂というにはあまりにも静かすぎる環境で、目も耳も鼻も利かないため、身体の感覚が酷く鮮明になるのだった。
(自分の身体だけしか世界に存在しないような、心細くて、不安になる感覚……)
 彼女は、人間が本来持っている自由をことごとく奪われて、そこにいた。
 とても恥ずかしく、ひどくいやらしい格好で囚われている。自由のない中、少しでも身体を動かそうと懸命に足掻いていた。
 もちろんその程度で彼女を戒める拘束は外れない。
 それを一番よくわかっている彼女は、はしたないほどに股間を濡らし、挿入された張り子の隙間から愛液を滴らせてベッドにシミまで作っていた。
 絶望的なまでに自由を奪われているのに股間を濡らすなんて、どれほど変態かと思うだろう。ほとんどの人がそう思うはずだ。
 だが、わたしはそうは思わない。思うわけがない。
 この彼女にここまで徹底的な拘束を施したのはわたしだ。
 無抵抗な彼女のあそこにバイブを入れ、アナルパールを押し込み、ボディハーネスで絞り出しつつ固定して、ローターを乳首とクリトリスに宛がって、両手両足を折り畳んで拘束し、鎖でベッドに固定して、指先までも完全に覆って封じ、首輪を着けて鍵をかけ、口枷を噛ませて喉の奥まで張り子を押し込み、鼻の穴を封じてリブレスバッグに繋ぎ、目隠しをして耳栓を入れてヘッドセットで固定して。
 すべての準備を整えた。
 そうやって拘束した張本人だから、彼女を変態と思わない、のではなく。

 わたしは、ベッドの上で快楽に悶えてもがいている――彼女本人だからだ。




 わたしは、どこにでもいる普通の女の子だった。
 とあるエッチなネット小説を読んだことがきっかけで、SMというか、拘束されることに興味を持ってしまった。
 彼氏はいなかったし、友達に頼むわけにもいかなかったから、自分で自分を拘束する、いわゆるセルフボンテージに嵌まっていった。
 そうしているうちに、自分の身体ひとつで出来ることには限界を感じ、思い切ってお助けロボットを購入することにした。
 本来、このロボットは寝たきりの患者や高齢者などが使用するためのものだ。一時的に意識をロボットに移し、ロボットの体を行動することが出来る。身体は部屋で寝たまま、買い物や料理が出来るということで、自分で自分の介護ができると人気だった。
 自分の体と同時には動かせないけど、ロボットの体は力が強く、わたしのような女の子でも重い荷物を持つことができるようになるので、寝たきりの人以外にも活用されている。
 だからわたしがそれを購入しても不自然ではなかった。
 お助けロボットはできる限り操作する本人に似せる、というのが通例だった。もちろん人と区別がつかないほどではないけど、作業の関係上、手先なんかは人間そっくりにできているし、その気になって工夫すれば人間の体の振りをすることも一応は可能だ。
 そこまでする人は滅多にいないし、どうしてもロボットである部分はあるから、ずっと騙しきれるものではないけど。
 ロボットは操作する人間が、頭に着けるコントローラーがないと動かない。ヘッドバンドのような形状の機械によって、意識をロボットの方に転送して動かしている。
 コントローラーがないとロボットは動かせず、もし取り外せばすぐに人間の体の方に意識が戻るようになっている。
 ロボットの体と自分の体、両方を同時に動かすことはできない。それは主体性の保持という意味で絶対の前提だった。

 そのはずだった。

 いつものように事前の準備を人の体で整え、ベッドに裸で寝転がったわたしは、ロボットを動かすためのヘッドバンドだけを身に付け、ロボットの体に意識を移した。
 ロボットの体で動けるようになったわたしは、ベッドの上で無防備に寝る自分の体に拘束具や責め具を取りつけた。
 その間、わたしの人間の体は一切動かず、身動ぎ一つしていなかった。
 問題は何もなかったはずだった。
 すべての準備を終えたわたしは、嬉々としてロボットの体から意識を人間の体へと戻した――はずなのに、ここにいる「わたし」という意識はロボットの体にあり続けた。
 人間の体の方はいつものように縛り上げられ、自由を奪われた快感を享受しているようで、ロボットの体がいまだに動いていることに気づいてすらいないようだ。
 ほとんどの感覚を遮断しているから無理もないとはいえ、呑気なものだった。
 人間の体のわたしが身悶えているのを視界の端に納めつつ、わたしは自分の手に視線を落とす。ロボットの手が見えた。
(……どうしよう)
 間違いなくこれはバグだ。どういうわけだか、人間の体に戻るはずだったわたしの意識が、ロボットの体の中にも残ってしまった。
 本来ならこれはあり得ないことだ。だってこのロボットは人の意識を再現するほどの性能をしていない。色々な感覚をロボットの体を通して人間が得られるというだけで、原理としてはラジコンに限りなく近いからだ。
 指示を出す脳は人間の側にしかなく、いまはその脳が人間の体を動かしている以上、さらにロボットの体が動かせるわけがない。
 そもそも、ここにわたしをわたしと認識している自己があるのがおかしい。意識が分裂したとしか思えない。
(わたしは……どうすればいい……?)
 いつまでこの状態が続くのか、見当も付かない。
 普段こうやって楽しむ時、わたしは時間が経てば自動的に意識がロボットに移るようにしていた。
 そうして自分の拘束を解き、後片付けをしてから、再び自分の体に戻ってシャワーを浴びるなどの後始末を行う。
 向こうの意識がこっちに移って来た時、ここにいる「わたし」はどうなるのだろう。
 記憶や意識が統合される、というのが一番ありえそうだけど、本来存在し得ない「わたし」は消えてしまうのかも知れない。
 それは、ぞっとする予想だった。

 わたしは確かにわたしとしてここに存在する。消えたくない。

(ど、どうしたらいいの……?)
 もう一度わたしの意識がこちらに移って来ないようにするには。
 わたしはベッドの上で脳天気に快楽を貪るわたしを見た。
 その額には、ヘッドバンドが巻かれている。ヘッドバンドは不自由な体で暴れた程度では外れないけど、第三者の手なら取り外すのは簡単だった。
 ロボットに喉を鳴らす機能はないのだけど、ごくり、と唾を飲み込む感覚を覚える。
 それを行うことで、わたしがどうなるのかはわからない。
 もしかすると、取り返しのつかないことになる可能性は否定できない。
 それでもわたしは「わたし」であるために。

 ベッドで寝ているわたしの頭から、ヘッドバンドを取り外した。


つづくかもしれない

箱詰倶楽部の福箱詰


 福袋、それはお正月の風物詩。
 店によっては袋と言いつつ箱だったりすることもあるけど、そんな細かいことはどうでもよく、ちょっとお得にお高いものがランダムで手に入るチャンス、ということで日本人が大好きな風習だ。
 もちろんランダムだから好みじゃないものがたまに混じっていたりはするけど、その辺りも含めて福袋の醍醐味と言える。
 だから、いつもお世話になっているあの『例の倶楽部』で福箱が販売されると聞いた時、一も二もなく予約したのは確かだ。
 まさか、まさかとは思うけど、ひょっとしたら、という気持ちがあったのは否定しない。
 常識で考えたらありえないけど、あの倶楽部ならそういうことをやってくれるんじゃないかなという期待はあった。
 けれど、そのまさか、まさかじゃないか。

