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白日陰影

箱詰系、拘束系の18禁小説を書いています。関連の同人・版権作品のレビューも書きます。18歳以下の閲覧禁止。

軟体薬 3


 後ろに回そうとした手が掴まれた時点で、嫌な予感しかしなかった。
「ほい、っとな」
 案の定、麗子は掴んだ私の腕を捻り、手のひらを外側に向けるようにしたかと思えば。
 さらに捻りを加えられ、右の手のひらが左の頬に触れるような形に持って来られた。
 普通なら絶対有り得ないことに、ただでさえ脚の感覚で混乱している頭がさらに混乱する。
 良く友達同士の悪ふざけで、背後に忍び寄ったあと「だーれだ」と良いながら手のひらで目を塞ぐ――なんてものがあるけど、それをセルフでやっているようなものだ。
 しかも、親指が上を向いていなくて、下を向いている形だ。友達に悪ふざけで目隠しをするときでも、手はそんな方向にはならないだろう。
 わけがわからない。もう自分の身体がどうなっているのかわからない。頭が混乱しきって、身体をどう動かせばいいかもわからなくなってしまった。
 そんな私の混乱に乗じて、麗子はもう片方の手も、同じように捻りに捻って、手のひらが私の顔の横に来るようにする。
 全く動けなくなった私を、麗子は抱え上げ、上下を反転させてきた。私は仰向けで天井を見上げる体勢になる。
「とりあえずオッケー。フージーちゃん。自分の身体がどうなってるか、見てみる?」
 そういって、麗子はスマホを取りだしてカメラで私の姿を撮影する。そしてスマホの画面を私に向けてきた。
 見るのも怖いけど、見ないのはもっと怖い。私は恐る恐る、麗子のスマホに目を向けた。

 画面の中の私の身体は――綺麗に、長方形に折り畳まれていた。

 手足が曲がっちゃ行けない方向に曲がっていて、軟体薬の影響であるとわかっている私でも正直気持ち悪い。
 特に気持ち悪いのは、顔の横に来ている手だ。いまも視界の端にちらちら映っているけど、それが自分の手だということが信じられない。
 指先は自分の意思で辛うじて動かせるものだから、それがかえって余計に気持ちが悪い原因になっていた。
 呆然とその映像を見詰めていた私は、麗子がこっそり何かの道具を手にしているのに気付くのが遅れた。
「フージーちゃん。あーん」
 だから、そう声をかけられた時、言われるままに口を開けてしまった。
 開いた口に、柔らかなボール状のものが押し込まれる。
「ンンッ!?」
 臭いと味から、それがゴムボールだということはわかった。以前使ったことのあるプレイ用の道具だ。口内を満たしてしまうために、満足に喋ることも出来なくなる。
 そんなものをいきなり押し込んでくるなんて、何を考えているのか。
「よしよし、素直でよろしい。……そんでもって、と」
 麗子は私の両手を掴み、指と指を絡めるように手を握らせる。
 普段ならなんていうことはないことだけど、いまの私の腕の曲がり方と位置関係のせいで、自然とその組んだ両手に口を抑え付けるような力が働いた。
 押しこまれたゴムボールを吐き出せないよう、自分で抑え付けるような形になってしまう。組まされた指を解こうにも、身体の状態に混乱した頭では、がっちり組んでしまった指を外すのも難しい。
「これでも十分だろうけど、さらにさらに~。髪ゴムを使って、と」
 私に残されていた最後の自由だった親指同士を、喉の辺りで重ねるようにして、髪ゴムで纏めて縛る麗子。
 自分の身体自体が、私の身体の自由を奪う拘束具として、余すことなく活用されていた。
「これがほんとの自縄自縛……ってね」
 麗子はそう得意げに言う。
 私を私で完全に拘束してみせたのだ。

つづく
[ 2019/08/03 13:44 ] 小説・短編 軟体化薬 | TB(0) | CM(0)

軟体薬 2


 その時の感覚は、なんといえばいいのかわからない。
 脚が向いてはいけない方向を向いているのに、痛みはなく。
 違和感だけが私が感じられる全てだった。
「えっ、えっ、ちょっと、待って、なに、してるの、麗子」
 バクバク、と心臓の鼓動が鳴り響く。
 鼓動があまりにも激しくて、途切れ途切れにしか喋れなかった。
「軟体薬の効果を手っ取り早く実感してもらおうと思ってね」
 私の後ろから、飄々とした麗子の声が聞こえてくる。ちょっと恨めしい。
 麗子の両手が、私の脚を纏めて握っているのがわかる。それだけなら特に気にすることもないことだけど、身体の向きと脚の向いている方向が余りにも違い過ぎて、頭が混乱していた。
 だって、私は普通に座って、前を向いているのに、両足の感覚が後ろにあって、爪先が天井を向いているのがわかるのだ。
 軟体芸を得意とする人であっても、膝をまっすぐ伸ばしたまま、百八十度どころか三百六十度開くことなんて出来るのだろうか。
 私が知らないだけで、出来る人は出来るのかもしれない。
 けど、少なくとも、身体が硬い私に出来ていい開脚の角度でないことは、確かだった。
 しかも、麗子の暴挙はそれだけでは終わらなくて。
「顔打たないように気をつけてー。いくよー」
 両足を合わせたまま、いきなり足首を持ち上げた。
 そうなれば私の身体は当然前に倒れ――慌てて両手を目の前の床につき、顔面を打つのは免れた。
「ひゃっ! あ、危ないでしょ!」
「ごめんごめん。でもまだここからだぞー」
 逆エビ反り、という体勢がある。まっすぐに伸ばした身体を、前屈方向じゃなく、背面方向に折り曲げる体勢だ。
 プロレスでいう『逆エビ固め』の方がわかりやすいかもしれんあい。
 その形に、麗子は私の身体を折り曲げているのだけど――問題は、その脚の向きだ。
 普通、逆エビ反りの形になるとき、脚の先は天井を向くはずなのに、いまの私の身体だと、爪先が私の方を向いている。
 普通の人が同じ体勢を取ろうとしたら、股関節を脱臼させないと無理だろう。
 そんなあり得ない形状に、私の身体はなっていた。
 そんなあり得ない形なのに、私の頭は正常に脚の感覚を伝えてきて、痛みはまったくといっていいほどない。
 逆にそれが恐ろしかった。
「ちょ、待って、麗子! これ、怖い! 離して!」
 暴れたら本当に股関節が脱臼して仕舞うんじゃないかと思い、暴れることも出来なかった。
 自分の身体の状態が怖くて、ほとんど涙声になる私に対し、麗子は安心させるように囁きかけてきた。
「大丈夫だって。……とりあえずこの状態でキープして……っと」
 いつのまに取りだしたのか、麗子はお弁当箱の蓋を留めるような太くて柔らかいゴムバンドを使って、私の両足首を揃えた状態で固定してしまう。
 麗子が手を離しても、私は脚を動かせなかった。
 奇妙な形に折り曲げられてしまったことで、身体をどう動かしていいのかわからなかったのだ。
 ゴムバンド一つで腰から下の動きを完全に封じられてしまった。
 なんとかそのゴムバンドを外せないかと、まだ自由な手を後ろに回そうとして――手を麗子に掴まれた。

つづく
[ 2019/08/01 23:46 ] 小説・短編 軟体化薬 | TB(0) | CM(0)

軟体薬 1


 身体の柔らかい人が羨ましい。
 それに深い意味はなく、何気なく見ていたテレビの体操選手の演技を見て、自分には絶対出来ないことだから呟いただけだった。
 だけど、同居人にはそれが伝わらなかったようで。
「誰でも軟体になれる薬を開発したぞ!」
 ある日そんなことを言いながら帰ってきたその人に冷めた目を向けてしまった。
「はぁ……良かったわね」
「あっ、信じてないな! 本当なんだから! 見てなさい!」
 そう言って彼女はその場で突然身を反らし――反らしすぎて腰が折れたかと思った。
 彼女の身体は後ろ向きに半分に折れたように折れ曲がり、股の間に頭が来るほどに変形していた。
 心臓が飛び出るくらい驚いた私を、彼女は自分の股の間から、にこにことした笑顔で見ている。
「ふふふ……凄いだろう。これくらいは朝飯前だ!」
 コントーションという軟体芸があることは知っているけど、彼女がやっているのはまさにそれだ。彼女は特に身体の硬い方ではなかったと記憶しているけど、かといってここまで曲がるというわけでもない。
 軟体薬の効果を確かに示していた。
 さらに彼女はその状態から両足を曲げ、胸を床に着けたかと思うと、脚を正座の形に折り畳み――世にも奇妙な三角形の生き物になった。両手が自由に動いているだけに奇妙さが増している。
「さらに、こんなことも出来るぞ!」
 もうお腹いっぱいだというのに、彼女はますます得意げにそういって、両手を床に着いたかと思うと。
 腕の力で身体を持ち上げ、その状態のまま動いて見せるという荒技まで披露してくれた。 だけど、そんな状態で動く生き物なんて、見た目的には恐ろしげなクリーチャー以外の何者でもなく。
 私は近所中に響き渡るような大声で、悲鳴をあげてしまったのだった。


 ひとしきり大騒ぎしてから、私は彼女と一緒にリビングのソファに腰掛けていた。
「ごめんってば。あんなに驚くとは思ってなかったというか……あそこまで悲鳴をあげるとは思わなかったんだ」
「……誰だって悲鳴あげるわよ、あんなのみたら」
 ある意味、ゴキブリより気持ち悪くて怖かった。
 そこまでは彼女に申し訳ないから、さすがに言わないけども。
 私は話を逸らすために、机の上に置かれた薬を軽く指で弾く。
「これを飲めば麗子みたいな身体になれるの?」
「うん。時間制限はあるけどね。フージーちゃんやってみたかったんだろ?」
 やってみたかったかといえば、別にやってみたかったわけではないのだけど、彼女が気を利かせて作ってくれたのだし、頭から拒否するのは少し躊躇われた。
「そう、ね……まあ、時間制限があるなら……」
「まずは普段のフージーちゃんがどれくらい身体が硬いか試してみよう! その方が効果が実感出来ていいだろうし」
「……ほんとに身体硬いからね。笑わないでよ」
 ある程度は知られているとはいえ、改めて軟体度合いを見るとなれば話は違ってくる。
 麗子は笑わないと言ってくれたけど、たぶん笑うんだろうなという予測は出来た。
 まずは直立した状態からの前屈。普通の人でも自分の爪先に手が届く程度には曲げられるはずだけど、私は向こうずねあたりが精一杯だった。
 さすがにそこまで下ろせないのは想定外だったのか、私の横に立った彼女が背中に手を置いてきた。
「もっと下ろせないのかい? こう、上から押したら……」
「いたたたた! やめて!」
 もちろん無理だった。人の手を借りたら踝くらいまでは下ろせたけど、地面に手は着きそうにもない。
 次に地面にお尻を付けて座った状態で、まっすぐ伸ばした脚を、開けるところまで開いて見る。
 90度を超えた辺りですでに辛く、180度開脚するなんてとても出来ない。股関節辺りが痛くなったので早々に止めてしまった。
「フージーちゃん、こんなに身体硬かったんだなぁ……」
「……言わないで」
 笑われるより、しみじみと言われる方がかえって傷つく。
 改めて自分の身体の硬さを実感して落ち込む私の頭を、麗子が撫でる。
「でも大丈夫! この薬があれば、フージーちゃんの硬い身体もフニャフニャに!」
「ふにゃふにゃって、イカみたいな……そこまで柔らかくなりたくはないけど……」
 言いつつ、私は麗子に渡された薬を思い切って飲んでみた。
 すると、数十秒もしない内になんだか身体が熱くなってくる。
「ねえ、麗子。なんだか身体が熱いんだけど……大丈夫なのよね?」
「うん。大丈夫。ちゃんと臨床実験も済ませてあるものだから」
 本当だろうか。信じるしかないとはいえ、我ながら麗子にちょっと甘すぎるかもしれない。気を逸らす意味で、私は麗子に尋ねてみた。
「それで、どれくらいで効果が出るの?」
「もうすでに効果は出てきてるはずだよ。前屈をやってみてごらん」
 得意げに言う麗子だけど、本当だろうか。
 私は半信半疑のまま、先ほどと同じように前屈を試してみる。
「あ、でも――」
 何か言いかけた麗子の忠告は遅かった。
 前屈運動をした私の身体は、先ほどと違ってあっさり手のひらが地面に着いてしまった。
 結果、勢いが良すぎて手のひらを思いっきり床に強打してしまい、悶絶することになったのだった。
「いったああああ……!」
「ああ、勢いよく行くと危ないって言おうと思ったのに!」
「そういうことは、もっと早く言って……」
 思わぬ負傷をしてしまったけど、軟体薬の効果は明らかだった。
「……なんだか、変な感じ。私の身体じゃないみたい」
 今度はもう少し加減しながら前屈をしてみる。あっさりと手が脚の先に触れ、それどころか床に手のひらをぴったり着けても平気になっていた。
 今度は座って股関節がどれくらい開けるようになったかを確かめる。
 さっきは九十度を超えたらもうしんどかったのに、百八十度を遙かに超えて開くことが出来た。
「うわあ……変な感じ……」
 大開脚というのはこういうことを言うんだろう。
 テレビなどではよく見る体の柔らかさだけど、それが自分の体で実現しているということが信じられなかった。
 などと、しみじみと思っていたら。
「ふふふ……軟体薬の効果はそんなもんじゃないぞ!」
 いつのまにか私の背後に移動していた麗子が、私の左右の足首を左右の手で掴む。
「え、ちょっと待っ――」
 止めようとしたが、時すでに遅く。