 本当に、箱詰めの『それ』が送られてくるなんて思わないじゃないか。

 僕はごくりと生唾を飲み込んだ。それを前に、そうすることしかできなかった。
 家に届いた時から、何かやばい気はしてたんだ。倶楽部専属の配送屋が届けに来たのもそうだし、四人がかりで運んできたのもそうだ。
 そしてなにより――わざわざ部屋の中まで運び込み、台座と共に置いていった段階で、そういう予感しかしなかった。
 一人暮らしの部屋には大きすぎる荷物。はっきりいって邪魔だけど、最低限の寝床と行動スペースは確保できていたので、まあ、問題ないといえば問題ない。
 そんな些細なことは置いて、僕の興味はそれ自体に釘付けだった。
 ついでにとばかりに置いていかれた小さな――といっても本体に比べればという意味で、十分ダンボールとしては大きい――箱も気になるが、本体の異様な存在感に、僕は本体から開けないわけにはいかなかった。
 金属製のパイプを台形に組んだ台座は、下部にゴムが貼ってあり、容易なことでは動きそうにない。
 設置していった作業員にも、なるべく動かさないように言われている。
 もしも緊急で動かさないと行けなくなった時は、動かしにきてくれるのだという。
 その台座の上に置かれた本体は、見た目だけ見ればただの寝かせた長方形の箱だ。台座で腰の位置の高さになっているけど、賽銭箱、という表現が一番わかりやすいかもしれない。
 材質は金属、鉄やアルミのような銀色だけど、触れてみた感じそのいずれでもなさそうだ。ヒンヤリしているかと思ったけど、思ったより冷たい感じはしなかった。
 箱の前後には『2019年 福箱』の文字がスタイリッシュな文字で刻印されている。こういう単なる装飾にも無駄に凝る感じはあの倶楽部らしい。
 そして上面、賽銭箱で言えばお金を入れる面は四隅がネジ止めされたフタになっていて、かなり厳重に閉じられている。フタも金属のような材質でできているようだから相当重いのではないだろうか。
 さらに、長方形の箱の中でも一番小さい面、左右の面には、なにやら複雑な切り込みのようなものが入っていた。
 向かって左側の側面は中心より少し上あたりに鍵穴が開くような形、反対側、右側の側面は潰れた円のような形に開くようになっているようだ。
 下側はそういった切り込みはなく、のっぺりとしている。ただ、何やら穴が空いていた。なんの目的かはわからないが、親指が入りそうなくらいの太さだ。試しに指を突っ込んでみたが、すぐに指先がフタのようなものに押し返されてしまった。
(さて、と……ここからどうすればいいのかな)
 上部のフタを開けてみようにも、止めてあるネジの頭は変わった形をしていて、普通の工具では開きそうにない。
(……ということは)
 僕は同時に届けられたもう一つの福箱を見る。恐らくはこっちの箱に開けるための工具や、この箱の説明などが入っているのだろう。
 段ボール箱はほどよい重さで、一般的な体格の僕でも持ち上げることが出来る程度だ。
 どっしりと重い感じは中身が詰まっているようで、工具一個、説明書一冊だけということはなさそうではある。
(ほんと、何が入っているんだろ……)
 半ば中身は予想できているのだけど、心臓のドキドキが止まらない。まさかという気持ちと、きっとそうだという気持ちが交錯している。
 心を落ちつかせながら、段ボールの蓋を開く。すると、想像通り箱の中には工具が入っていた。それは予想通りだったのだけど、納め方には意表を突かれた。
 段ボールの中には一回り小さい段ボール箱が入っていて、その蓋の上に工具らしきものだけがテープで貼り付けられていたのだ。
「……これは……なるほどそういうことか」
 もう一回り小さな箱を開ける前に、工具であの巨大な金属の箱を開けてみろという意図だろう。演出が凝っている。
 これはいよいよ、そういう内容物だという期待が高まった。
 僕は急いで、金属の箱の蓋の四隅にあるネジを外していく。くるくると小気味よくネジを外して、蓋に手をかける。この段に至っても、僕はまだ期待半分不安半分だった。もし中身がそうだとしたら、そうだとして。
 それをどう扱うべきなのかは難しい問題になりそうだったからだ。
 結論から言って、扱いに迷うようなことはなかった。
 なぜなら――蓋を開けた先には、もう一枚透明の蓋が待ち構えていたからだ。その蓋はいま外した蓋と違って、外せそうな構造をしていなかった。ただ、物凄く頑丈に出来ているようで、割ったり砕いたりすることはできそうにない。
 けれど透明だから中身は見える。中身を見た僕は、様々な意味で圧倒されてしまった。

 最初、それは黒い塊にしか見えなかった。

 箱の中に窮屈に押しこめられたそれは、明らかに人の姿をしていた。ただ、綺麗に四角に納められているので、一見しただけでは人に見えなかった。
 よくよく見れば、人間が箱の中に窮屈に押しこめられているのだということがわかる。
 体勢は正座を基本として、足首がお尻の横に来るように少し崩した状態だ。お尻を床に着ける、俗に女の子座りと呼ばれる姿勢。その状態で、その人は上半身をべったりと前に倒していた。頭頂部が箱の底面に突くほど身体を折り畳んでいるので、人間の身体とは思えないほど平べったくなっていた。
 身体が硬い男性には取りづらい体勢だし、あの倶楽部の客層から考えても、たぶん、女性だろう。
 女性だと断言できなかったのは、箱に詰められた人の身体が、ほぼ全てラバーに覆われていたためだ。
 全身を包むラバースーツ、頭部を覆う全頭マスク、手や足の先までしっかり覆われていて、性別を判断できる要素がおおよそ全て隠されていた。胸が膨らんでいるかどうかは、彼女の体勢が問題でわからない。
 お尻や肩の丸みからすると女性っぽいけど、最近の男性の中にはどう見ても女性にしか見えない人もいるし、それだけでは断言が出来なかった。
 とりあえず推定彼女としておく。
 その体格にぴったり合わせたのだろう箱は、それだけで彼女の自由をほぼ完全に奪っていたけど、彼女に施された拘束はそれだけではなかった。
 まず、足首。分厚い金属製の枷のようなものがかけられていて、その枷は金属製の箱と一体化している。ねじ穴も見当たらず、そこから一ミリも動かせそうにない。
 自由になりうる両手は、アームバインダーというものによって一本の棒のように身体の背面で固定されている。その先端は丸くなっていて手先の動きは完全に封じられていた。アームバインダーの先端には金属の輪っかがあって、お尻側の箱の壁面に繋がっていた。
 また、ハッキリとは見えないが、なにやら口には口枷みたいなもの、首には無骨な首輪らしきもの、腰には金属で出来たパンツのようなものが装着されているようだった。