 麗子は私の両足首を、強引に私の背後で合わせるように引っ張った。

つづく
[ 2019/07/31 23:03 ] 小説・短編 軟体化薬 | TB(0) | CM(0)

カゴノヒト おわり


 シャーティさんに渡されたラバースーツというものを広げてみる。
 やっぱり人間の首から下の皮を剥いで、黒く染めたみたいな印象だった。そうじゃないとわかるのは、背中の、背骨に沿う形で、不思議な金具?のようなものがあるからだ。
「それはジッパーっていうのよ」
 わたしがその金具を見ていることに気づいて、訊く前にシャーティさんが教えてくれた。
 目隠しに込められた魔法を使って見えているのだということはわかっていても、目隠しをしているシャーティさんに『見られている』というのは、不思議な感覚だった。
 シャーティさんは慣れているのか、わたしの手元に手を伸ばして、ジッパーなる金具の上部を指さす。
「ここに小さな金具が着いているでしょう? これを下に引っ張ってみて」
「こう、ですか……? わっ」
 言われるままに金具を引っ張ってみたら、その金具が下に移動して、ジッパーが半分に割れていった。まるでサナギが羽化する時のように、ラバースーツの背中が開いていく。背中のジッパーは腰のあたりまで下ろせるみたいだった。
「もしかして……この中に?」
「ええ。その開いた中に身体を滑り込ませるの。あ、着ている服は脱いじゃってね」
「は、はい……」
 少し恥ずかしい気もするけど、同性だし、シャーティさんも同じラバースーツを着ているわけだし、大人しく着替えることにした。
 着ていた服を脱いで机の上に置き、下着姿になる。そしてラバースーツを着ようとして、シャーティさんに待ったをかけられた。
「ロバラちゃん、待って。下着も脱いでね」
「えっ!? し、下着もですか!?」
 ラバースーツを裸の上から着ろという。
 わたしは思わずシャーティさんの腰のあたりを見てしまった。ぴっちりしたラバースーツの下に、何か着ていることを示している盛りあがっている跡が見える。
(何か着ているっぽいのに……?)
 その視線に気づかれたのか、シャーティさんは少し苦笑いをする。
「ああ……私がこの下に着ているのは、普通の下着じゃないの。これを着たいなら着てもいいんだけど、これは上級者向けだから……初めての人は、裸の上から直接着て貰う方がいいと思うわ」
 どうやら、シャーティさんの着ているのは普通の下着じゃないようだった。
 どういうものかわからないけど、上級者向けと言われてしまっては、無理にそれを着るのも躊躇われる。
 躊躇われるのだけど、かといって裸になって得体の知れないラバースーツなるものを着る、というのも抵抗があることだった。
 それに、シャーティさんは同性とはいえ、裸を見られるのは正直恥ずかしい。
 そう感じて躊躇していると、シャーティさんが微笑みながら言った。
「恥ずかしがらなくても大丈夫よ。皆同じだし……どうしても恥ずかしくてダメだと思えば、パーティ脱退はいつでも出来るから。今回だけの試しだと思って着てみてくれたらいいわ」
 優しい言葉での甘い誘惑。
 恥ずかしいけど、それで素晴らしい加護が得られるのだから、我慢する価値はある。
(どうしても無理そうなら、抜けさせてもらおう……)
 いつでも抜けられるなら大丈夫。
 そう考えて、わたしは下着に手をかけた。思い切って上下とも脱ぎ去り、さっさとラバースーツを着てしまうことにする。
「足から入れるといいわ。あと、初めてだと片脚立ちになって着るのは難しいから、椅子に座った方がいいわね」
 そう促され、わたしはラバースーツを持って椅子に腰掛ける。お尻にひんやりとした椅子の感触が触れて、思わずぞくりとした。普通、裸で椅子に座ったりしないからだ。
(気にしない……気にしない……)
 わたしはそう胸の内で念じつつ、ラバースーツを改めて目の前に広げる。ジッパーを下げて、ぱっくり開いたラバースーツの背に足を入れる。
 スーツの中は思ったよりひやっとした感じではなく、むしろ暖かみのある感じだった。加護があるおかげなのか、ラバーという素材自体が持つ特性なのか。
 それはわからないけど、見た目の印象よりは快適な感触だった。
 背中の割れ目から、まずは足の先を差し込んでみる。ラバースーツはかなりの抵抗感があり、着るのにはかなり苦労しそうだ。
 そう思っていたら、シャーティさんが奇妙な形をした瓶を持って来て、それをラバースーツの中に振りかけた。
「それは……?」
「これは滑りを良くするための潤滑魔法の粉よ。もう一度足を入れてみて」
 潤滑魔法なんてきいたことがないけど、とりあえずもう一度試してみた。
 すると、さっきは酷く抵抗があったのに今度は滑りよく、突き入れた足がかなり奥の方まで入ってしまった。
「わっ、ほんとだ。すごい……」
「あ、先端まで入れる前に、もう片方の足も入れた方が楽よ。ある程度は伸びるから穿けるとは思うけど」
 言われた通り、もう片方の足もラバースーツの中に入れる。こちらもするりと奥まで入ってしまった。
(……それにしても)
 滑りが良くなったのはいいのだけど、中でヌメリが感じられるようになったことで、なんだか服を着ているというよりは、補食されているかのようで、少し微妙な気持ちになる。
 とりあえず、両足をラバースーツの足先の先端まで押し込む。足が太ももくらいまでぴっちり覆われた。生地が弛まないように、先端から身体に沿わせるように撫でながら、上へ上へと引き上げていく。
(うー……やっぱりなんか、服って言うか皮膚の上にもう一枚皮膚があるみたいで落ち着かないなぁ……)
 この調子で全身包まれてしまったらどんな感覚になるのだろうか。
 想像がつかなくてちょっと怖い。
 けれどいまさら引き返すわけにも行かず、わたしは立ち上がってラバースーツをさらに引き上げていく。腰の上、へその辺りまで引き上げたところで、シャーティさんがわたしの後ろに回り込み、補助してくれた。
「ずり下がらないように私が持っておくから、両腕を入れちゃって」
「あ、はい」
 言われた通り、両腕をラバースーツの中に入れていく。やっぱり昆虫の羽化の逆回転みたいだと思った。
「んっ、変な感じ……ですね」
 ラバースーツが身体を覆っていく。両足、腰、両腕、そしていま胸がスーツに覆われた。スーツの内側はシャーティさんが振りかけた魔法の粉のおかげで滑りやすく、着やすくなっているのと同時に、少し張り付くような感じがした。胸のあたりが特にそれを強く感じる。ぴったりと、わたしの身体の曲線に綺麗に合わさっていた。
 締め付けられるような窮屈さは感じるけど、それと同時に、必要以上に締まるわけでもなく、ただぴったりと身体に沿って存在している感じ。
 その感覚は指先の方からシワを伸ばすようにしてぴちぴちにすると、余計に強くなった。
「それじゃあ、ジッパーをあげるわね。……ふふ」
「どうしたんですか?」
 急にシャーティさんが笑ったので、どこかおかしな状態になっているのかと思った。
 けれど、彼女はそういう意味で笑ったのではなく。
「ごめんなさい。なんでもないわ。この瞬間が溜まらないのよね、と思って」
「それってどういう――ふぁっ!」
 ちゃんと問おうとしたわたしの意識が、あっという間に持って行かれそうになる。
 ジッパーの金具を持ったシャーティさんの指が、わたしの背骨に沿って上がっていく。それと同時に、わたしは身体がラバースーツによって締め付けられる感触に、変な声をあげてしまっていた。
 すでに十分身体にぴったり接していると思っていたラバースーツは、背中のジッパーが上がり、開いていた部分が閉じて行くに従って、よりぴっちりと、ほどよい強さでわたしの身体を締め上げてくる。
 思わず内股になって、背筋を曲げそうになったのを、背後のシャーティさんが軽く肩を引いて、身体を起こされる。
「はーい、背筋は伸ばしてね」
 経験したことのない異様な感覚に、わたしの頭は完全に混乱していて、言われるがまま、背筋を伸ばした。
「は、いいっ、ふ、ぅ……っ!」
 その私自身の動きに従って、ラバースーツが股間に食い込み、お腹を引き絞り、呼吸するだけで胸の辺りに抵抗を感じるようになった。
 まるで巨人の掌に優しく包まれ、握られているかのような、異様な感覚が全身から走っていた。
 ラバースーツに全部を把握されている。経験したことのない、不思議な感覚だった。
 けれど、それは決して嫌な感覚ではなくて。
 むしろずっとそうされていたいような、すべてを委ねて存在しているような、そんな幸福感があった。
 その時のわたしがどんな顔をしていたかはわからない。
 唯一それを見ていたシャーティさんは、優しく笑ってくれていた。
「あらあら……ロバラちゃん、素質がありそうね。これは、マスターに気に入られてしまいそうだわ」
 シャーティさんは楽しげに呟いていたけど、どういう意味なのだろうか。
 わたしが未知の感覚に悶えている間に、ラバースーツのジッパーは上まで上がりきったようだ。うなじのあたりまで上がっていたシャーティさんの手が離れる。
 首の中程までラバースーツは及んでいて、ほんの少し喉に違和感があった。呼吸を阻害するほどじゃないけど、首だけじゃなく胸もラバースーツに締め付けられているからか、慢性的な息苦しさが続いている。
 でも、息苦しいはずなのに、なぜか不快な感じはしなかった。力強く抱きしめられているような、そんな心地いい感覚が生じているのだ。
 初めての感覚を処理しきれず、ぼーっとして立ちつくしていると、シャーティさんに肩を叩かれる。
「ロバラちゃん、大丈夫? ……まさか、いきなりラバースーツ酔いしてたの?」
 彼女は驚いた顔をしているけど、わたしにはなんで驚いているのか、わからない。
「えっと……ラバースーツ酔い……ですか?」
「ええ。稀にいるんだけどね。ラバースーツって独特の着心地をしているでしょう? だから、その着心地に酔っちゃう子がたまにいるのよ。悪いことじゃないし、むしろ良いことだから心配しないでいいわ」
 そう微笑むシャーティさん。
「普通は何度か着て、慣れてきた頃にそうなるんだけど……ロバラちゃんは本当に逸材かもしれないわね」
 ぼそりと呟かれたシャーティさんの声は、なぜかすごく嬉しそうだった。
 とりあえず呆れられたり、引かれたりはしていないようで安心した。
「これでラバースーツは着れたわ……あ。ひとつ忘れてた」
 普通に立っているだけでも、少し身動ぎしただけで、ラバースーツが身体の各部を締め付けてくる。その感覚に精一杯だった私は、背後に立つシャーティさんが何を取り出したのか見ていなかった。
 シャーティさんの手が、わたしの首元に触れてくる。
 金属で出来たチョーカーのようなものが、わたしの首に取りつけられた。
「えっ、ちょっ、ちょっと!?」
 突然のことに驚いていると、シャーティさんが補足してくれた。
「このチョーカーも加護付きの特別製なの。私は外に出ないから必要ないから着けてないけど」
 ただでさえ息苦しいところに、さらに拘束が加えられて、本当に息が出来なくなるんじゃないかと焦ったけど、幸いさらに息苦しくなっただけで呼吸は阻害されなかった。ギリギリの域を攻めてくる。
 そのチョーカーは首にぴったり張り付いていて、わずかな遊びもない。ラバースーツもそうだけど、なんでこんなにわたしのサイズぴったりなのだろう。
「これで基本の制服は着終わったわ。鏡で自分の姿を見てみる?」
 シャーティさんに促されるまま、わたしは部屋の片隅に用意されていた全身が映る大きさの鏡の前に立たされた。