 拘束されて箱詰めにされた人間が、目の前にいた。

 そうじゃないかと期待はしていたのだけど、実際こうしてそれが現実になると改めて圧倒されてしまう。
 さすがは箱詰倶楽部。福箱に全力だった。
 僕はあの倶楽部の会員であるが、箱詰めになりたいのではなく、箱詰めされた人を見るのが好きだった。
 そういうものに理解のある彼女がいたら、やってみてもらっていただろうけど、あいにく僕にそういういい人はいない。
 だからこれまで、箱詰倶楽部の活動を見学したり、販売される動画を購入して過ごしてきた。倶楽部で福箱が販売されるというアナウンスがあったときは、きっと基本的にはそういう動画とか写真の詰め合わせになると思っていた。
 でも、もしかしたらその福箱の中に、箱詰めされた会員が含まれているんじゃないかと、そう期待していた。
 僕のその予想は見事に的中したことになる。福箱を購入した人全員がこんな福箱を受け取っているわけはないし、僕はめちゃくちゃ運が良かったのだろう。
 興奮が隠せない。
(でも……このあとどうしたらいいんだろ……普段の見学とか動画と違って、思う存分見れるのはいいけど……)
 福袋はそれなりの値段で購入したけれど、当然人身売買に値するような値段ではないし、箱詰めにされている彼女も会員のはずだから、そんなことはできないだろう。
 時間的な期限があるはずだった。
 そもそも、そんなに長期間箱詰めにしっぱなしにしたら彼女の体が保たないだろう。
 人形なのだとしたらその辺りの問題は解決するけど、さすがにここまで大掛かりなことをしておいてそれもないはず。よくよく彼女を見ていると、呼吸によってか微かに体が上下しているようだし。
 生きている人間なら、メンテナンスは必要だ。
 僕は段ボール箱の中に詰められていた、もう一つの段ボール箱を開いて、中を見てみた。
 その中には、様々な道具と共に、一番上に僕の求めるものがあった。
「マル秘取扱説明書……マル秘って」
 わざとらしくデカデカと赤文字で書かれたそれを見て、思わず笑ってしまった。ちょっと男心がくすぐられてしまう。
 中を開くと、まず前文として箱詰倶楽部の社長の挨拶が載っていた。
『いつも箱詰倶楽部を御利用ありがとうございます。特別版福箱のご当選、おめでとうございます! すでに本体はご覧になられましたでしょうか? もしかすると人形なのではないかと誤解していらっしゃるかもしれませんが――』
 なにげに考えていたことを言い当てられて思わずびくりとする。
『無論、人形などではございません! 倶楽部会員のひとりでございます。参考として普段の様子を撮影した写真を同封しております』
 そこまで読み進めた時、説明書の中に挟んであった写真に気づいた。手から伝わってくる感覚で、何か栞みたいなものが挟まっていると思ってたけど、どうやらこれがその写真のようだ。それを取り出してみる。
「……マジかよ」
 思わず、その写真に映っている人と、箱の中に入っている黒い塊のようなものを見比べてしまった。
 写真には、すごく健康的で溌剌とした様子の女性が映っていた。
 それも、かなり若い。下手したら大学生だ。まさか高校生ということはないと思うけど。
 テニスをしているところを撮ったもので、汗を流して真剣にラケットを振るっている。
 顔立ちもかなり整っていて、とてもこんな変態的なプレイをするようなタイプには見えない。男性から引く手あまただろうに。
 こんな冴えない男のところに、箱詰めにされて送られてきているなんて。
 箱を覗き込んで見ると、そこには黒いラバースーツに全身を包まれ、徹底的に拘束されて身動ぎひとつにも苦労しそうなほど、箱詰めされた肉体があった。
 この写真のスポーティな女性が、この黒い塊になっている。
 写真に映っている人物が本当に箱の中に入っているのかという保証はなかったけど、想像するとギャップでますます興奮する材料になる。ズボンの中で痛いほどあれが反応しているのを感じていた。
 さらに社長の挨拶文を読んでいく。
『本当は差し上げたいところですが、さすがに弊倶楽部でも人身売買を行うわけには参りませんので、一時的な貸し出しということになります。当人の承諾は得ておりますので、ご安心ください。期限は一週間となります』
「一週間……! ずいぶん長いなぁ」
 そんなに長時間閉じ込め続けて、大丈夫なんだろうか。
『なお、メンテナンスの方法や、取り扱い方、スキンシップの取り方などは、すべてこの本に書いてあります。大事に扱ってくださいますよう、よろしくお願いいたします。それでは今年も箱詰倶楽部をよろしくお願いいたします』
 前文はそれで全部だった。説明書をぺらぺらと捲って見たところ、あの箱には色々と機能があり、それを使うことで彼女の健康を維持できるようだ。
 とりあえず一通り読もうと思ったけど、そのうちの一つの説明が目に入った。
 僕は彼女の入った箱に近づき、前面側の板に触れる。少し確かめて見ると、説明書通り、その板がパカリと外れた。天板と同じで、板の先にはもう一つ透明な壁があり、彼女本体に触れることはできなかったけど、箱詰めされた彼女の姿が横からも見れるようになった。
 上からは見えなかった部分が、はっきり見える。
 目立つのは俯いていた顔だろう。上からだと全頭マスクを被っていることしかわからなかったけど、横から見るとどうなっているのかはっきりわかる。
 まず、目はアイマスクのようなもので塞がれていた。分厚いクッションのようなものが目を覆っているので、ほとんど光も感じられないんじゃないだろうか。
 さらに口は口枷で塞がれているのは、上から見てもわかっていたけど、横から見るとその口枷がどんな形状なのかはっきりわかった。
 いわゆる開口具というものだ。顎から鼻先までしっかりラバーマスクで覆われているのだけど、口をギリギリまで開いた時の大きさの穴が中央に開いている。その穴は湯船の底にあるような、ゴムの栓で塞がれていた。本来なら、その栓を抜いたあと、男のものを突っ込んで強制的に奉仕させるための仕組みだろう。
 箱詰めにするだけならそんな機能は要らないはずだから、おそらくまだ秘密があるはずだ。
 その機能の追求はあとにして、まずは彼女の横姿をじっくり堪能する。
 折り畳まれた彼女の体。その見事な流線型を保った彼女の、ラバーに包まれた胸もまた、はっきりとは見えないが窮屈に押しつぶされているのがわかって、それだけでも興奮した。
 普段の写真を見たときから感じていたけど、結構な大きさだ。この大きさだと結構胸が圧迫されてかなり苦しいのではないだろうか。実際のところがどうかはわからない。
 ともかく、そんな箱詰めの彼女を眺めつつ、説明書を読み始めた。

 なんとも最高の正月になったものだ。


箱詰倶楽部の福箱詰 おわり

箱詰倶楽部の聖夜詰

 その一年に一度の特別な日、私がいつも通っている箱詰倶楽部もまた、特別な装いになっていた。
 いつものように建物のロビーに入ると、広いホールになっている場所に、大きなツリーが設置されていた。きらびやかに飾り付けられ、四方八方からライトアップされたツリーの下には、クリスマスプレゼントの大きな箱が置かれている。
 一見どこにでもありそうな装飾だけど、この倶楽部のことだから、きっと何かあるのだろう。そう思って少し眼をこらしてみると、華やかなラッピングに包まれていると思われていた箱の表面が、妙につるつるしているのに気付いた。十字にかけられたリボンは本物みたいだけど、ラッピングに見えたものは、箱の表面に映し出された映像のようだ。
 私は受付に行く前に、少しその展示物に近づいてみる。近づくと余計に違和感が際だってきた。
(これ……箱の表面に映像が映し出されてるわけじゃ無いわね……)
 プレゼントボックスのすぐ傍まで近づいた私は、その箱に向けて手を伸ばす。
 すると、ライトの光が遮られ、箱に向けて影を落とした。

 その影が落ちた部分から、箱の中が見えるようになる。

 驚いて手を引くと、再び箱は何の変哲もないプレゼント包装をされた箱になった。速くなった鼓動を感じつつ、どういう原理か理解した。
(な、なるほど……周囲から照らしてるのは、ライトであると同時にプロジェクターでもあるわけね……それを使って、箱にラッピングをしているように見せかけている、と。つまり――)
 私は再び手を伸ばして箱に触れる。やはり、ライトを遮った部分の包装が消え、中が見えるようになった。いかにもクリスマスプレゼントのような包装をしているような箱は、リボンを除いて、透明な箱だったのだ。
 そして、その透明な箱の中には、想像通りの物が詰められている。