 そこには、異様な姿のわたしがいた。

 そこに映るわたしは、全身真っ黒な、ラバースーツに包まれている。
 手や足の先までぴっちりとわたしの身体を覆うその服は、わたしの身体のラインを嫌と言うほどはっきりと浮かび上がらせていた。
 ラバースーツそのものに身体を締め付け、ラインを整える効果があるらしく、いまのわたしが取れる最高の身体のラインになっているような気がする。
 普通の服だとそんなに目立たなかった胸も、一回りは大きく見えるし、なにより形がすごく綺麗に出ている。その上、身体を動かす際に胸が揺れても、ほどよい強さで保持してくれているため、全然痛くない。
 揺れないわけじゃないけど、ちゃんと形を保持してくれているから、巨乳の人でもたぶん大丈夫、だと思う。
 首につけられた金属製のチョーカーは、触れると冷たくて硬そうなのに、不思議と首の動きにはほとんど干渉しなかった。加護がついているという話だったけど、装着者の邪魔にならないような魔法でもかかっているのだろうか。
 正直、首に巻く金属製のもの、というと犯罪者などが身に付ける首輪が真っ先に思い浮かんでしまうのだけど、このチョーカーはあまりそういう風には感じなかった。シンプルながらデザインがお洒落で、装飾品として成立している。
(……ドレスを着てこれを着けても違和感ない、かも?)
 まあ、ドレスなんて遠くから見たことしかないのだけど。
 それにしても、繋ぎ目らしきものがないように見えるけど、どうやって外せばいいんだろうか。
「あの、シャーティさん」
「次はロバラちゃんに使ってもらう部屋に案内するわね」
 訊こうとしたら、シャーティさんは言いながら部屋の外に出ていってしまう。
 あとで脱ぐ時に訊けばいいかと、とりあえずシャーティさんのあとに着いて歩く。いつものように歩こうとしたら大きく胸が揺れた。
 身体の感覚でそれがわかって、慌てて腕で押さえる。
(うぅ……これほんとに皆同じ服を着てるのかな……モンスターと戦う時にこれって、結構厳しいんじゃ……)
 痛くはないのはわかってるけど、揺れるのには違いないから、恥ずかしくて仕方ないと思うんだけど。
 そんな風に思いながらも、シャーティさんの後ろについて、階段を上る。
 相変わらずシャーティさんの足には鎖が繋がっていて、じゃらじゃら音を立てている。すごく邪魔になりそうだけど、彼女は慣れている様子で、階段を上るのにも支障がないようだった。
(それにしても長い鎖だよね……絡まったりしないのかな? 他の人が踏んじゃったり……とか)
 何気なく鎖の動きを見ていると、シャーティさんが廊下の角を曲がり、鎖が角に引っかかりそうになった。
 けれど、引っかかるかと思われた鎖は、何事もなくシャーティさんに引かれるまま、動き続けている。
 まるで鎖自体が動いているようにも見えるのは、目の錯覚なのだろうか。
(あまり気にしないようにしよう……)
 そう気持ちを切り替え、シャーティさんについていく。
 シャーティさんはひとつの部屋の前で止まった。ここの扉は自動ではないらしく、シャーティさんが枷のついた手で開けていた。
「ここね。家具はあまりないけど、もし必要なら言ってね。物置に余っている家具がいくつもあるし、大抵のものは融通できると思うわ」
 中はシンプルな部屋だった。ベッドがふたつ置かれていて、壁際には棚や机もある。
 確かに物は少ないけど、わたしみたいな新人を迎えるのならこれくらいの方がいいんだと思う。
「わ、わかりました。ええと、同室の人もお出かけ中ですか?」
 まずはその人に挨拶をしないといけないだろう。
 そう思って訊いてみたのだけど、シャーティさんはなぜか少し困ったように笑う。
「ああ、ごめんなさい。実はこの部屋、いまは誰も使ってない部屋なの。二人部屋をひとりで使うから、少し寂しいかもしれないわね」
「え? そうなんですか?」
 つまりこの部屋は完全に新人用の部屋で、その部屋を使う人はわたし以外いないということらしい。
 一人部屋なんて初めてのことで、むしろ嬉しく思えてしまう。
 それにしても、結構所属している人は多いはずなのに、部屋が余っているなんて、このホームは結構広いのだろうか。
 そう訊いてみたら、シャーティさんは苦笑した。
 彼女がさっきからずっと困ったような笑顔を浮かべているのが気になる。
「シャーティ、さん?」
「そうね……確かに外から見るより、この屋敷が実際に広いのも事実なんだけど。地下室もあるしね。でも、部屋が余ってるのは……」
 ふと、そこまで言ったシャーティさんが言葉を切り、あらぬ方向を見やった。
「……あら。何人か帰ってきたみたいね。とりあえず荷物は部屋に置いちゃって。皆を出迎えに行きましょう。あなたを紹介するから」
「あ、はい。わかりました」
 なんだか色々あるらしい。
 とりあえずパーティメンバーに挨拶するのも大事だから、わたしは着替えなどの荷物を置いて、メンバーを出迎えに行く。
 これからお世話になるパーティメンバーたちだ。失礼がないようにしなければならない。
 わたしはそう思っていたけど、それ以前に彼女たちの姿を見て、呆気に取られることになるのだった。
 パーティの制服だといわれ、わたしが身に付けているラバースーツとチョーカー。
 これはあくまでも『基本の』制服だ。

 つまり――人によって制服はそれぞれ違うのだ。


「カゴノヒトビト」につづく
[ 2019/04/17 22:57 ] 小説・短編 カゴノヒト | TB(0) | CM(0)

カゴノヒト 3


 それはまるで人間の皮のような様相をしていた。
 人間の首から下の皮を剥ぎ、黒く染めたような、そんな異様な服。
 シャーティさんに手渡されたものの、どうすればいいかわからず、固まってしまった。
 感触もまた異様なものだった。もちろん人間の皮ではない感触だったけど、かといって布ではあり得ない。分厚くて、よくなめして整えられた動物の皮っぽい感じ。
 ただ、動物の皮というには、その感触はあまりにも人工的で、自然っぽい荒れた感じがない。つるつるし、かつちょっと張り付いてくる肌触りはカエルのそれに似ているかもしれないけど、やっぱりそれと同一ではない。
 わたしは困惑した心持ちのまま、シャーティさんに尋ねていた。
「あの……これ……なん、なんですか……?」
 どう聞けば正解なのかわからない。混乱した心をそのまま口にすると、シャーティさんもまた首を傾げた。
「だから、ラバースーツよ? ……あ。そうね。そう言われてもわからないわよね」
 たぶんシャーティさんも通ってきた道だったのか、わたしが言わんとしていることを察してくれたようだった。
「そうね……ラバーは……えーと、わたしもそんなに詳しいわけじゃないのよね。マスター曰く、此方ではあまり流通していない『護謨』という素材で出来た服……だそうよ」
 マスターという人が済んでいた地域は、この辺りではないということだろうか。
 とにかく。遠く離れた異国での風習であり、民族衣装のようなものだというのであれば、まだわからなくはない。
「す、すっごい変わってません……?」
 それはシャーティさんの見た目からも明らかだ。この辺りではまず見ない姿なのは間違いない。
 シャーティさんにもその自覚はあるのか、こくりと頷いた。
「そうね。確かに最初は私も面食らったわ。けれど、着慣れると案外快適だし、なによりこの服には重要な秘密があるの」
「秘密?」
「ええ。貴女も外で口外しないようにしてね。この服にはね……とても強い防御の加護が与えられているの」
 そういって内緒話をするように囁くシャーティさんは、その服を誇るように続けた。
「その加護とは『環境適応』――凍える氷山であろうと、燃えさかる火口であろうと、これを身に付けているだけで、ありとあらゆる環境に適応できるようになるの」
 シャーティさんが誇るのも無理はない。わたしは開いた口が塞がらなかった。
 それが本当なら、とんでもない性能を持った衣服だ。これ一枚で環境に適応出来るのだとすれば、それほど心強いこともない。
 けれど、それだけじゃなかった。
「さらに――」
 シャーティさんの言葉はまだ続いていたのだから。
「『状態変化無効』――毒も麻痺も睡眠も。この服は着用者の不利益になるあらゆる効果を遮断するわ」
「ふたつの加護が、同時に与えられるっていうんですか!?」
 加護は大変貴重なもののはずだ。それを同時にふたつ、それもどちらも有用すぎる効果を与えられるというのは、信じられないことだった。
 冒険者の死因の多くは、モンスターなどの敵と直接やりあって受ける傷よりも、攻撃によって与えられ、戦闘後にも残る状態変化だという。それを防げるとなれば――その有用性は計り知れない。
 けれど、驚くのはまだ早かった。シャーティさんは、にやりと楽しげに笑ったかと思うと、「そして」と続けたからだ。
「『防御力大上昇』――さすがに攻撃を完全に防いでくれるわけじゃないけど、これ一枚で全身鎧並みの防御力を発揮するの。持って貰ってるからわかるとおもうけど、重さはそれほどじゃないわ」
 同時に三つも加護を与えられるという、とんでもないことを言い始めた。そんなのは伝説の中でしか語られない防具の話だ。
「う、嘘でしょ……?」
 そう呟いてしまったわたしの言い分は、間違っていないはずだった。シャーティさんもそれはわかっているのか、特に気を害した様子もなく、ニコニコとむしろ楽しげに微笑んでいる。
「そうね。嘘みたいだけど本当よ。もちろん弱点はあるわ。まず、例外を除いて重ね着が出来ないこと。このラバースーツは大気中に漂う魔力を吸収して、それで破格の性能を発揮しているみたいなの。普通の服を上に着てしまうと、加護の力が弱まってしまうのよ」
 なるほど、だから身体にぴっちりと張り付いて、色が黒じゃなければ裸と見間違えそうな見た目でも、その上に服を着たりしていないというわけだ。
 それはとても恥ずかしいことだったけど、羞恥を堪えて命が助かるなら、天秤にかけるまでもない。
「さらにもう一点。この服は加護がある服なんじゃなくて、マスターの加護によって生み出された服なの。だから、マスターが定期的に加護を込め直す必要があるわ」
「な、なるほど……」
 三つも破格の加護が乗る性能の服を軽々しく与えていいのだろうかと思えば、そういうことなら問題ない。
 仮に服を持ち逃げしたところで、加護がなくなってしまえばただの服だからだ。
「ロバラちゃんは言わなくてもわかったみたいだけど、くれぐれもそれを持って逃げようなんて思わないでね。…いえ、逃げても別に構わないのだけど、その場合――グッ」
 突然、シャーティさんが不自然なところで言葉を止めた。
 不思議に思って彼女の目隠しされた顔を窺う。顔の大部分が覆われているシャーティさんがどんな表情を浮かべているのかわかり辛い。けれどどこか、何かを我慢しているような、そんな気配があった。
 それに、何か変な、壁の向こうで何かが動いているような。
 何かが、かすかに振動する音が聞こえるような。
「シャーティ、さん?」
 問いかけてみると、シャーティさんは呼吸を止めていたのか、詰めていた息を深々と吐き出した。
「……いえ、なんでもないわ。ごめんなさい、気にしないで」
 ほんの少し震えたシャーティさんの声。
 それは恐怖による震えという感じではなかったけど、わたしにはわからない類のもののようだった。
 シャーティさんは、なぜかほんの少し赤みが増した頬を伏せつついう。
「ラバースーツの着方を教えるわね。大丈夫。ロバラちゃんもすぐに慣れるわ」
 シャーティさんはそう言って、わたしにラバースーツを広げるように言った。
 
つづく
[ 2019/03/27 22:14 ] 小説・短編 カゴノヒト | TB(0) | CM(0)

カゴノヒト 2


 シャーティさん曰く、現在カゴノヒトのメンバーは出払ってしまっているみたいで、メンバーへの紹介は帰ってきてからになるらしい。
 メンバーが帰ってくるのを待つ間に、わたしはこのパーティの制服を着てみることになった。
(パーティに制服なんてあるんだ……)
 わたしの認識だと、制服っていうのは兵士の人とか、ギルドみたいな大きな組織の事務員さんなんかが着るものだった。
 冒険者のパーティにもそういったものがあるというのは初めて聴いた。
 このパーティだけの特徴なのかもしれないけど。
「ロバラちゃん。こっちの部屋に来てもらえる?」
 言いながら、シャーティさんがカウンターの中を移動し、奥の部屋へと移動していく。その際、鎖の鳴るような音が響いているのに気付いたけど、鎖がどこにあるのかは見えなかった。
 わたしはシャーティさんに言われるまま、カウンターの中に入って彼女に続こうとして――その足下で太い鎖が動いているのに気付き、踏まないように慌てて飛び退いた。
 その鎖は、シャーティさんから伸びていた。
 彼女の足首には大きな枷が取りつけられていて、鎖はそこから伸びていた。鎖がどこに繋がっているかはわからないけど、まさかどこにも繋がっていないということはないだろう。 どこかに鎖で繋がれているとしたら、いよいよ本当に囚人みたいだ。
 もっとも、それにしては鎖が長すぎる気はしたけど。
「あ、あの、シャーティさん……それ……」
 鎖のことを聴こうと声をかけると、彼女はわたしが何を言いたいのか気付いたらしく。
「ああ、気にしないで。踏まれると転んじゃうから、踏まないように気をつけてね」
 あっさりと流された。あまりに平然としているものだから、わたしもそれ以上突っ込んで聴くことは出来ず、言われた通り、踏まないように注意して彼女の後ろについていく。
 そこで改めてシャーティさんの全体像に意識が向けられ、その異様な姿に唖然とした。
 シャーティさんの全身は、上半身と同じで、黒くてよくわからない不思議な素材で出来た服で覆われていた。肌に色を塗ったかのような、ぴっちりと張り付いている衣装。彼女の細い腰や丸みを帯びたお尻、すらりと長い足が強調されている。
 腰の、というか股間の、普通なら下着を身につける場所は内側から下着の形に少し盛り上がっているようなので、何か着ているみたいだけど、それが本当にただの下着かどうかはわからない。なんとなくだけど、普通の下着ではない気がする。
 肌の露出はむしろ皆無だというのに、肌を見せるよりもエッチな感じがするのは、わたしが田舎者だからだろうか。
 そんな恰好であるにも関わらず、シャーティさんは優雅に歩いてわたしを先導してくれる。じゃらじゃらと鎖の鳴る音を響かせながら、彼女は歩いていた。
 色んな意味で目のやり場に困る姿だった。
 カウンターの奥の扉を潜り、奥の部屋へと移動するシャーティさんに続き、わたしもその扉をを潜る。中は普通の部屋みたいだった。応接室みたいな、人を迎えるための部屋っぽい。
(部屋は普通……よね……)
 だからこそ、シャーティさんの姿がより異様に映るのだけど。
 そんなことを思いながらわたしが部屋に入ってすぐ、部屋の扉が自動的に閉まった。思わずびっくりして振り返るわたしに、シャーティさんが優しい声をかけてくれる。
「心配しなくて大丈夫。勝手に開けられることはないから、安心して着替えてね」
「魔法のドア、なんですか?」
「んー、そうではあるけど、普通の魔法のドアとは少し違うから……まあ、その話はおいおい、ね」
 はぐらかされてしまった。
(まあ、パーティの秘密が関わってるなら、そう簡単には教えてもらえないわよね。……あれ? そういえば、鎖は?)
 ドアは閉まってしまったけど、シャーティさんの脚に繋がっていた鎖はどうなったんだろう。
 気になってそこを見てみると、扉の下には鎖が通れる分の隙間があって、鎖があってもちゃんと閉まるようになっていた。
(ちゃんと考えて造ってあるんだ……でもなんで鎖なんかで繋がれてるんだろう……?)
 わたしが不思議に思っている間に、シャーティさんが棚からパーティの制服を一着取り出してくれていた。
 ただそれは服と呼んでいいのか、微妙なものだった。

「これがうちの制服――私も身に付けている『ラバースーツ』よ」

つづく
[ 2019/03/20 17:34 ] 小説・短編 カゴノヒト | TB(0) | CM(0)

カゴノヒト 1


 一般的に、冒険者になる者には大きく分けて三つの道がある。
 ソロか、すでにあるグループに入れてもらうか、パーティに入れてもらうか、だ。

 まずソロは単純。ひとりで頑張る道。
 依頼人からの事情聴取から探索、戦闘、倒した獲物の処理、その他諸々の雑務。
 冒険者ギルドがやってくれることを除いた、ありとあらゆる全てをひとりでやる。
 当然高い戦闘力や技術、知識までもが求められ、完全ソロでやれている冒険者はほとんどいない。
 その代わり、報酬や名声の全てが自分のものになる。
 ハイリスク・ハイリターンの道だ。

 次にグループに入れてもらう道。
 大抵の冒険者には得意不得意があるから、それを補い合う形だ。
 前衛に立って戦う者、後衛に立って魔法を唱える者、狩り場にたどり着くまでや迷宮の道中の警戒を行う者、狩った獲物を上手く処理する者。
 分担して行うことで、すべてをひとりでやるよりも確実に、かつ、より良い形で行える。
 安全や確実性に関してはそれなりのものが担保出来る。
 ただ、分業であるがゆえによほど気の合うメンバーとでなければ諍いが絶えなかったり、一度メンバーが固定されると新参者が入りづらかったり、問題点も多い。
 報酬や名声はそれなりに分割されるが、ひとりではクリアできない依頼を受けれるため、実入りはそこそこと言ったところ。

 最後に、パーティに入れてもらう道。
 パーティ、とはグループをさらに巨大化したような状態のことで、十人を超える大所帯がパーティと言われる。
 基本的にはリーダーとなる者がいて、その者を慕ったり、あるいは何らかの理由があってその者を中心に集まったグループの輪が、パーティと呼ばれるようになる。
 言うなればグループの発展系であり、リーダーの采配で複数の依頼を同時並行で受けたり、専門職を何人も集めて難しい依頼に当たることが出来る。
 リーダーが許可さえすればパーティに入れるため、新参者でも入りやすく、それぞれの職の専門家がいるため、知識や技術の伝承が自然と行われる。
 采配の多くをリーダーが握ることになるため、リーダーとの不仲は致命的だが、それ以外のメンバーとはそれなりの折り合いを付けて貰うことも出来る。
 基本的なパーティの指針というものが決まっていて、それに賛同できるならパーティに所属するのが、駆け出し冒険者にとっては最も安全かつ確実と言われている。
 もっとも、大所帯ゆえに依頼をこなすことで得られる報酬や名声は、大きなものにはならないという欠点も抱えているのだが。

 そして、そんな駆け出し冒険者であるところのわたし――シューラはとあるパーティの拠点(ホーム)の前に立っていた。
 街の外れに建っている一軒家がその拠点で、外見だけを見れば極普通の家屋に見える。二階建てで、そこそこ大きい。庭もあるみたいだけど、建物の裏側なのか、どんな感じなのかはよくわからなかった。
 正面には大きな入り口があって、その上にはパーティの名前が書かれた看板が掲げられていた。
 冒険者ギルドで冒険者登録自体は終わっている。この街は大きな街だから、駆け出しの初心者を受け入れているパーティもいくつかあった。
 わたしはその中で「色んな意味で一番安全で、命の危機は少ないけれどお薦めはしない」とギルドで教えてもらったパーティにやって来た。

 冒険者パーティ・カゴノヒト。

 この世界には、神様、もしくは精霊の加護というものがある。
 それはとても強大な力で、おとぎ話に出て来るような勇者様や魔王はそういった加護を必ず持っていたというくらいだ。
 パーティ名から察するに、おそらくこのパーティのリーダーは加護持ちなのだろう。
 加護には一部を人に与えられるものもあるという。
 有名なおとぎ話では、とある国の王様が【コンティニュー】という強大な加護の持ち主で、その加護を与えられた人は、仮に敵との戦いや罠で死んでも、王様の目の前で復活出来たとか。
 その【コンティニュー】ほどじゃなくても、高い防御の加護を授けてもらえれば、よほどのことでは死ななくなる。
(安全って、たぶんそういうことだよね……それに)
 わたしがギルドでお薦めされなかったのに、所属を希望するパーティにここを選んだのは、もうひとつ理由がある。

 それは、このパーティのリーダーが女性で、加入条件も女性限定だということだ。

 一部例外はあるみたいだけど、基本的に女性しか所属出来ないのは、とても重要なことだった。
 わたしにとって、男性というのは恐怖の対象だったからだ。
 わたしの生まれた村は、ある日大規模な山賊の襲撃によって無慈悲に蹂躙された。その際、わたしも捕らえられ、山賊の頭によって無理矢理犯され、散々な目に遭わされた。
 すぐにやって来た国の軍隊によって山賊たちは蹴散らされ、救出されたものの、わたしは男性に対する恐怖心を植え付けられてしまった。
 その後紆余曲折あって恐怖心は克服し、男性だからと誰彼無しに恐怖することはなくなったけど、男性が傍にいられるだけでいまだに落ち着かない。
 村はなくなってしまったし、何か手に職があるわけでもないわたしに残されていたのは、冒険者になる道くらいしかなかった。
 かといってただの村娘でしかなかったわたしに、ソロでやれるほどの実力があるはずもなく、女性のみのグループは大抵がすでにメンバーが充実していて入れなかった。
 そんなわたしにとって、女性限定のパーティは渡りに船だ。しかも、初心者でも歓迎となれば、わたしにはそこしかないというものだった。
 曲がりなりにもギルドに認知されているパーティだし、実績もかなりのものがある。
 どうしてお薦めされていないのか不思議なくらいだ。
(ギルドの受付の人は教えてくれなかったんだよね……何があるんだろ)
 受付の人はなんとも形容しがたい顔をしていた。
 彼女曰く、犯罪行為に手を染めているとか、メンバーの女性を娼婦として派遣するとか、そういうことではない、とは断言してくれたけど。
(じゃあどういうことなのか……って話だよね)
 行けばわかる、としか言ってくれなかった。
 むしろ、行って体験してみないと所属できるかどうかわからない、と言われたけど。
(体験ってどういうことだろ……お試し期間とかがあるのかな?)
 単純に楽ができるわけではないのだろう。
 わたしは意を決して、『カゴノヒト』の拠点の扉を叩いた。
「ごめんください! パーティの加入希望で来ま、し……た……」
 挨拶が途中で中途半端になったのは、誰もいないのに叩いた扉が自動的に開いたからだった。
 優れた魔法使いのいる家では窓や扉が自動開閉するようになっていると噂では聞いていたけど、実際に見るのは初めてだったので、驚いてしまった。
 そのまま開ききった扉の向こうは、広い部屋になっていた。
 住宅というよりは、酒場とか飲食店のような構造で、広い部屋の中に丸いテーブルがいくつか点在していて、その周りに椅子が置かれている。
 さらに、まさにお店っぽい、カウンターらしき台が正面にあって、その向こう側にだれかが座っていた。
 その人は、にっこりと笑顔を浮かべていた。
「ようこそ。『カゴノヒト』へ。可愛らしい小鳥ちゃん♡ 私は受付を担当しているシャーティよ。よろしくね♡」
 わたしはその言葉にすぐに反応することができなかった。
 それは、人懐っこく、気安い態度でいるその人――シャーティさんの姿、いや、服装が奇妙極まるものだったからだ。カウンターの向こうに立っているから、上半身しか見えないけど、その範囲だけでも十分奇妙だった。
 シャーティさんは、全体的には、極普通の人間の女性に見えた。
 特に耳が尖っているということも、角が生えているということもない。背中に届くくらいのウェーブがかった金色の髪も、白い肌もこの辺りでは普通に見られる特徴だ。
 成熟した大人の女性らしく、大きな胸や細いくびれがとても魅力的だった。
 線の細いしゅっとした顔立ちなどから、美人なのはわかる。
 でも、そんなシャーティさんには、とても奇妙な点があった。

 彼女の目は、不思議な布によって覆われていたのだ。

 その布には穴が空いているということもなく、完全に目を覆っているので、目隠しをしている状態だった。
 目を覆っている目隠しは黒っぽい素材で、厚みも結構あるように見える。その厚みと材質からすると光が透けて見えるということもなさそうだし、完全な盲目状態になっているはずだった。
 けれど、シャーティさんの目は、確かにこちらを見ているのがわかる。じっと見ている視線を感じるからだ。
 その目隠しだけでも十分不可思議なのだけど、不思議な点はそこだけじゃなかった。
 シャーティさんが身に付けている服。
 それもまた目隠しと同じで、黒い素材で出来ていた。
 それは彼女の女性的な魅力に溢れた身体を強調するように、身体にぴったりと張り付いているような形状をしていた。乳房の形が綺麗に出てしまっていて、裸に色を塗ったと言われても一瞬信じてしまうかもしれない。
 この街では様々な種族や文化が混在しているため、シャーティさんはそういう服飾文化なのだと思えば問題はないのだけど、わたしの知る文化にそういうものはなかったので、見ていると少し恥ずかしい。
 物を知らない田舎者だと思われたくなかったので、態度には出さないように努めたけど。
 ただ、種族とか文化とかでは説明しがたいこともあった。
 それは、シャーティさんがカウンターの上に置いている手にある。