 窮屈そうに身体を折り畳み、リボンのような拘束具によって縛られた女性がいた。

 一言でいうと、すごい体勢だった。
 全体的には、椅子に浅く腰掛けて背もたれに身体を預けているような体勢だ。
 ただ、床につけているお尻から腰にかけての部分が斜めになっているのか、特に不安定な様子はなく、安定しているように見える。彼女の身体の形に添うように箱の底が作られているのかもしれない。
 両手は後ろに回した上で交差しているようで、箱の隅に沿って手のひらが伸びているのが見える。縛られているかは正面から見てもわからないけど、縛られていなかったとしても、自分の身体と箱との間に挟まっていて、自由に動かせそうにはなかった。
 それだけならまだしも、私がすごい体勢と言ったのは、足の納められ方にあった。
 彼女は、自分の顎の下で両足の足首ふくらはぎを交差するような体勢で――私が同じ体勢を取れと言われても無理だろう――酷く身体の柔らかさを必要とするような体勢になっていた。
 彼女の両足は白いファーのついた薄くて赤いハイソックスに覆われている。その赤はとてもクリスマスらしかった。膝下までが赤く、そこから上は普通の肌色なので、赤い部分が×印描いていた。もしかするとクリスマスの「X」をイメージしているのかもしれない。
 それがクリスマスをイメージした体勢だとすると、彼女はとても可哀想だった。なぜなら、その体勢を取るためには、当然両足の形は決まってしまうからだ。
 彼女は無防備に股間をこちらに向けるような体勢になってしまっている。それはとても恥ずかしい体勢で、実際彼女はとても恥ずかしがっている様子だった。
 顎の下で足を交差させられている彼女は、自らの足が邪魔になって俯くことが出来ず、真っ赤になった顔をまっすぐ前に向け続けなければならなかった。
 一応この場所が会社のロビーだからなのか、ハイソックス以外の服を身につけていないわけではない。だけど、果たしてその服を、服のうちに入れていいのかは疑問だった。
 まず、まともな服ではないことは確かだ。彼女の晒された股間には、前張りのように四角い金属製の板のようなものが宛がわれていた。
 内側がどうなっているかはわからないけど、この倶楽部のことだ。前とお尻とそれから尿道を埋める突起が内側にあったとしても驚かない。
 むしろ箱詰めの間のお楽しみのために凶悪な形のものが入っていると考えた方が自然だろう。その前張りは全体が金色で、表面に「Merry Christmas」とメッセージが彫られていて、見た目はクリスマスらしい華やかなものだったけど、内側はさぞ凶悪な構造になっているに違いなかった。
 彼女が下半身に身に付けているのは、その金属の前張りと、ハイソックスのみ。箱詰めになっていなければ寒くて仕方のなさそうな格好だ。両足を交差した状態で固定しているのは、リボンのように見えるベルトの拘束具で、彼女自身がクリスマスプレゼントであることを示しているようだった。
 交差した両足が彼女の上半身を隠しているけど、上半身もそれなりの格好にされているみたいだった。
 まず、普通の服は一切身につけていない。乳房もほとんどが露わになっていて、股間と同じ金属の板のようなものが、乳房の丸みに合わせて張り付いている。
 まさかとは思うけど、その薄い板のような物に乳首を虐めるための仕組みがあったとしても驚かない。バイブくらいは仕込めそうだし。
 さらに、一番拘束が凄いのは彼女の首から上だった。
 まず、口を大きく開いた状態で固定する、緑色の開口具がある。開口具の奥でちらちら動いているのは舌だろうか。喉が渇きそうな状態だけど、箱の中に詰められているから言うほどではないのかもしれない。
 そして、その開口具のちょうど中心に垂れ下がるように、鼻輪に通された金色のベルがあった。少し揺れているのは、彼女が口で呼吸する際に空気がそこを通るからだ。耳を澄ませると、ちりんという涼やかなベルの音がほんの少しだけする。
 緑色の開口具は珍しいと思ったけど、その鈴があるおかげで意図は明白だった。クリスマスリースを模しているのだ。その下で交差する赤いハイソックスの「X」も合わさり、クリスマススペシャルと言ったところか。
 目隠しはされていなかったから、ばっちりと眼があってしまった。ゆでだこのように真っ赤になるのを見て、私は慌てて少し離れる。
 するとライトの光が箱を照らし、彼女の姿を隠してしまった。遠目から見れば、ただのクリスマスプレゼントの箱を模した飾りにしかみえない。
(……あれだけ透明度が高かったのに……投射できるのね)
 ただのプロジェクターでは、ガラスのように透明な物に映像を映し出すことは出来ない。つまり、なんらかの特殊な技術が使われているということだ。
 本当に相変わらず、この倶楽部は力を入れるところがどこか間違っている気がする。
(まあ、それを満喫しに来てる私がいえることじゃないか……)
 ツリーの下には他にもクリスマスプレゼントの箱がおいてあったけど、私は寄り道はそれくらいにして、受付の方へと向かった。

 私は箱詰めにされた者を見に来たのではなく、箱詰めにされにきたのだから。

 受付には、いつもの人が立っていた。ロビーをうろついていた私に声をかけることもなく、私の気が済むまで待ってくれていたのだ。
 彼女はいつもは、非常に真面目で有能そうな受付嬢なのだけど、今日は少し雰囲気が違った。
 というのも、イベントに合わせてか、いつもの制服ではなく、サンタ服を身に付けていたからだ。
 かなりきわどいミニスカと、明らかに布の面積が少ない上半身の服。にも関わらず両手と両足は丈の長い手袋とニーソックスに覆われている。そして、極めつけが白いふさふさのファーと、丸いボンボンが着いて、可愛さが強調されたサンタ帽を被っていた。
 なんともエロティックで、可愛らしい格好だった。彼女らしからぬ、とは思うけど、美人さんなので似合ってしまっているのがなんとも言いがたい。
 平静を心がけているようだったけど、酷く恥ずかしがっているのが真っ赤になった頬の様子から明らかだった。会社の方針には従わざるを得なかったのだろう。倶楽部の社長さんはひどくマイペースな方だと記憶しているので、押し切られたのかもしれない。
 受付嬢はカウンターの近くまで来た私に、いつもの丁寧なお辞儀をする。
「Merry Christmas.箱詰倶楽部へようこそ。本日はクリスマス限定イベントとして、愛しの方への『クリスマスプレゼント包装』および『輸送』を承っております」
 私はその言葉を聴いて、心臓がどくんと強く跳ねるのを感じた。