 彼女の両手は――分厚い金属の枷によって、一纏めに拘束されていたのだ。

 広い世界、そういう文化が全くないわけではないとは思うのだけど。
 少なくともわたしの常識に従って考えれば、そういう手枷や足枷といった『自由を束縛する道具』は、囚人か、あるいは奴隷が身に付けるものだった。わたしも山賊の頭に無理矢理犯されていた時、両手と両足に鎖で繋げられた枷を取りつけられていた。
 ただ、彼女が身に付けている手枷は、両手に着けた金属の枷を鎖で繋いでいるのではなく、枷同士が結合している形なので、普通の手枷よりも、もっと自由度が少なそうだった。
 枷は手首あたりを覆っているのだけど、きっちり固定されているせいで彼女は両手を肘までぴったり揃えないとならなくなっていた。
 そのために、大きな胸が両腕によって挟まれ、より強く強調されている。
 彼女の着ている服が服だから、乳房の丸みがよりはっきりわかって、なお恥ずかしい。視線を向けづらく感じつつ、わたしはシャーティさんが手枷をしている理由を考える。
(もしかして……受付対応のために奴隷を雇っている、とか……?)
 あり得るかもしれない。
 罪を犯して奴隷身分に落とされたというなら、自由を奪って受け付けに置くというのも、筋は通っているかもしれない。そこまでして受付が必要かと言えばそうじゃないし、彼女の気さくな雰囲気から違うような気はしていたけど。
 動けないわたしに対し、シャーティさんはくすくすと大人っぽく、品良く笑った。
「ちなみに、私は元犯罪者でも囚人でもなければ、奴隷身分にあるわけでもないわよ?」
 どきりとした。
 心を読まれたように感じたけど、ここを訪れる人は大抵同じことを考えるのだろう。
「説明してあげるから、とりあえず中に入って来て」
 そういえばまだ建物の外に立っていたことに気付き、慌てて中に入る。
 すると、開いた時同様、ドアは勝手に閉まっていった。
 カウンターの前まで行くと、中に立っている彼女が姿勢良くお辞儀をする。
「改めまして、『カゴノヒト』へようこそ、新人ちゃん。私たちは去る者追わず、来る者拒まず、のスタンスだから安心していいわよ♡」
「ど、どうしてわたしが新人だってわかったんです?」
 ここまでのやり取りで、目隠しのようなものをしているけど、見えていないわけではないということはわかっていた。
 なので、単なる観察眼かもしれなかったけど、一応尋ねてみた。
「ふふふ……私の目には貴女の『ステータス』が見えるの」
「すてー、たす?」
「ええ。体力とか魔力とか、身体的な能力を数値化したものよ。一般的な呼称じゃないからわからなくて無理もないわ。うちのマスターがそう呼べっていうから、私もそう呼んでるだけだし。日々の体調や調子で変動する数値だから、本当はステータスとも呼び辛いらしいけどね」
「は、はぁ……」
 訳がわからない。マスターというのは、たぶんこのパーティのリーダーのことだろう。
 マスターという呼び方はギルドなど、もっと大きな組織のリーダーに使われるものだ。
 パーティリーダーに使われることはそうそうないけど、それだけシャーティさんがリーダーを慕っているということかもしれない。弟子が師匠を呼ぶ時にも使うから、そういう関係という可能性もある。
「私には貴女の大体の実力が数値で見えるの。それによると、貴女の数値は駆け出し冒険者と同程度……一般的な村人の女の子とほとんど変わらないから、冒険者ギルドに登録したばかりの、新人だということは明白だわ」
 立ち居振る舞いだけでも普通にわかったけどね、と彼女はいう。
 目が見えていなければ言えない台詞だ。
「……やっぱり見えて、るんですよね」
 まっすぐ顔を見てきているような感じはしたし、そうだとわかってはいたけど、そう口に出してみる。
 シャーティさんは特に隠し立てするようなことはなく、普通に頷いて肯定した。
「実は『ステータス』が見えるのもこの目隠しのおかげなの。この目隠しにはマスターから与えられた加護が宿っていてね。魔力を込めると、周囲の景色が数値付きで見えるようになるわけ。魔力を込めないと何も見えないけど、魔力を大量に消費するから、ずっと使い続けるのは無理なのよね」
「……使っていないときは、外せばいいんじゃないですか?」
 単純な話だと思った。そうすれば必要な時だけ、必要な効果を使うことが出来、視界を奪われずにも済むと。
 けれど、そんな簡単な話ではなかったようだ。
「残念だけど、それは無理なの。この目隠しはね、一度効果を発揮すると、数時間は外せなくなる制約があるから」
 事も無げにいうシャーティさんだけど、それはかなり厳しい制約じゃないだろうか。
 魔法の中にはそういった制約を守ることによって大きな効果を発揮するものもあるというのは訊いたことがあるけど、目隠しのそれはまるで呪いのようだ。
「いま、呪いみたいだって思ったでしょ」
 また言い合ってられた。もしかして目隠しの効果で心の中まで見えるようになっているんじゃなかろうか。
 でも、さすがにそこまでは無理だろうから、同じ事を考える人がたくさんいるということだろう。
 そうだとするといまさら取り繕っても無意味だ。
「……正直、思いました」
「そうよねぇ。思うわよねぇ。マスターの得た加護って、どう考えても呪いよね」
 しみじみとシャーティさんは呟く。
 わたしはともかく、正式なパーティメンバーであるはずの彼女がそんな風に言っても良いのだろうか。
 どう答えたらいいものかわからず、曖昧に笑みを浮かべる。
 しみじみ呟いていたシャーティさんが、ふと、手枷によって連結された両手を器用に動かし、片方の掌をもう片方の手で作った拳で叩いた。
「あっ、と。いけないいけない。ついお話しに夢中になっちゃうのは私の悪い癖だわ。新人ちゃんはうちに体験入団しに来たってことでいいのよね?」
「そう……ですね。そういうことになりますね」
 怪しげなパーティに所属していいものか割と本気で迷うけども。
 体験出来るというのなら、体験させて貰ってから所属するかどうか決めても遅くはない。冒険者ギルドでの歯切れの悪さは気になるけど、新人冒険者を体よく使い捨てるようなパーティなら、ギルドに存在を許されているわけがない。
 シャーティさんの立ち居振る舞いからも、パーティの雰囲気はそう悪くはないはずだった。いまこの場には彼女しかいないからわからないところも多かったけど。
「それじゃあ、まずは名前を教えてくれるかしら?」
 彼女は書類らしきものを取り出して、そこにメモを取り始めた。読み書きは一応出来るようになっていたけど、まだ綺麗に書く自信はなかったので、任せることにする。
「ロバラ、です」
「ロバラちゃん、ね……得意な分野は?」
「これという特技はないです……けど、畑仕事で体力はある方だと思います」
 どういう働きが出来るのかということを考えてくれるのだろう。
 シャーティさんからされるいくつもの質問に、わたしは正直に答えていった。
 目隠しをしているシャーティさんが迷いなくメモを取っているのは奇妙な光景といえば奇妙な光景だったけど、だんだんそれにも慣れてきた。
 ほどなくして必要な聞き取りは終わったのか、シャーティさんが質問とメモを取る手を止める。
「うん、これで大丈夫よ。仮入団を受け付けるわ」
「いいんですか? 何の特徴もないですし、それに、リーダーさんに聴かなくてもいいんでしょうか……」
 シャーティさんは受付担当と言っていたから、リーダーではない。
 パーティに所属していいかどうかを決めるのは、リーダーの役割なはずだった。
 そのことが気になって聴いてみると、シャーティさんはこくりと頷く。
「ええ、大丈夫よ。本入団ならともかく、仮入団に関しては私に一任させてもらっているし……うちは基本的に女の子を拒むことはないわ」
「それ、気になっていたんですけど……なんで女性限定なんですか?」
 女性限定というのは、わたしのような男性恐怖症には助かることだけど、不安になる種でもある。女性を集めて何をしているのか、あるいは、しようとしているのか。
 もしかすると、とんでもないことに巻きこまれる可能性だってある。それは尋ねておきたかった。
 するとシャーティさんは困ったように笑った。
「うーん、そうねぇ……ほんとは、男性が絶対ダメだってわけじゃないんだけど……マスターの趣味、かしら」
「しゅ、趣味?」
「まあ、それはおいおい、ね。変な意味じゃないから安心してちょうだい。最初に言った通り、うちのパーティは来る物拒まず去る者追わず。嫌になったらいつでも抜けていいから。……抜けられるかどうかはわからないけど」
 最後にぽつりと呟かれた言葉は、小さくてわたしには聞こえなかった。
 シャーティさんは笑顔で、話を先に進める。
「それじゃあまずは……うちのパーティの制服を着てみてもらいましょうか♡」

 それが、すべての始まりだった。

つづく
[ 2019/03/18 23:43 ] 小説・短編 カゴノヒト | TB(0) | CM(0)

遠隔操作で自縛したら「自分」が増えた


 わたしの目の前で、限りなく自由を奪われた女の子がもがいている。

 至って普通の家の一室、日常的な香りのする部屋の中。
 目に眩しいほどに白いシーツがキッチリ整えられたベッドの上に彼女は仰向けに寝かされていた。
 細く華奢な両手両足は、それぞれ別の拘束具で折り畳んだまま包まれ、伸ばすこともできないようにされている。
 指先はミトンのような丸まった手袋に包まれて、使えないようになっている。遊びが一切ないので、仮に縄抜けなどのエスケープの達人でも抜け出すことは出来ないだろう。
(まあ、そんな技術なんて持っていないから、過剰なんだけど……)
 両肘と両膝には丸い金具があって、太い鎖が連結されている。その鎖が左右に引っ張られて、ベッドの裏で手足の鎖それぞれが繋がっているので、彼女は身体を開かざるを得ない状態にさせられていた。
 彼女がいくら短くなった腕や足で身体を隠そうとしても、鎖は強固に彼女の両手足を固定している。手足に込められるだけの力を入れているようだけど、鎖はわずかに軋むだけでテンションが緩んだりはしなかった。
(恥ずかしい格好よね……部屋に流れる空気が身体に当たるのがよくわかるし……)
 両手両足は完全にラバーで出来た袋状の拘束具で覆われている彼女だけど、それに比して身体は比較的露出度が高かった。
 胴体にはボディハーネスと呼ばれるものが食い込んで、その裸身を彩っていた。掌にあまるほど大きな乳房も、革のベルトが絞り出して大きさを強調している。
 その先端にある桃色の乳首。それに対して、小さなローターが二つ、挟むように固定されている。小さな振動音を奏でながら刺激を与え続けていた。
 その結果、彼女のその敏感な先端は傍目にもわかるほどに硬く尖っていて、どれほどの快感を強制的に与えているのか容易に想像がつく。
(少しもがいただけでも揺れるから、刺激に慣れないのよね……)
 彼女の股間は、両足が曲げた状態で、膝が左右に引っ張られていることで、女の子が普通は絶対にしない格好で開けっぴろげに晒されていた。
 その上、両足は足の裏を合わせる形に固定されている。ボンテージテープというガムテームのようなものでぐるぐる巻きにされていて、足先が微かにぴくぴくと動いているのがわかる程度にしか動かない。
 そんな形で晒されている股間、女の子の一番大事な場所には、恐ろしく大きく太いものが挿入されていた。それはボディハーネスの股間部分を通るベルトに固定され、抜けないようにしている。
(最初はあれだけキツかったのに、よく入るようになったわよね、これ。普通の男の人のものとは違う動きだけど、それがいいっていうか……)
 多少女の子が暴れた程度では抜けず、むしろ押し込んでいるような形だ。男性器を模したそのバイブはローターとは比べものにならない大きな音を立てて動いていて、彼女がその動きに翻弄されているのがよくわかる。
 さらに、クリトリスは丁寧に皮が剥かれたあと、クリキャップで吸い出された上で、ローターが張られていた。
(直接つけたらすごすぎたから、クリキャップ越しに着けてみたけど……余計酷いのかな?)
 仰向けに寝ているから傍目からは見えないけど、お尻の穴にも細工がされていることをわたしは知っている。
 彼女のお尻には太くて長いアナルパールが押し込まれていた。丹念に中のものを出してから入れたから、お腹の奥の奥までそれの感覚が満たしているはずだ。
 いまはお尻の穴から引っ張り出すための金具が飛び出しているだけだから、見た目は大したことがないように見える。
 けれど、ボディハーネスが食い込んでいないあたりのお腹をよく見ると、便秘で大便が腸内に溜まっている時のように、少しぽっこりとしていることから、入れているそれがどれほど太く大きく、長いものなのかは伺いしれた。
(ほんとに苦しいのに、よくやったわよね……)
 必要以上の、執拗なまでの責め具の数々。
 そしてそれは身体だけじゃなく、首から上の頭部にも及んでいた。
 いや、むしろそこから上が本番といえるかもしれない。
 まず首には太くて重い金属製の首輪が巻き付いている。この首輪、着けたまま動くことを想定していないと思えるほど物凄く重い。もし柔らかいマットのベッドに寝かされたら首輪の自重で首が絞まってしまいかねないほどだ。
(ベッドの硬さが足りなかった頃は、危うく気を失いかけたわね)
 いま彼女が寝ているベッドはほどよい固さのマットを使っているから、分厚い首輪がほどよく凹み、固定されているわけでもないのに彼女の首はそこからほとんど動かせなくなっていた。
 顔の下半分、口を覆っているマスクのようなものは、口の中央に丸い栓のようなものがある。いわゆる開口具というもので、その栓を外すことで口内が無防備に晒される仕組みだ。本来なら、男性が着用者にフェラチオを強制させるための装置だった。
 ただ、この口枷の栓は特注品であり、内側に物凄く太くて長いゴム製の張り子が接続されている。
 それは彼女の喉の奥までを犯し、喉のほとんどを占領して、わずかな呼吸さえも苦しいものにしている。
(ほんと苦しいのよね、これ……喉のほとんどが圧迫されて……空気は通るけど、それ以外のものはほとんど通らないし……)
 舌が内側に張りだしたものによって抑え込まれているから、彼女は明瞭な声をあげることもできない。開口具の時点で開きっぱなしになるのだから、ほとんど呻き声しかあげられないのだけど、その栓の残酷な仕掛けによって、呻き声すらささやかなものになっている。
 口で呼吸のできない彼女は、鼻で呼吸するしかできないのだけど、そこにも当然細工がしてある。鼻には穴を塞ぐ形でチューブが通されていて、そのチューブの先端は彼女の顔の横に置かれたリブレスバッグに接続されていた。
 知らない人が見たら黒い風船のようなものにしか見えないものが、彼女の呼吸に合わせて膨らんで萎んで、を繰り返している。そのリブレスバッグは、彼女の鼻のチューブに繋がっているのとは別の太いチューブである程度の外気を取り入れているため、酸素がなくなって死ぬことはない。
 けれど、吐いた息をほとんどそのまま取り入れることになり、酸欠気味になってしまう。
 彼女がそれを通して呼吸をするようになってからしばらく経っているから、頭がぼんやりとして思考が定まらなくなり始めている頃だ。
(ぼーっとして、息を吸っても吸っても楽にならなくて。最初は焦って余計に呼吸して苦しくなったりしたなぁ)
 目の焦点の合い方などを確認出来れば、より詳しくどんな状況かわかるのだろうけど、残念ながらそれはできなかった。
 彼女の目は、分厚い目隠しによって覆われているからだ。その目隠しは普通の布を巻いただけのものではなくて、こういう時のために使われる、革で出来た本格的なアイマスクだった。暴れることはそもそも出来ないけど、仮に頭を振って暴れたところで、全く動かないだろう。それくらい強固に彼女の視界は奪われている。
 彼女は、光の濃淡すら感じられない暗闇を感じているのだ。
(目が見えないだけでも、十分なのにね……)
 耳にはノイズキャンセラー付きのヘッドセットが被せられ、目隠しや口枷と連結して取れないように固定されている。しかも、これだけではなくて、ヘッドセットの中にある耳の穴には、だめ押しとばかりに穴を塞ぐタイプの耳栓が押し込まれていた。
 それにより、わずかな音さえも一切聞こえない。
 身体を通して聞こえる分しか、彼女の耳には音が届いていなかった。それは静寂というにはあまりにも静かすぎる環境で、目も耳も鼻も利かないため、身体の感覚が酷く鮮明になるのだった。
(自分の身体だけしか世界に存在しないような、心細くて、不安になる感覚……)
 彼女は、人間が本来持っている自由をことごとく奪われて、そこにいた。
 とても恥ずかしく、ひどくいやらしい格好で囚われている。自由のない中、少しでも身体を動かそうと懸命に足掻いていた。
 もちろんその程度で彼女を戒める拘束は外れない。
 それを一番よくわかっている彼女は、はしたないほどに股間を濡らし、挿入された張り子の隙間から愛液を滴らせてベッドにシミまで作っていた。
 絶望的なまでに自由を奪われているのに股間を濡らすなんて、どれほど変態かと思うだろう。ほとんどの人がそう思うはずだ。
 だが、わたしはそうは思わない。思うわけがない。
 この彼女にここまで徹底的な拘束を施したのはわたしだ。
 無抵抗な彼女のあそこにバイブを入れ、アナルパールを押し込み、ボディハーネスで絞り出しつつ固定して、ローターを乳首とクリトリスに宛がって、両手両足を折り畳んで拘束し、鎖でベッドに固定して、指先までも完全に覆って封じ、首輪を着けて鍵をかけ、口枷を噛ませて喉の奥まで張り子を押し込み、鼻の穴を封じてリブレスバッグに繋ぎ、目隠しをして耳栓を入れてヘッドセットで固定して。
 すべての準備を整えた。
 そうやって拘束した張本人だから、彼女を変態と思わない、のではなく。