 今日はその『クリスマスプレゼント包装』をしてもらうために来たのだ。




 受付で必要な手続きを終え、私はいつものように箱詰プレイをしてもらう部屋に通されていた。
 慣れている私は、さっそく着ていた服を全て脱ぎ、ピアスや指輪といった装飾具も全てひとつの小さな箱の中に納めた。
「いつも当倶楽部をご利用ありがとうございます。コースは『クリスマス特別コース』、輸送先はご自宅ではなく、パートナー会員様のお宅でよろしいですね?」
 箱詰めにしてくれる従業員さんの確認に、私は頷いて応じる。激しく高鳴る心臓のせいで、上手く声が出なかったからだ。
 この倶楽部に私が嵌まるきっかけを作った彼とは、二人きりのクリスマスパーティを彼の家でする話はつけてある。驚かせるために箱詰倶楽部にお願いすることまでは言っていないけど、お互いの嗜好はよくわかっていることだし、半ば予想されてはいるだろう。
 けれど、それも含めてのクリスマスパーティだから、きっと彼も楽しんでくれるはず。
 体調やこれから行う箱詰めプレイの内容の最終確認を手早く済ませ、ついにその時がやってきた。
「まずは『中身』のデコレーションから行います」
 もちろんプレゼントの中身は、私自身だ。
 手渡されたのは、ロビーで晒されていた彼女も身に付けていた、ハイソックスだった。片足ずつ、それを履いていく。全裸にハイソックスだけ身に付けるというのは、なんともおかしな状態で、なんだかとても恥ずかしかった。全裸の方が恥ずかしくないというのも変な話だけど。足先が覆われている分、余計にむき出しになっている股間や上半身の頼りなさが浮き彫りになってしまうのだ。
 続けて着るように促されたのは、肘の上くらいまで覆うグローブだ。これも白いファーがついている赤いものだった。ただし、材質が少し違う。
「これ……ラバー……?」
「はい。薄いものですが、ちょっと爪でひっかいたりした程度では破れません」
 私が感心しつつもグローブに腕を通していくと、その先端の形状が変わっていることに気付いた。普通のグローブなら指の形に分かれているが、これはわかれていない。手の先は少し膨らんでいて、押し込むようにすると手首のあたりがちょうど窄まっており、ぴったりと密着してくる。
 手の先は手刀の形に固定され、細かな作業は出来なくなってしまった。両手を使えば、マグカップに注いだコーヒーくらいは飲めるかもしれないけど。
 もう片方のグローブは自分では身に付けられないので、従業員さんに手伝ってもらって身に付ける。手の先が両方封じられてしまった。
「次は、こちらです」
 そういって彼女が出してきたのは、あの金属の板のようなものだった。流線型の形はどこにフィットするのか、はっきりとわかる。
 そして、あのロビーではわからなかった、身体に触れる部分の構造は、おおむね私の想像通りだった。想像通りでないとすれば。
「お、大きくないですか……?」
 身体の内部に差し込むと思われる突起物が、明らかに外国人のそれに等しいサイズの大きさと太さをしていたことだろうか。
 私は拡張プレイをしているわけではないので、そんな太く大きなものが入るのか非常に疑問だった。
「ご安心ください。こちら少々特殊な素材で出来ておりまして……」
 彼女は外に面する側の、板の流線型の部分を軽く指先で弾く。すると、どういう仕組みなのか、太く大きなものだった突起物がみるみるうちに小さく細くなり、私でも楽々入るであろう小さく細いものに変わった。
「このように小さくして挿入することが出来るのです。挿入後は、そこにある何らかの液体を吸収し、大きくなっていきます。一定の圧力がかかればそれ以上膨らまなくなりますので、ご安心ください」
 ただのゴム製の張り子かと思えば、とんでもないハイテク道具らしい。突起物の数からなんとなく理解していたけど、どうやら吸収する液体はなんでもいいみたいだ。腸内に関しては、先に浣腸までしてすっきりさせているから問題ない。
「失礼します」
 従業員さんは私の前に跪き、その突起物のある金属の板を私の股間に添える。慎重に突起物と穴の位置を合わせ、ゆっくりと挿入していってくれた。あらかじめローションか何かを馴染ませていたのか、あるいは私の方の準備が万全だったからか、あっさりと突起物が私の中へと入ってくる。
「ふぁ……っ、んっ」
 柔らかくも確かな存在感を持つものが私の中に差し込まれる。従業員さんは手を離しているのに、私の締め付ける力を利用して突起物は自然と私の中に入り込んできた。
「うひゃぁっ!」
 思わず飛び上がったけど、その勢いでさらに奥まで突起物が入り込んで来た。あまりの刺激の強さに伸びきった足が震える。
 気付けば、金属製の板が私の股間を覆っていた。傍から見ると金属の前張りをされているだけのように見えるけど、私自身の身体はみっちりと入り込まれている感覚があって、正直、気持ち良かった。
「ふぅ、ふぅ……っ」
「落ちつかれましたら、こちらを着けさせていただきます」
 そう言って従業員さんが示したのは、丸い金属の輪っかだった。金色の小さなベルがついていて、ふたつでワンセットだ。私が頼んだオプションである。
「おね、がいします……」
 私は恥ずかしい思いを堪えつつ、両腕を後ろに回し、胸を反らして彼女に身体を晒した。その輪っかを取りつける場所については、簡単に予想が付くだろう。
 それは、乳首に取りつけるものだった。
 乳輪を含め、ピンク色の綺麗さに密かな自信を持っている私の乳首は、ここまでの作業ですでにしっかりと硬くなっていた。
 従業員さんがそんな私の乳首を挟むように、金属の輪っかを装着する。
「ひぅっ……っ!」
 鋭い快感が脳天まで貫いた。悲鳴をあげそうになるのを、喉元で抑え込んだ。私のぷっくり膨らんだ乳首を、金属の輪っかが挟み込んでいた。絶妙な力加減で保持されていて、穴をあけているわけでもないのに、そう簡単には取れそうにない。
 少なくとも箱詰め状態の私が暴れた程度の動きでは取れそうになかった。
 もう片方の乳首も輪っかで挟んでもらい、装飾は完了。身もだえする度にチリンチリンとベルが鳴る。
(クリスマスっぽいから……と思ってお願いしたけど……これ、かなり恥ずかしい……!)
 股間のそれのように乳首を彩る案もあったんだけど、なんとなく股間とは別の方式で彩りたいなんて思ったのが良くなかったかも知れない。
 彼以外に見せる気はないけど、あのロビーで箱詰めになっていた人みたいに、他人に見られたら恥ずかしくて仕方ないだろう。
 乳首への刺激が落ちついたところで、次は首輪だった。赤い皮で出来たそれは、犬の首輪というよりは、チョーカーの方が近いかも知れない。クリスマスを意識したデザインなのは間違いないのだけど。しっかりと首にフィットして、彩りを加える。
 さらに拘束具はあって、鼻下から顎までをしっかり覆うタイプの口枷が嵌められる。口は開いた状態で、噛みしめて固定するタイプのものだ。中央は丸い円筒形に穴が空くようになっていて、栓を抜けばいわゆるフェラチオも出来るようになっている。
 今回の場合はその栓にメッセージカードが丸めて納めてあって、到着後彼に引き出してもらって私からのメッセージを読んでもらうつもりだった。
 あと、輸送中不意に声をあげられないようにするための処置でもある。
「最後に、こちらを被っていただきまして……うん。とても素敵なクリスマスプレゼントになりましたよ」
 可愛らしいサンタ帽を被せてもらって、『中身』の下ごしらえは完了。
 いよいよ、箱に詰められる時だ。
 私は身体が特別柔らかいわけではないので、ロビーにいた人のような体勢は取れない。
 だから、あまり無理のないような体勢をお願いしていた。
 まず、用意された箱の中に入り、底にあぐらを搔いて座る。箱の大きさはかなりギリギリで、少し膝が浮いてしまうくらいだった。両手は胸の前で交差するようにして、自分の肩を抱くような形にする。
 そして、背中を丸め、膝と膝の間に身体を納めるように縮こまる。
「蓋を閉めますね」
 背中からうなじのあたりを圧迫されるように抑え付けられ、少し息が苦しいというくらいで固定された。ぎゅっと、身体を縮ませてじっとしていると、自分の鼓動しか聞こえない、いつもの箱詰めの空間が完成した。
 私は息を浅く速く繰り返しつつ、しばし箱詰めの快感を堪能する。あそこが濡れ、それを吸収した突起が身体の中で少し大きくなったことを感じる。
 喜んでくれるであろう彼の顔を想像しながら、彼が箱を開けたときには笑顔で顔をあげようと心に決めつつ、幸せな気持ちで瞼を閉じた。

 その後、『クリスマスプレゼント』を受け取った彼がどれほど喜び、そして二人がどれほど愛し合ったかは――語るまでもないだろう。


箱詰倶楽部の聖夜詰 おわり

2018年、ご愛読ありがとうございました!

来年、2019年はより多くの執筆活動に尽力しますよ~^w^
各ジャンルで途中になってる作品は多いので……ひとつひとつがんばります!