 わたしは、ベッドの上で快楽に悶えてもがいている――彼女本人だからだ。




 わたしは、どこにでもいる普通の女の子だった。
 とあるエッチなネット小説を読んだことがきっかけで、SMというか、拘束されることに興味を持ってしまった。
 彼氏はいなかったし、友達に頼むわけにもいかなかったから、自分で自分を拘束する、いわゆるセルフボンテージに嵌まっていった。
 そうしているうちに、自分の身体ひとつで出来ることには限界を感じ、思い切ってお助けロボットを購入することにした。
 本来、このロボットは寝たきりの患者や高齢者などが使用するためのものだ。一時的に意識をロボットに移し、ロボットの体を行動することが出来る。身体は部屋で寝たまま、買い物や料理が出来るということで、自分で自分の介護ができると人気だった。
 自分の体と同時には動かせないけど、ロボットの体は力が強く、わたしのような女の子でも重い荷物を持つことができるようになるので、寝たきりの人以外にも活用されている。
 だからわたしがそれを購入しても不自然ではなかった。
 お助けロボットはできる限り操作する本人に似せる、というのが通例だった。もちろん人と区別がつかないほどではないけど、作業の関係上、手先なんかは人間そっくりにできているし、その気になって工夫すれば人間の体の振りをすることも一応は可能だ。
 そこまでする人は滅多にいないし、どうしてもロボットである部分はあるから、ずっと騙しきれるものではないけど。
 ロボットは操作する人間が、頭に着けるコントローラーがないと動かない。ヘッドバンドのような形状の機械によって、意識をロボットの方に転送して動かしている。
 コントローラーがないとロボットは動かせず、もし取り外せばすぐに人間の体の方に意識が戻るようになっている。
 ロボットの体と自分の体、両方を同時に動かすことはできない。それは主体性の保持という意味で絶対の前提だった。

 そのはずだった。

 いつものように事前の準備を人の体で整え、ベッドに裸で寝転がったわたしは、ロボットを動かすためのヘッドバンドだけを身に付け、ロボットの体に意識を移した。
 ロボットの体で動けるようになったわたしは、ベッドの上で無防備に寝る自分の体に拘束具や責め具を取りつけた。
 その間、わたしの人間の体は一切動かず、身動ぎ一つしていなかった。
 問題は何もなかったはずだった。
 すべての準備を終えたわたしは、嬉々としてロボットの体から意識を人間の体へと戻した――はずなのに、ここにいる「わたし」という意識はロボットの体にあり続けた。
 人間の体の方はいつものように縛り上げられ、自由を奪われた快感を享受しているようで、ロボットの体がいまだに動いていることに気づいてすらいないようだ。
 ほとんどの感覚を遮断しているから無理もないとはいえ、呑気なものだった。
 人間の体のわたしが身悶えているのを視界の端に納めつつ、わたしは自分の手に視線を落とす。ロボットの手が見えた。
(……どうしよう)
 間違いなくこれはバグだ。どういうわけだか、人間の体に戻るはずだったわたしの意識が、ロボットの体の中にも残ってしまった。
 本来ならこれはあり得ないことだ。だってこのロボットは人の意識を再現するほどの性能をしていない。色々な感覚をロボットの体を通して人間が得られるというだけで、原理としてはラジコンに限りなく近いからだ。
 指示を出す脳は人間の側にしかなく、いまはその脳が人間の体を動かしている以上、さらにロボットの体が動かせるわけがない。
 そもそも、ここにわたしをわたしと認識している自己があるのがおかしい。意識が分裂したとしか思えない。
(わたしは……どうすればいい……?)
 いつまでこの状態が続くのか、見当も付かない。
 普段こうやって楽しむ時、わたしは時間が経てば自動的に意識がロボットに移るようにしていた。
 そうして自分の拘束を解き、後片付けをしてから、再び自分の体に戻ってシャワーを浴びるなどの後始末を行う。
 向こうの意識がこっちに移って来た時、ここにいる「わたし」はどうなるのだろう。
 記憶や意識が統合される、というのが一番ありえそうだけど、本来存在し得ない「わたし」は消えてしまうのかも知れない。
 それは、ぞっとする予想だった。

 わたしは確かにわたしとしてここに存在する。消えたくない。

(ど、どうしたらいいの……?)
 もう一度わたしの意識がこちらに移って来ないようにするには。
 わたしはベッドの上で脳天気に快楽を貪るわたしを見た。
 その額には、ヘッドバンドが巻かれている。ヘッドバンドは不自由な体で暴れた程度では外れないけど、第三者の手なら取り外すのは簡単だった。
 ロボットに喉を鳴らす機能はないのだけど、ごくり、と唾を飲み込む感覚を覚える。
 それを行うことで、わたしがどうなるのかはわからない。
 もしかすると、取り返しのつかないことになる可能性は否定できない。
 それでもわたしは「わたし」であるために。

 ベッドで寝ているわたしの頭から、ヘッドバンドを取り外した。


つづくかもしれない

箱詰倶楽部の福箱詰


 福袋、それはお正月の風物詩。
 店によっては袋と言いつつ箱だったりすることもあるけど、そんな細かいことはどうでもよく、ちょっとお得にお高いものがランダムで手に入るチャンス、ということで日本人が大好きな風習だ。
 もちろんランダムだから好みじゃないものがたまに混じっていたりはするけど、その辺りも含めて福袋の醍醐味と言える。
 だから、いつもお世話になっているあの『例の倶楽部』で福箱が販売されると聞いた時、一も二もなく予約したのは確かだ。
 まさか、まさかとは思うけど、ひょっとしたら、という気持ちがあったのは否定しない。
 常識で考えたらありえないけど、あの倶楽部ならそういうことをやってくれるんじゃないかなという期待はあった。
 けれど、そのまさか、まさかじゃないか。

 本当に、箱詰めの『それ』が送られてくるなんて思わないじゃないか。

 僕はごくりと生唾を飲み込んだ。それを前に、そうすることしかできなかった。
 家に届いた時から、何かやばい気はしてたんだ。倶楽部専属の配送屋が届けに来たのもそうだし、四人がかりで運んできたのもそうだ。
 そしてなにより――わざわざ部屋の中まで運び込み、台座と共に置いていった段階で、そういう予感しかしなかった。
 一人暮らしの部屋には大きすぎる荷物。はっきりいって邪魔だけど、最低限の寝床と行動スペースは確保できていたので、まあ、問題ないといえば問題ない。
 そんな些細なことは置いて、僕の興味はそれ自体に釘付けだった。
 ついでにとばかりに置いていかれた小さな――といっても本体に比べればという意味で、十分ダンボールとしては大きい――箱も気になるが、本体の異様な存在感に、僕は本体から開けないわけにはいかなかった。
 金属製のパイプを台形に組んだ台座は、下部にゴムが貼ってあり、容易なことでは動きそうにない。
 設置していった作業員にも、なるべく動かさないように言われている。
 もしも緊急で動かさないと行けなくなった時は、動かしにきてくれるのだという。
 その台座の上に置かれた本体は、見た目だけ見ればただの寝かせた長方形の箱だ。台座で腰の位置の高さになっているけど、賽銭箱、という表現が一番わかりやすいかもしれない。
 材質は金属、鉄やアルミのような銀色だけど、触れてみた感じそのいずれでもなさそうだ。ヒンヤリしているかと思ったけど、思ったより冷たい感じはしなかった。
 箱の前後には『2019年 福箱』の文字がスタイリッシュな文字で刻印されている。こういう単なる装飾にも無駄に凝る感じはあの倶楽部らしい。
 そして上面、賽銭箱で言えばお金を入れる面は四隅がネジ止めされたフタになっていて、かなり厳重に閉じられている。フタも金属のような材質でできているようだから相当重いのではないだろうか。
 さらに、長方形の箱の中でも一番小さい面、左右の面には、なにやら複雑な切り込みのようなものが入っていた。
 向かって左側の側面は中心より少し上あたりに鍵穴が開くような形、反対側、右側の側面は潰れた円のような形に開くようになっているようだ。
 下側はそういった切り込みはなく、のっぺりとしている。ただ、何やら穴が空いていた。なんの目的かはわからないが、親指が入りそうなくらいの太さだ。試しに指を突っ込んでみたが、すぐに指先がフタのようなものに押し返されてしまった。
(さて、と……ここからどうすればいいのかな)
 上部のフタを開けてみようにも、止めてあるネジの頭は変わった形をしていて、普通の工具では開きそうにない。
(……ということは)
 僕は同時に届けられたもう一つの福箱を見る。恐らくはこっちの箱に開けるための工具や、この箱の説明などが入っているのだろう。
 段ボール箱はほどよい重さで、一般的な体格の僕でも持ち上げることが出来る程度だ。
 どっしりと重い感じは中身が詰まっているようで、工具一個、説明書一冊だけということはなさそうではある。
(ほんと、何が入っているんだろ……)
 半ば中身は予想できているのだけど、心臓のドキドキが止まらない。まさかという気持ちと、きっとそうだという気持ちが交錯している。
 心を落ちつかせながら、段ボールの蓋を開く。すると、想像通り箱の中には工具が入っていた。それは予想通りだったのだけど、納め方には意表を突かれた。
 段ボールの中には一回り小さい段ボール箱が入っていて、その蓋の上に工具らしきものだけがテープで貼り付けられていたのだ。
「……これは……なるほどそういうことか」
 もう一回り小さな箱を開ける前に、工具であの巨大な金属の箱を開けてみろという意図だろう。演出が凝っている。
 これはいよいよ、そういう内容物だという期待が高まった。
 僕は急いで、金属の箱の蓋の四隅にあるネジを外していく。くるくると小気味よくネジを外して、蓋に手をかける。この段に至っても、僕はまだ期待半分不安半分だった。もし中身がそうだとしたら、そうだとして。
 それをどう扱うべきなのかは難しい問題になりそうだったからだ。
 結論から言って、扱いに迷うようなことはなかった。
 なぜなら――蓋を開けた先には、もう一枚透明の蓋が待ち構えていたからだ。その蓋はいま外した蓋と違って、外せそうな構造をしていなかった。ただ、物凄く頑丈に出来ているようで、割ったり砕いたりすることはできそうにない。
 けれど透明だから中身は見える。中身を見た僕は、様々な意味で圧倒されてしまった。