それでは皆様、良いお年を!
また来年お会いしましょう!
[ 2018/12/31 23:36 ] 連絡 | TB(0) | CM(0)

ヒトイヌフェスティバル


「うわぁ……なにこれ……」
 思わず、そんな声が出た。
 目の前にはとても広い公園。
 茂みなどが少なく、開けた運動場。
 そこにいる、ヒト、ヒト、ヒト。テレビで見るような人混みに比べれば、人数自体は遠く及ばないにしても、どちらの光景に圧倒されるかといえば、断然いま目の前に広がっている光景だと百人中百人が言うに違いない。
 それくらい、目の前に広がっている光景は圧巻だった。
 なぜなら運動場に溢れんばかりに揃ったヒトたち。

 そのほとんどが、ヒトイヌなのだから。

 身体をラバースーツに彩られ、四肢を拘束され、マスクを被せられ、口枷を噛まされたヒトイヌたち。
 ヒトイヌが感情を表現するために体内に挿入されている尻尾が、それぞれの感情を反映し、揺れている。
 複数同時にいるだけでも珍しいだろうに、目の前の広場には数十を越えるヒトイヌが集まっていた。ラバースーツの黒と、白い素肌の対比が目に眩しい。ヒトイヌは個体ごとに身に付けている装備が微妙に違うため、それぞれを見比べるだけでも楽しかった。
「……ほんと、すごい……っとと。ごめんよ」
 移動しようとして、危うく足下にいたヒトイヌを蹴っ飛ばすところだった。
 当然ヒトイヌも避けてくれるのだが、視界や動きがかなり制限されているから、普通に動けるこちらが注意しなければならない。
 うっかり不注意で出禁になったりしたら大変だ。
 気をつけて移動しながら、彼は改めてこの「ヒトイヌ公園」の特異性に圧倒されていた。


 十一月十一日。
 わんわんわんわん、で犬の日とされているその日。
 犬と聞いたら思わず反応せずにはいられないのであろう、ヒトイヌ公園でもイベントが開催されていた。
 題して「ヒトイヌフェスティバル」。
 普段この公園ではヒトイヌからも入園料や施設利用料を取っているが、この日は大盤振る舞いの無料開放。すべての施設が自由に使える。
 さらに、事前に予約し、個別に相談することで、参加のための協力までしてくれる。具体的には送迎手段の確保やアリバイの作成。
 住まいが遠くの人にはなるべく長く楽しめるように前日からの宿泊までをサポート。噂では全ヒトイヌ会員の九十九パーセントが参加しているとかいないとか。
 とんでもない無償奉仕にもほどがあるが、その甲斐あって、いまだかつてない規模のヒトイヌ愛好家が集まっていた。以前、この公園ではヒトイヌ拘束脱出ゲームというイベントが開かれていたが、その時ですら比べものにならない。
 数十のヒトイヌが思い思いに過ごしている様は、この趣味嗜好を持つものにとっては天国か極楽か。ヒトイヌとなっている者も、仲間が人よりもたくさんいる特殊な環境ゆえか、いつもよりリラックスしているように見えた。
 現在、ヒトイヌ入場に制限はないが、人の入場には制限がかかっている。
 普段の公園はヒトイヌ愛好家の中にも、ヒトイヌになりたい者とヒトイヌを愛でたい人がいて、ヒトイヌよりも人の方が多いのが普通だ。
 ヒトイヌに「同時に接触できるのはふたりまで」、「一日に設定された人数以上の接触は禁じられる」といった制限があるため、ヒトイヌが人に囲まれて困ることはないものの、ヒトイヌになりたいという者より人の方が多いのは自然なことだろう。
 だがいまは愛でる側の入場が制限されているため、ヒトイヌの方が圧倒的に多くなっている。
 ちなみに制限にかかって公園に入れなかった者に対しては、公園の外に特設会場が用意されていた。
 そこでは、公園内の様子を自由にモニタリングすることができたり、限定映像の入ったディスクやグッズなどを販売会でゲットしていたり、高名な調教師の座談会が開催されていたりと、そちらはそちらで盛り上がっていた。
 どう考えても赤字ではあろうが、それを少しでも緩和するための手段も取っているあたり、なんだかんだちゃっかりしているのである。


 広場にいるヒトイヌは、接触オーケーのヒトイヌたちだ。
 そのためか、膝を突いて触ろうとすると、一斉に寄ってきて触って欲しいと求めてくる。よく動物園などの触れ合い広場などで、餌を持った客に動物が殺到する場合があるが、まさにその光景と同じだった。
 その集まってくるのがヒトイヌという存在なのだから、愛好家にはとんでもなく贅沢で、かつ信じがたい光景である。
「うわ……っ、ははっ、なんか、もう、最高!」
 どのヒトイヌから触ろうか、などという実に贅沢な悩みを覚え、思わず笑み崩れながら彼が手を伸ばしてヒトイヌたちの頭や背中を撫でる。
「くぅん……っ」
「わふっ、わふっ」
 気持ちよさそうに目を細めたり、くすぐったそうに身を捩ったり。
 ヒトイヌの中でも人懐っこい性格の子たちが、彼に殺到していた。ちなみに、これは普段からそうだが、公園内に入ることの出来る人は選ばれた存在だけである。ヒトイヌ拘束され、抵抗出来ない者たちがいる場所に、下手な者を入れるわけにはいかないのだから、選別は当然だ。
 重んじられるのは性格や性質。怒りっぽかったり不機嫌になりがちだったりする精神的に不安定な者はまず真っ先に排除される。自分のためではなく、ヒトイヌが快適に過ごせるように言われなくても努力する者は許可がされやすい。
 彼もそういう人間のため、なるべくたくさんのヒトイヌを満足させてあげるべく、順番に集まったヒトイヌたちに構ってあげていた。
 そして、そういったきめ細かな気配りが見られると、当然ヒトイヌたちもそれを察し、彼と遊びたがる。
 結果、彼には八頭ものヒトイヌが付いて歩いていた。常ならばあり得ない光景に、彼も嬉しくなってしまう。
「よし……それじゃあ、遊ぼうか!」
 そういって彼が取り出したのは、色とりどりのボールだ。それをヒトイヌ一頭一頭に咥えさせていく。
 今回、広場に集まったヒトイヌたちは、口枷を共通の機能を持つものに揃えられていた。形や方式は細かく違うこともあるが、機能だけは共通している。その共通した機能のひとつが、ボールなどを咥えて運ぶことの出来る機能だ。
「よし、皆自分の咥えたボールの色は覚えておいてねー。それで呼ぶから」
 ヒトイヌごとの名前はわからないため、便宜上の呼び名代わりというわけだ。
「赤色の! 取っておいで!」
 呼びかけながらボールを受け取り、軽く放る。それに向かっていくヒトイヌ。動き方や癖を観察し、どの程度の距離に投げればいいかを見極めていく。
 全員にほどよい運動をさせるための気配りもまた愛でる者の義務なのだ。
 そして、全員にほどよく汗を搔かせたあと、彼は飲み物を準備した。
「水分補給もちゃんとしないとね。一頭ずつ来てー」
 水分補給用のボトルは先端が尖っていて、口枷に差し込んで呑ませるようになっている。
 まるで赤ん坊にミルクを与えるような姿にも見えるが、彼はいたって真剣だ。ヒトイヌたちも恥ずかしそうにしながらも、一頭ずつ水を飲ませてもらう。
 似たような光景が広場のいたるところで繰り広げられていた。
 遊び方に工夫する者、ブラッシングをするように全身をくまなく撫でてあげる者、積極的に性的な快感を与えるようにしている者など、それぞれの愛で方でヒトイヌを愛で、ヒトイヌ側が求める愛でられ方をされにいく。
 ヒトイヌ愛好家たちの楽園がそこに現出していた。


 普段からフレンドリーなヒトイヌも多いけど、ヒトイヌの中には当然特定のパートナーとのみ交流したいという者もいる。
 むしろ、普段はそちらが主流だった。特定の相手以外の接触は不可にして、パートナーとプレイを楽しむ。
 ただ、大規模なイベントということで、今日だけ誰とでも接触可能としている人が多いみたい。
 まあ、完全無料解放の条件がそれだから、大半はそれが目当てなんだろうけど。
(乱暴されたりはしないにしても……みんな、よく他人からの接触を許可するわよね……)
 更衣室のモニターに映し出された公園内の様子を見ながら、私はひとつため息を吐いた。
「どうかなさいましたか? 何かご不安が……?」
 そのため息を聞かれていたらしい。
「っと、すみません。なんでもないです」
 そう慌てて言いつくろう。
「ちゃっちゃと着ちゃいますね」
 私はいまから、イベント中の公園にヒトイヌとして入ろうとしていた。
 ヒトイヌ拘束を楽しみたい私にとって、この公園はとても都合がいい。普段は誰からの接触も禁止して、拘束を存分に楽しんでいる。
 接触や記録を完全に拒否する場合(映像などに映り込んだ場合は加工して消してくれる)、ヒトイヌ利用だとしても、公園の利用料は金額的に決して安くは無くなるのだけど、ここでしか出来ない体験が出来るのだから妥当だと考えている。
 今回はイベントということで、元々利用料はかなり安い。
 完全許可ではないコースを選択したから、無料にはならなかったけど、それでも破格の安さでヒトイヌ拘束をしてもらえるということで、利用しに来たのだった。
(まずは……と)
 全裸になった私は、早速ラバースーツに手足を通していった。ツナギのように全身一体のそのラバースーツは、私の身体のラインをいやらしく強調し、また全身を余すところなく締め付けてくる。
 潤滑油なのか汗なのかよくわからない物が身体とラバースーツの摩擦を弱め、キュッキュッと小気味のいい音を立てて、私の身体にまとわりついてくれていた。
(うん、この感覚……やっぱりいいラバーは感触が違うわねぇ)
 自前のラバースーツは持っているのだけど、比較的安いものだからかこれほどいい着心地はしない。家でこっそり遊ぶ用としてはそこそこ満足だけど、長時間身に付けるのにはやはり公園のラバースーツが一番だ。
 皺が出来ないように慎重に着ていった結果、スーツがぴっちぴちになって、身体の膨らみがより強調され、立っているだけでも恥ずかしい。
 他のヒトイヌの中には四肢の拘束だけでヒトイヌとなる猛者もいたけど、私はなるべく素肌を露出することのない格好を選んでいた。
 公園内を動き回る際、それが一番安全だと思っているからだ。実際は素肌で転がり回っても問題ないほどに公園内は整備されているのだけど。
(考えてみれば、その整備費だけでもすごい額でしょうに、こんな無料奉仕みたいなイベントをやってて大丈夫なのかしら……?)
 一利用者に過ぎない私が言っても仕方ないことだとは思うけど、経営は大丈夫なのだろうか。そんな疑問はさておいて。
 私は次に用意された道具を手に取った。それは、細いアナルプラグと連動した尻尾。
 軽く先端を唾液で濡らし、ちょっとがに股になりつつそれをお尻の穴へと差し込んでいく。係員とはいえ人の前でそういうことをやるのは死ぬほど恥ずかしいけど、かといって自分の性格的に人に任せることも出来ないのだから仕方ない。
 異物がお尻に入って来て、思わず括約筋で締め付けると、お腹の中で傘が開いたような間隔があった。
「う――ひぃっ!」
 わかっていたのに、突き上げるような衝撃を感じて変な声が出てしまった。死にたい。
 私は真っ赤になっているであろう顔をうつむけて隠しつつ、手早く次の道具に移った。
 どうしようか迷っていたけど、結局選んでしまった張り子付きラバーパンツ。それを普通のパンツを履くように足に通し、前の穴に張り子が収まるように引き上げていく。
 あらかじめ塗られていたオイルと、自分自身の分泌した液が潤滑油となり、あっさりと張り子は私の中に入り込んできた。いまは指一本くらいの細いものだというのもあるのだろうけど。
 ラバーパンツは肛門に干渉しないようになっている。しっかり腰まで引き揚げ、位置を調整した後、係員にお願いして特殊なスプレーをかけてもらった。それによってラバーパンツはラバースーツに癒着し、再び薬を使わない限り脱げなくなった。いわば簡易的な貞操帯というわけだ。
 安全のことだけ考えれば金属の貞操帯の方がいいのだろうけど、なるべくごつごつしたものを取りつけたくない私は、この形状の貞操帯を愛用している。
 もし万が一不埒なことを考えている利用者に襲われたとしても、警備員が駆けつけるまでに犯されたりすることはこれでまずない。
「よし……次ね」
 ドキドキと心臓が跳ねる。次に私が手に取ったのはバイトギャグ。完全に言葉を奪うことを目的とした無骨な口枷だ。この公園専用の加工として、咥える部分と連動した、犬の顎のフォルムが作られている。口枷をかみしめたり緩めたりすることで、その顎の部分が開閉し、物を咥えることができる。水を飲むための機能もあって、人間としての言葉を奪いつつも、ヒトイヌとして色々出来るようにする、という理想と実用性に富んだものだった。
 それを大口を開けて咥え、頭の後ろでベルトを固定する。ベルトは横だけではなく、縦ににも走り、私の頭部をぎゅっと締め付けていた。
 さらにそこにイヤーマフのついた犬耳を装着。スピーカーとマイクがセットになったこの犬耳の効果で、まるで本当に頭の上側にある犬耳から音が聞こえているような、臨場感のある状態を実現している。
 なにより、このイヤーマフは結構可愛い。横の部分にヒトイヌ公園のシンボルである、犬の肉球を表現したマークがプリントされている。私は片方にマークをオリジナルのシンボルに変えてもらっていた。といってもあんまりあからさまなのは恥ずかしいので、肉球の一部をハート型にしてもらっているだけだけど。
 ともあれ、これで自分で出来る大まかな準備は終了。
 ちらりと係員の方を見ると、係員は心得ているとばかりに頷いた。
「それでは、手足の拘束をさせていただきます。四つん這いになってください」
 私は言われた通り、四つん這いになった。手足の拘束ばかりは、人にやってもらうしかない。
 腕と足を折り曲げた状態で、袋状の拘束具に差し入れる。肘と膝に当たる部分にはちゃんとクッションがあり、比較的長時間四つん這いで動き回っても大丈夫なようになっていた。
 いくつもあるベルトを引き絞ってもらえば、私の四肢は折り曲げたまま、四つん這いで動くことしかできなくなった。
 この自由をほぼ剥奪された状態が心地よい。
 最後に赤いプレートのついた首輪を巻いてもらい、準備は完了。
「それでは参りましょう」
「ウゥー」
 更衣室から公園に出るまでの短い間、係員の彼女にリードを引いてもらう。
 人間からヒトイヌへ。短い時間でも人にリードを引いてもらうことで、その意識の切り替えがスムーズに行える。
 扉の前まで来ると、跪いた係員が私の首輪からリードを外してくれた。
「それでは、当公園をお楽しみくださいませ」
「ウゥッ」
 私はお礼代わりに唸ると、開かれた扉から公園へと繰り出した。
 公園内には、たくさんの人が――いえ、ヒトイヌがいた。
(うわぁ……すごいわね……)
 映像を見てわかっていたつもりだったけど、実際公園に入って見ると想像以上の数だ。
 広場はまだ遠いのに、多数のヒトイヌがそこら中をうろついている。

 追いかけっこをしているのか、道を走っているヒトイヌたち。
 芝生の中で、あられもない格好をしてくつろいでいるヒトイヌたち。
 身体や鼻先を擦りつけ合い、押し合い、じゃれ合って遊んでいるヒトイヌたち。
 茂みの影で、なにやら身体を重ねてどうやら交尾をしているらしいヒトイヌたち。
 歩いていて喉が渇いたのか、休憩所で水を飲んで一服しているらしいヒトイヌたち。

 とにかく、色んなヒトイヌが色んな形で自由に過ごしていた。


つづく

10月に書きすすめようとしている作品たち(※あくまで備忘録です)

白日陰影で途中になっている作品の一覧です。

・ヒトイヌ拘束脱出ゲーム(それぞれの目的地に到着するふたり。そこで待ち受けている鍵を得るためのミニゲームとは……)
[ 2018/10/01 18:43 ] 連絡 | TB(0) | CM(0)