 最初、それは黒い塊にしか見えなかった。

 箱の中に窮屈に押しこめられたそれは、明らかに人の姿をしていた。ただ、綺麗に四角に納められているので、一見しただけでは人に見えなかった。
 よくよく見れば、人間が箱の中に窮屈に押しこめられているのだということがわかる。
 体勢は正座を基本として、足首がお尻の横に来るように少し崩した状態だ。お尻を床に着ける、俗に女の子座りと呼ばれる姿勢。その状態で、その人は上半身をべったりと前に倒していた。頭頂部が箱の底面に突くほど身体を折り畳んでいるので、人間の身体とは思えないほど平べったくなっていた。
 身体が硬い男性には取りづらい体勢だし、あの倶楽部の客層から考えても、たぶん、女性だろう。
 女性だと断言できなかったのは、箱に詰められた人の身体が、ほぼ全てラバーに覆われていたためだ。
 全身を包むラバースーツ、頭部を覆う全頭マスク、手や足の先までしっかり覆われていて、性別を判断できる要素がおおよそ全て隠されていた。胸が膨らんでいるかどうかは、彼女の体勢が問題でわからない。
 お尻や肩の丸みからすると女性っぽいけど、最近の男性の中にはどう見ても女性にしか見えない人もいるし、それだけでは断言が出来なかった。
 とりあえず推定彼女としておく。
 その体格にぴったり合わせたのだろう箱は、それだけで彼女の自由をほぼ完全に奪っていたけど、彼女に施された拘束はそれだけではなかった。
 まず、足首。分厚い金属製の枷のようなものがかけられていて、その枷は金属製の箱と一体化している。ねじ穴も見当たらず、そこから一ミリも動かせそうにない。
 自由になりうる両手は、アームバインダーというものによって一本の棒のように身体の背面で固定されている。その先端は丸くなっていて手先の動きは完全に封じられていた。アームバインダーの先端には金属の輪っかがあって、お尻側の箱の壁面に繋がっていた。
 また、ハッキリとは見えないが、なにやら口には口枷みたいなもの、首には無骨な首輪らしきもの、腰には金属で出来たパンツのようなものが装着されているようだった。

 拘束されて箱詰めにされた人間が、目の前にいた。

 そうじゃないかと期待はしていたのだけど、実際こうしてそれが現実になると改めて圧倒されてしまう。
 さすがは箱詰倶楽部。福箱に全力だった。
 僕はあの倶楽部の会員であるが、箱詰めになりたいのではなく、箱詰めされた人を見るのが好きだった。
 そういうものに理解のある彼女がいたら、やってみてもらっていただろうけど、あいにく僕にそういういい人はいない。
 だからこれまで、箱詰倶楽部の活動を見学したり、販売される動画を購入して過ごしてきた。倶楽部で福箱が販売されるというアナウンスがあったときは、きっと基本的にはそういう動画とか写真の詰め合わせになると思っていた。
 でも、もしかしたらその福箱の中に、箱詰めされた会員が含まれているんじゃないかと、そう期待していた。
 僕のその予想は見事に的中したことになる。福箱を購入した人全員がこんな福箱を受け取っているわけはないし、僕はめちゃくちゃ運が良かったのだろう。
 興奮が隠せない。
(でも……このあとどうしたらいいんだろ……普段の見学とか動画と違って、思う存分見れるのはいいけど……)
 福袋はそれなりの値段で購入したけれど、当然人身売買に値するような値段ではないし、箱詰めにされている彼女も会員のはずだから、そんなことはできないだろう。
 時間的な期限があるはずだった。
 そもそも、そんなに長期間箱詰めにしっぱなしにしたら彼女の体が保たないだろう。
 人形なのだとしたらその辺りの問題は解決するけど、さすがにここまで大掛かりなことをしておいてそれもないはず。よくよく彼女を見ていると、呼吸によってか微かに体が上下しているようだし。
 生きている人間なら、メンテナンスは必要だ。
 僕は段ボール箱の中に詰められていた、もう一つの段ボール箱を開いて、中を見てみた。
 その中には、様々な道具と共に、一番上に僕の求めるものがあった。
「マル秘取扱説明書……マル秘って」
 わざとらしくデカデカと赤文字で書かれたそれを見て、思わず笑ってしまった。ちょっと男心がくすぐられてしまう。
 中を開くと、まず前文として箱詰倶楽部の社長の挨拶が載っていた。
『いつも箱詰倶楽部を御利用ありがとうございます。特別版福箱のご当選、おめでとうございます! すでに本体はご覧になられましたでしょうか? もしかすると人形なのではないかと誤解していらっしゃるかもしれませんが――』
 なにげに考えていたことを言い当てられて思わずびくりとする。
『無論、人形などではございません! 倶楽部会員のひとりでございます。参考として普段の様子を撮影した写真を同封しております』
 そこまで読み進めた時、説明書の中に挟んであった写真に気づいた。手から伝わってくる感覚で、何か栞みたいなものが挟まっていると思ってたけど、どうやらこれがその写真のようだ。それを取り出してみる。
「……マジかよ」
 思わず、その写真に映っている人と、箱の中に入っている黒い塊のようなものを見比べてしまった。
 写真には、すごく健康的で溌剌とした様子の女性が映っていた。
 それも、かなり若い。下手したら大学生だ。まさか高校生ということはないと思うけど。
 テニスをしているところを撮ったもので、汗を流して真剣にラケットを振るっている。
 顔立ちもかなり整っていて、とてもこんな変態的なプレイをするようなタイプには見えない。男性から引く手あまただろうに。
 こんな冴えない男のところに、箱詰めにされて送られてきているなんて。
 箱を覗き込んで見ると、そこには黒いラバースーツに全身を包まれ、徹底的に拘束されて身動ぎひとつにも苦労しそうなほど、箱詰めされた肉体があった。
 この写真のスポーティな女性が、この黒い塊になっている。
 写真に映っている人物が本当に箱の中に入っているのかという保証はなかったけど、想像するとギャップでますます興奮する材料になる。ズボンの中で痛いほどあれが反応しているのを感じていた。
 さらに社長の挨拶文を読んでいく。
『本当は差し上げたいところですが、さすがに弊倶楽部でも人身売買を行うわけには参りませんので、一時的な貸し出しということになります。当人の承諾は得ておりますので、ご安心ください。期限は一週間となります』
「一週間……! ずいぶん長いなぁ」
 そんなに長時間閉じ込め続けて、大丈夫なんだろうか。
『なお、メンテナンスの方法や、取り扱い方、スキンシップの取り方などは、すべてこの本に書いてあります。大事に扱ってくださいますよう、よろしくお願いいたします。それでは今年も箱詰倶楽部をよろしくお願いいたします』
 前文はそれで全部だった。説明書をぺらぺらと捲って見たところ、あの箱には色々と機能があり、それを使うことで彼女の健康を維持できるようだ。
 とりあえず一通り読もうと思ったけど、そのうちの一つの説明が目に入った。
 僕は彼女の入った箱に近づき、前面側の板に触れる。少し確かめて見ると、説明書通り、その板がパカリと外れた。天板と同じで、板の先にはもう一つ透明な壁があり、彼女本体に触れることはできなかったけど、箱詰めされた彼女の姿が横からも見れるようになった。
 上からは見えなかった部分が、はっきり見える。
 目立つのは俯いていた顔だろう。上からだと全頭マスクを被っていることしかわからなかったけど、横から見るとどうなっているのかはっきりわかる。
 まず、目はアイマスクのようなもので塞がれていた。分厚いクッションのようなものが目を覆っているので、ほとんど光も感じられないんじゃないだろうか。
 さらに口は口枷で塞がれているのは、上から見てもわかっていたけど、横から見るとその口枷がどんな形状なのかはっきりわかった。
 いわゆる開口具というものだ。顎から鼻先までしっかりラバーマスクで覆われているのだけど、口をギリギリまで開いた時の大きさの穴が中央に開いている。その穴は湯船の底にあるような、ゴムの栓で塞がれていた。本来なら、その栓を抜いたあと、男のものを突っ込んで強制的に奉仕させるための仕組みだろう。
 箱詰めにするだけならそんな機能は要らないはずだから、おそらくまだ秘密があるはずだ。
 その機能の追求はあとにして、まずは彼女の横姿をじっくり堪能する。
 折り畳まれた彼女の体。その見事な流線型を保った彼女の、ラバーに包まれた胸もまた、はっきりとは見えないが窮屈に押しつぶされているのがわかって、それだけでも興奮した。
 普段の写真を見たときから感じていたけど、結構な大きさだ。この大きさだと結構胸が圧迫されてかなり苦しいのではないだろうか。実際のところがどうかはわからない。
 ともかく、そんな箱詰めの彼女を眺めつつ、説明書を読み始めた。

 なんとも最高の正月になったものだ。


箱詰倶楽部の福箱詰 おわり

箱詰倶楽部の聖夜詰

 その一年に一度の特別な日、私がいつも通っている箱詰倶楽部もまた、特別な装いになっていた。
 いつものように建物のロビーに入ると、広いホールになっている場所に、大きなツリーが設置されていた。きらびやかに飾り付けられ、四方八方からライトアップされたツリーの下には、クリスマスプレゼントの大きな箱が置かれている。
 一見どこにでもありそうな装飾だけど、この倶楽部のことだから、きっと何かあるのだろう。そう思って少し眼をこらしてみると、華やかなラッピングに包まれていると思われていた箱の表面が、妙につるつるしているのに気付いた。十字にかけられたリボンは本物みたいだけど、ラッピングに見えたものは、箱の表面に映し出された映像のようだ。
 私は受付に行く前に、少しその展示物に近づいてみる。近づくと余計に違和感が際だってきた。
(これ……箱の表面に映像が映し出されてるわけじゃ無いわね……)
 プレゼントボックスのすぐ傍まで近づいた私は、その箱に向けて手を伸ばす。
 すると、ライトの光が遮られ、箱に向けて影を落とした。

 その影が落ちた部分から、箱の中が見えるようになる。

 驚いて手を引くと、再び箱は何の変哲もないプレゼント包装をされた箱になった。速くなった鼓動を感じつつ、どういう原理か理解した。
(な、なるほど……周囲から照らしてるのは、ライトであると同時にプロジェクターでもあるわけね……それを使って、箱にラッピングをしているように見せかけている、と。つまり――)
 私は再び手を伸ばして箱に触れる。やはり、ライトを遮った部分の包装が消え、中が見えるようになった。いかにもクリスマスプレゼントのような包装をしているような箱は、リボンを除いて、透明な箱だったのだ。
 そして、その透明な箱の中には、想像通りの物が詰められている。