肛門拘束(仮) おわり

 肛門と秘部を同時に責められ、ただでさえふらふらしている私に、彼は容赦なく追い打ちを掛けてきた。
「ほら、あともうちょっとだ。頑張れ」
 そう言いながら、あろうことか私の背後に回り、私を前に立たせたのだ。
 いままでは彼がある程度視線を遮る盾になってくれていた。だから、私は彼の背中を見て、ただ歩くだけに集中していれば良かった。
 けれど、その彼に前に押し出されると、私を守ってくれるものはなにもいなくなる。
「ひぅ……っ」
 悲鳴をあげそうになって、飲み込む。こんなところでそんな悲鳴をあげたら、彼もフォローし切れなくなる。警察を呼ばれて事情聴取なんか受ける羽目になったら一大事だ。
 だから、私はいままでと同じように、できる限り身体を曲げず、反らさずに歩き続けなければならない。
 だけど。
 いままでと違って、すれ違う人たちの視線がみえる。奇妙な格好をしている私を横目で見ていくのがわかる。首輪なんかはすごく目立つだろう。当然、そこから紐が前後に垂れているのもみえているはず。
 ひそひそ話している声が、私を嘲笑している声に聞こえてしまう。
「ん、ぎ……っ!」
 思わず身体を丸めそうになって、アナルフックが肛門を持ち上げた。
 慌てて背筋を伸ばすと、今度は前の穴が引っぱられる。前の穴に刺さっているバイブは震動しているから、その刺激は強烈だった。
 あまりの刺激に目の前に星が飛ぶ。気持ちいいのか痛いのか、よくわからなかった。
「あっ……う……!」
 刺激が強烈すぎて、私は思わずその場に立ち止まり、身体を震わせる。
 生暖かい感触が、私の股間に広がった。ざわめきや人の視線がさらに強くなったように錯覚する。
 失禁、という言葉が人ごとのように頭の中を過ぎた。
「げっ」
 彼がそんな声を上げるのが聞こえた。
 少し慌てた様子で私の隣に並び、首に繋げてあった紐を外す。前の方だけ。それだけでずいぶん楽にはなった。バイブの震動も止まっている。
 でも生暖かい感触は止まらず、太股や膝に広がり、靴下と靴が気持ち悪いくらいに濡れてしまった。
 呆然としている私の肩を抱き、彼は商店街の入口と急いだ。ざわめきが遠ざかる。
 商店街を脱出すると、彼は予め置いてあった車の助手席に私を座らせる――前に、席に大きなタオルを広げて敷いた。その上に私は腰を下ろす。ぐちゃり、と気持ち悪い感触が股間から広がった。
「あーあ……すまん。ちょっと刺激が強すぎたか……」
 彼は運転席に乗り込み、急いで車を発進させた。
 しばらく無言のまま車は移動し、商店街から十分離れた位置のコンビニで止まる。
「大丈夫か?」
 彼はそう言いながら私の両手を自由にしてくれる。
 そこに至って、私は漸く自分の状況に、思考を追いつかせることができた。
「わたし……あ、あんなところで……っ」
 顔から火が出るとはこういうことを言うのだと思う。
「漏らしちまったなぁ」
「ば、ばかっ!!」
 茶化すように言う彼の肩を思いっきり叩く。「いってぇ!」と彼は悲鳴をあげたが、それくらいは甘んじて受けてもらおう。
「な、なな、なんてことしてくれるのよ……!」
 私は顔を両手で隠して呻く。恥ずかしすぎて死にそうだった。
 でも彼はにやにやと笑ったままだ。
「いやー、ちょっとやりすぎたなぁ。悪い悪い」
「……絶対悪いって思ってないでしょ」
 ジト目で彼を睨み付けると、案の定良い笑顔を浮かべていた。
「めっちゃエロかったぜ? 正直、気持ちよかっただろ?」
「~~~っ! 知らないっ! 早く着替えたいから、車出してよ!」
 そっぽを向きつつ、そう叫ぶ。
 彼は笑いながら車を発進させた。
 今回も大変な目に遭わされてしまった。まあ、まだ現在進行形でアナルフックとバイブが入ったままなんだけど。
「しかし、イクと同時に漏らすとは思ってなかったな……次は大人用おむつでも上から履いてやるか?」
「二度とやらないから!」
 私はそう強く拒絶の声をあげておく。彼は笑うだけで何も言わなかった。
 そうして、その日のプレイは終わった。

 ただ、私が再びその日と同じような格好で――あるいはもっと厳しい格好で――街を歩くのは、それほど遠い日の話ではなかった。
 そう、私は――拘束されながら露出することに、嵌まってしまったのだ。

~肛門拘束 おわり~

肛門拘束(仮) 4

 前に屈んでも、後ろに反らしても、どちらかの穴が引っ張られる。
 秘部に入れられた方はゴム紐のせいで普通にしていても引っ張られてしまい、ただじっとしていることも許されない。
「よし、準備完了。いくぞ」
 肘の辺りを掴まれ、私は再び商店街を歩かされた。さっきよりもキツい。後ろだけなら平気になっていたのに。
 ふらつきながらも、なんとか耐えて歩く。体幹をまっすぐに保つことを意識して、必死に歩いた。
(うぅ……っ! ダメっ、前の奴が食い込んで来て……っ)
 ゴム紐の伸縮性自体はそんなに強くないはずだった。けれど、歩く度に中を満たしているそれの感触が走って、頭を震わせてくる。
 そしてそのことを意識してしまうと、つい秘部の中を締めてしまい、食い込んでいるそのフックの形をはっきり自覚してしまう。
 そしてそれと連動して、アナルの方にも力が入るので、慣れたはずのそっちの感触もさらに強く感じてしまっていた。
 それが嫌で前屈みになろうとすると後ろが引っぱられ、思わず仰け反るとまた前の方が食い込んでくる。
 前後の穴に与えられる感触に翻弄されつつ、顔や態度に出さないように懸命に歩く。そんな私の様子を、彼は楽しそうに見ていた。
「気持ちいいか?」
 こっそりと耳打ちするように聞いてくる。
「むっ、無理矢理穴を広げられているのよ? 気持ちいいと思う?」
 思わず憎まれ口を叩いた私に対し、彼は。
「そっか、じゃあ気持ちよくしてやるよ」
 そんな不吉なことを言った。
 その手には、ピンク色の、リモコンらしきものが。
「ま、待って……っ」
 それが何のリモコンかわからなくても、私は咄嗟に止めていた。それで彼が止めてくれることなんてないとわかっていたけど、言わずにはいられなかった。
 案の定、彼は応える代わりにそのリモコンのスイッチを入れる。
 それと同時に、衝撃が走った。前に挿し込まれたフック状の道具は、ただの張り子じゃなくて、遠隔操作できるバイブ機能付きだった。
「んくっ、ううっ……!!」
 思わずあがりそうになった声を抑えるようとして、思わず身体を丸めてしまう。
 そうすれば当然、肛門で銜え込んでいたアナルフックが引かれ、肛門が広げられる異様な感覚が走った。
「んぎい……っ」
「ほらほら、歩かないと不審に思われるぜ?」
 真横に立っている彼が、私を急かして促し、歩かせる。覚束ない足取りで、前に進むことを強制される。震動は止めてくれない。あまりに強烈な感覚に、いまにも気を失ってしまいそうだった。
 こんな普通の人たちもいっぱい周りにいる中で、秘部と肛門をフックに抉られながら、両手の自由もなく、震動による快感を与えられている。歩き方も不自然になっているからか、時折私の方を見て怪訝な顔をする人もいた。こそこそ内緒話をしているように感じるのは、自意識過剰だろうか。気づかれているのかもしれないし、そうでないのかもしれない。
 そんなシチュエーションの異常さに、かえって興奮してしまうのだから、私も彼のことを変態とは言えなかった。

つづく
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