 窮屈そうに身体を折り畳み、リボンのような拘束具によって縛られた女性がいた。

 一言でいうと、すごい体勢だった。
 全体的には、椅子に浅く腰掛けて背もたれに身体を預けているような体勢だ。
 ただ、床につけているお尻から腰にかけての部分が斜めになっているのか、特に不安定な様子はなく、安定しているように見える。彼女の身体の形に添うように箱の底が作られているのかもしれない。
 両手は後ろに回した上で交差しているようで、箱の隅に沿って手のひらが伸びているのが見える。縛られているかは正面から見てもわからないけど、縛られていなかったとしても、自分の身体と箱との間に挟まっていて、自由に動かせそうにはなかった。
 それだけならまだしも、私がすごい体勢と言ったのは、足の納められ方にあった。
 彼女は、自分の顎の下で両足の足首ふくらはぎを交差するような体勢で――私が同じ体勢を取れと言われても無理だろう――酷く身体の柔らかさを必要とするような体勢になっていた。
 彼女の両足は白いファーのついた薄くて赤いハイソックスに覆われている。その赤はとてもクリスマスらしかった。膝下までが赤く、そこから上は普通の肌色なので、赤い部分が×印描いていた。もしかするとクリスマスの「X」をイメージしているのかもしれない。
 それがクリスマスをイメージした体勢だとすると、彼女はとても可哀想だった。なぜなら、その体勢を取るためには、当然両足の形は決まってしまうからだ。
 彼女は無防備に股間をこちらに向けるような体勢になってしまっている。それはとても恥ずかしい体勢で、実際彼女はとても恥ずかしがっている様子だった。
 顎の下で足を交差させられている彼女は、自らの足が邪魔になって俯くことが出来ず、真っ赤になった顔をまっすぐ前に向け続けなければならなかった。
 一応この場所が会社のロビーだからなのか、ハイソックス以外の服を身につけていないわけではない。だけど、果たしてその服を、服のうちに入れていいのかは疑問だった。
 まず、まともな服ではないことは確かだ。彼女の晒された股間には、前張りのように四角い金属製の板のようなものが宛がわれていた。
 内側がどうなっているかはわからないけど、この倶楽部のことだ。前とお尻とそれから尿道を埋める突起が内側にあったとしても驚かない。
 むしろ箱詰めの間のお楽しみのために凶悪な形のものが入っていると考えた方が自然だろう。その前張りは全体が金色で、表面に「Merry Christmas」とメッセージが彫られていて、見た目はクリスマスらしい華やかなものだったけど、内側はさぞ凶悪な構造になっているに違いなかった。
 彼女が下半身に身に付けているのは、その金属の前張りと、ハイソックスのみ。箱詰めになっていなければ寒くて仕方のなさそうな格好だ。両足を交差した状態で固定しているのは、リボンのように見えるベルトの拘束具で、彼女自身がクリスマスプレゼントであることを示しているようだった。
 交差した両足が彼女の上半身を隠しているけど、上半身もそれなりの格好にされているみたいだった。
 まず、普通の服は一切身につけていない。乳房もほとんどが露わになっていて、股間と同じ金属の板のようなものが、乳房の丸みに合わせて張り付いている。
 まさかとは思うけど、その薄い板のような物に乳首を虐めるための仕組みがあったとしても驚かない。バイブくらいは仕込めそうだし。
 さらに、一番拘束が凄いのは彼女の首から上だった。
 まず、口を大きく開いた状態で固定する、緑色の開口具がある。開口具の奥でちらちら動いているのは舌だろうか。喉が渇きそうな状態だけど、箱の中に詰められているから言うほどではないのかもしれない。
 そして、その開口具のちょうど中心に垂れ下がるように、鼻輪に通された金色のベルがあった。少し揺れているのは、彼女が口で呼吸する際に空気がそこを通るからだ。耳を澄ませると、ちりんという涼やかなベルの音がほんの少しだけする。
 緑色の開口具は珍しいと思ったけど、その鈴があるおかげで意図は明白だった。クリスマスリースを模しているのだ。その下で交差する赤いハイソックスの「X」も合わさり、クリスマススペシャルと言ったところか。
 目隠しはされていなかったから、ばっちりと眼があってしまった。ゆでだこのように真っ赤になるのを見て、私は慌てて少し離れる。
 するとライトの光が箱を照らし、彼女の姿を隠してしまった。遠目から見れば、ただのクリスマスプレゼントの箱を模した飾りにしかみえない。
(……あれだけ透明度が高かったのに……投射できるのね)
 ただのプロジェクターでは、ガラスのように透明な物に映像を映し出すことは出来ない。つまり、なんらかの特殊な技術が使われているということだ。
 本当に相変わらず、この倶楽部は力を入れるところがどこか間違っている気がする。
(まあ、それを満喫しに来てる私がいえることじゃないか……)
 ツリーの下には他にもクリスマスプレゼントの箱がおいてあったけど、私は寄り道はそれくらいにして、受付の方へと向かった。

 私は箱詰めにされた者を見に来たのではなく、箱詰めにされにきたのだから。

 受付には、いつもの人が立っていた。ロビーをうろついていた私に声をかけることもなく、私の気が済むまで待ってくれていたのだ。
 彼女はいつもは、非常に真面目で有能そうな受付嬢なのだけど、今日は少し雰囲気が違った。
 というのも、イベントに合わせてか、いつもの制服ではなく、サンタ服を身に付けていたからだ。
 かなりきわどいミニスカと、明らかに布の面積が少ない上半身の服。にも関わらず両手と両足は丈の長い手袋とニーソックスに覆われている。そして、極めつけが白いふさふさのファーと、丸いボンボンが着いて、可愛さが強調されたサンタ帽を被っていた。
 なんともエロティックで、可愛らしい格好だった。彼女らしからぬ、とは思うけど、美人さんなので似合ってしまっているのがなんとも言いがたい。
 平静を心がけているようだったけど、酷く恥ずかしがっているのが真っ赤になった頬の様子から明らかだった。会社の方針には従わざるを得なかったのだろう。倶楽部の社長さんはひどくマイペースな方だと記憶しているので、押し切られたのかもしれない。
 受付嬢はカウンターの近くまで来た私に、いつもの丁寧なお辞儀をする。
「Merry Christmas.箱詰倶楽部へようこそ。本日はクリスマス限定イベントとして、愛しの方への『クリスマスプレゼント包装』および『輸送』を承っております」
 私はその言葉を聴いて、心臓がどくんと強く跳ねるのを感じた。

 今日はその『クリスマスプレゼント包装』をしてもらうために来たのだ。




 受付で必要な手続きを終え、私はいつものように箱詰プレイをしてもらう部屋に通されていた。
 慣れている私は、さっそく着ていた服を全て脱ぎ、ピアスや指輪といった装飾具も全てひとつの小さな箱の中に納めた。
「いつも当倶楽部をご利用ありがとうございます。コースは『クリスマス特別コース』、輸送先はご自宅ではなく、パートナー会員様のお宅でよろしいですね?」
 箱詰めにしてくれる従業員さんの確認に、私は頷いて応じる。激しく高鳴る心臓のせいで、上手く声が出なかったからだ。
 この倶楽部に私が嵌まるきっかけを作った彼とは、二人きりのクリスマスパーティを彼の家でする話はつけてある。驚かせるために箱詰倶楽部にお願いすることまでは言っていないけど、お互いの嗜好はよくわかっていることだし、半ば予想されてはいるだろう。
 けれど、それも含めてのクリスマスパーティだから、きっと彼も楽しんでくれるはず。
 体調やこれから行う箱詰めプレイの内容の最終確認を手早く済ませ、ついにその時がやってきた。
「まずは『中身』のデコレーションから行います」
 もちろんプレゼントの中身は、私自身だ。
 手渡されたのは、ロビーで晒されていた彼女も身に付けていた、ハイソックスだった。片足ずつ、それを履いていく。全裸にハイソックスだけ身に付けるというのは、なんともおかしな状態で、なんだかとても恥ずかしかった。全裸の方が恥ずかしくないというのも変な話だけど。足先が覆われている分、余計にむき出しになっている股間や上半身の頼りなさが浮き彫りになってしまうのだ。
 続けて着るように促されたのは、肘の上くらいまで覆うグローブだ。これも白いファーがついている赤いものだった。ただし、材質が少し違う。
「これ……ラバー……?」
「はい。薄いものですが、ちょっと爪でひっかいたりした程度では破れません」
 私が感心しつつもグローブに腕を通していくと、その先端の形状が変わっていることに気付いた。普通のグローブなら指の形に分かれているが、これはわかれていない。手の先は少し膨らんでいて、押し込むようにすると手首のあたりがちょうど窄まっており、ぴったりと密着してくる。
 手の先は手刀の形に固定され、細かな作業は出来なくなってしまった。両手を使えば、マグカップに注いだコーヒーくらいは飲めるかもしれないけど。
 もう片方のグローブは自分では身に付けられないので、従業員さんに手伝ってもらって身に付ける。手の先が両方封じられてしまった。
「次は、こちらです」
 そういって彼女が出してきたのは、あの金属の板のようなものだった。流線型の形はどこにフィットするのか、はっきりとわかる。
 そして、あのロビーではわからなかった、身体に触れる部分の構造は、おおむね私の想像通りだった。想像通りでないとすれば。
「お、大きくないですか……?」
 身体の内部に差し込むと思われる突起物が、明らかに外国人のそれに等しいサイズの大きさと太さをしていたことだろうか。
 私は拡張プレイをしているわけではないので、そんな太く大きなものが入るのか非常に疑問だった。
「ご安心ください。こちら少々特殊な素材で出来ておりまして……」
 彼女は外に面する側の、板の流線型の部分を軽く指先で弾く。すると、どういう仕組みなのか、太く大きなものだった突起物がみるみるうちに小さく細くなり、私でも楽々入るであろう小さく細いものに変わった。
「このように小さくして挿入することが出来るのです。挿入後は、そこにある何らかの液体を吸収し、大きくなっていきます。一定の圧力がかかればそれ以上膨らまなくなりますので、ご安心ください」
 ただのゴム製の張り子かと思えば、とんでもないハイテク道具らしい。突起物の数からなんとなく理解していたけど、どうやら吸収する液体はなんでもいいみたいだ。腸内に関しては、先に浣腸までしてすっきりさせているから問題ない。
「失礼します」
 従業員さんは私の前に跪き、その突起物のある金属の板を私の股間に添える。慎重に突起物と穴の位置を合わせ、ゆっくりと挿入していってくれた。あらかじめローションか何かを馴染ませていたのか、あるいは私の方の準備が万全だったからか、あっさりと突起物が私の中へと入ってくる。
「ふぁ……っ、んっ」
 柔らかくも確かな存在感を持つものが私の中に差し込まれる。従業員さんは手を離しているのに、私の締め付ける力を利用して突起物は自然と私の中に入り込んできた。
「うひゃぁっ!」
 思わず飛び上がったけど、その勢いでさらに奥まで突起物が入り込んで来た。あまりの刺激の強さに伸びきった足が震える。
 気付けば、金属製の板が私の股間を覆っていた。傍から見ると金属の前張りをされているだけのように見えるけど、私自身の身体はみっちりと入り込まれている感覚があって、正直、気持ち良かった。
「ふぅ、ふぅ……っ」
「落ちつかれましたら、こちらを着けさせていただきます」
 そう言って従業員さんが示したのは、丸い金属の輪っかだった。金色の小さなベルがついていて、ふたつでワンセットだ。私が頼んだオプションである。
「おね、がいします……」
 私は恥ずかしい思いを堪えつつ、両腕を後ろに回し、胸を反らして彼女に身体を晒した。その輪っかを取りつける場所については、簡単に予想が付くだろう。
 それは、乳首に取りつけるものだった。
 乳輪を含め、ピンク色の綺麗さに密かな自信を持っている私の乳首は、ここまでの作業ですでにしっかりと硬くなっていた。
 従業員さんがそんな私の乳首を挟むように、金属の輪っかを装着する。
「ひぅっ……っ!」
 鋭い快感が脳天まで貫いた。悲鳴をあげそうになるのを、喉元で抑え込んだ。私のぷっくり膨らんだ乳首を、金属の輪っかが挟み込んでいた。絶妙な力加減で保持されていて、穴をあけているわけでもないのに、そう簡単には取れそうにない。
 少なくとも箱詰め状態の私が暴れた程度の動きでは取れそうになかった。
 もう片方の乳首も輪っかで挟んでもらい、装飾は完了。身もだえする度にチリンチリンとベルが鳴る。
(クリスマスっぽいから……と思ってお願いしたけど……これ、かなり恥ずかしい……!)
 股間のそれのように乳首を彩る案もあったんだけど、なんとなく股間とは別の方式で彩りたいなんて思ったのが良くなかったかも知れない。
 彼以外に見せる気はないけど、あのロビーで箱詰めになっていた人みたいに、他人に見られたら恥ずかしくて仕方ないだろう。
 乳首への刺激が落ちついたところで、次は首輪だった。赤い皮で出来たそれは、犬の首輪というよりは、チョーカーの方が近いかも知れない。クリスマスを意識したデザインなのは間違いないのだけど。しっかりと首にフィットして、彩りを加える。
 さらに拘束具はあって、鼻下から顎までをしっかり覆うタイプの口枷が嵌められる。口は開いた状態で、噛みしめて固定するタイプのものだ。中央は丸い円筒形に穴が空くようになっていて、栓を抜けばいわゆるフェラチオも出来るようになっている。
 今回の場合はその栓にメッセージカードが丸めて納めてあって、到着後彼に引き出してもらって私からのメッセージを読んでもらうつもりだった。
 あと、輸送中不意に声をあげられないようにするための処置でもある。
「最後に、こちらを被っていただきまして……うん。とても素敵なクリスマスプレゼントになりましたよ」
 可愛らしいサンタ帽を被せてもらって、『中身』の下ごしらえは完了。
 いよいよ、箱に詰められる時だ。
 私は身体が特別柔らかいわけではないので、ロビーにいた人のような体勢は取れない。
 だから、あまり無理のないような体勢をお願いしていた。
 まず、用意された箱の中に入り、底にあぐらを搔いて座る。箱の大きさはかなりギリギリで、少し膝が浮いてしまうくらいだった。両手は胸の前で交差するようにして、自分の肩を抱くような形にする。
 そして、背中を丸め、膝と膝の間に身体を納めるように縮こまる。
「蓋を閉めますね」
 背中からうなじのあたりを圧迫されるように抑え付けられ、少し息が苦しいというくらいで固定された。ぎゅっと、身体を縮ませてじっとしていると、自分の鼓動しか聞こえない、いつもの箱詰めの空間が完成した。
 私は息を浅く速く繰り返しつつ、しばし箱詰めの快感を堪能する。あそこが濡れ、それを吸収した突起が身体の中で少し大きくなったことを感じる。
 喜んでくれるであろう彼の顔を想像しながら、彼が箱を開けたときには笑顔で顔をあげようと心に決めつつ、幸せな気持ちで瞼を閉じた。

 その後、『クリスマスプレゼント』を受け取った彼がどれほど喜び、そして二人がどれほど愛し合ったかは――語るまでもないだろう。


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